恋愛のディスクール 映画と愛をめぐる断章



かつて、淀川長治は、「映画には正直にその国の体質まで感じ取れる」と語った。「かんたんに決めつけるのはいけないが」と一息つきつつも、「日本映画は人生。アメリカ映画は生活。イタリア映画は人間臭。イギリス映画は風刺、皮肉。」、そして、もちろんのこと「フランス映画は恋。」であると。アンスティチュ・フランセ東京で開催される「恋愛のディスクール 映画と愛をめぐる断章」は、誰もが納得するに違いないの淀川長治の洞察を、映画史の豊穣を通じて、大胆かつ緻密に証明するのみならず、「愛の自由、自由な愛」(ドミニク・パイーニ)の善き効能を、スクリーンを超えてわたしたちの日常にまで行き渡らせてくれる、そんな予兆に満ちた特集上映である。ドミニク・パイーニ氏、三浦哲哉氏のレクチャー、ジャンヌ・バリバールとラリユー兄弟のゲスト登壇も大いに楽しみだが、「イタリア映画祭」や「フランス映画祭」とも被らず、3ヶ月の長期に亘ってほぼ毎週末上映される開催日程も配慮が行き届いて映画ファンには嬉しい。ロラン・バルトの『恋愛のディスクール』を片手に、「世界を変える」ためというより、「心の中にあるもの」を奮い立たせるべく通いたい特集上映である。
(上原輝樹)
2016.4.13 update

愛の自由、自由な愛
アメリカ映画をはじめとして世界中の映画が恋愛関係や官能的な誘惑を脚本のひとつの要素として選ぶことが多いのに対して、フランス映画は恋愛への熱狂、服属に自律的な役割を与えてきた。
啓蒙の世紀、つまりフランス革命が起こった18世紀に、政治的自由が獲得されたが、別の領域においても自由が獲得された。生活風習における自由、恋愛の自由、つまり宗教的な原則(子供を作るため、結婚のためなど)に従う義務から解放され、近代的な恋愛の概念が生まれたのだ。それは、この時代のフランス文化の特徴となる「自由思想(リヴェルティナージュ)」とおおいに結びついており、この思想をもとに、文学や演劇、そして映画は、恋愛を中心に据えて、世界観を定義、構築するようになる。
フランス文化におけるこの特徴を語る上で、世代もスタイルも異なる何人かの人物たちに集ってもらおう。その人物たちとは、5人の映画作家、サッシャ・ギトリ、エリック・ロメール、ジャック・リヴェット、ラリユー兄弟、そしてひとりの哲学者ロラン・バルトである。この一見なんの繋がりがないように思える6名の名前を挙げて、微笑む方もいらっしゃるかもしれない。しかしながらサッシャ・ギトリの『夢を見ましょう』の中で愛する女を待つ男のあの有名なモノローグと、ロラン・バルトの著書『恋愛のディスクール』の中でももっとも美しい瞬間である「待機」と題された章をどうしたら結び付けずにいられるだろうか?
ロメールの映画は、逆説的にもブレーズ・パスカルのピューリタニズムを取り入れた、恋愛の駆け引きの想像からすべてが構想されている。ラリユー兄弟の快楽主義はロメール的洗練さとはかけ離れてみえるかもしれない。しかしながら『描くべきか、愛を交わすべきか』や『パティーとの二十一夜』もまた相手を魅了し、征服するための演出なのだ。
サッシャ・ギトリ、エリック・ロメール、ジャック・リヴェット、アルノー&ジャン=マリー・ラリユー、ロラン・バルト、そして新世代の映画作家たちが、それぞれ独特の方法で「フランス式」恋愛映画の歴史へとわたしたちを誘ってくれだろう。
ドミニック・パイーニ (映画批評家、元シネマテーク・フランセーズ館長)
プログラム協力:ドミニク・パイーニ、三浦哲哉
特別ゲスト:ジャンヌ・バリバール、ジャン=マリー&アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
第一章 映画と/(は)愛  三浦哲哉セレクション
第二章 追悼:ジャック・リヴェット ジャンヌ・バリバールとともに
第三章 エリック・ロメール:偶然と駆け引きによる恋のコメディ
第四章 フランス的恋愛ドラマ ドミニク・パイーニ セレクション
第五章 サッシャ・ギトリ:言葉による恋愛
第六章 アルノー&ジャン=マリー・ラリユー:女性における欲望

本プログラムは下記の劇場・映画祭とも提携しております。
ジャック・リヴェット追悼特集:早稲田松竹映画劇場(夏~秋開催予定)、フランス映画際2016 6月24日(金)~27日(月)
エリック・ロメール監督特集:角川シネマ有楽町
ドミニク・パイーニ講演「ロラン・バルトと映画」東京大学

パンフレットのダウンロードはこちらから

【イベント開催概要】
日時:2016年4月15日(金)~7月9日(土)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
料金:一般 1,200円 学生 800円 会員 500円
URL:http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1604150709/
主催:アンスティチュ・フランセ日本
助成:アンスティチュ・フランセパリ本部、ユニフランス・フィルムズ
協力:マーメイドフィルム、ユニフランス、東京大学森元庸介研究室
アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム オフィシャル・パートナー:CNC笹川日仏財団、TV5 MONDE
上映スケジュール
4月15日(金)
19:00
ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー
(84分)
4月16日(土)
11:30
ジャック・リヴェット、夜警
(125分)

14:30
セリーヌとジュリーは舟で行く
(185分)
18:30
彼女たちの舞台
(160分)




4月17日(日)
11:30
ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー
(84分)
14:00
恋ごころ
(155分)

17:30
ランジェ公爵夫人
(137分)
上映後、ジャンヌ・バリバールを囲む会あり(司会:松井宏)
4月23日(土)
13:00
サンライズ
(95分)


15:30
やさしい人
(100分)

18:00
アタラント号
(89分)
上映後、三浦哲哉による講演会あり


4月24日(日)
11:00
彼らについて
(86分)


13:10
やさしい人
(100分)

5月13日(金)
19:00
愛のうた、パリ
(95分)


5月14日(土)
14:00
カプリス
(100分)


16:20
女の子が好き
(92分)
18:30
彼らについて
(86分)


5月15日(日)
12:30
アバンチュールのとき
(105分)

15:00
ふたりの友人
(102分)
17:30
美しいひと
(97分)


5月20日(金)
19:00
ふたりの友人
(102分)


5月21日(土)
13:30
美しいひと
(97分)


16:00
愛のうた、パリ
(95分)
18:30
昼顔
(101分)


5月22日(日)
15:00
カプリス
(100分)


17:30
昼顔
(101分)
6月10日(金)
15:00
エリック・ロメール、確かな証拠 第一部
(60分)
16:50
マエストロ
(85分)
19:00
我が至上の愛~アストレとセラドン~
(109分)
6月11日(土)
13:00
パリのランデブー
(100分)


15:30
木と市長と文化会館
(111分)

18:30
美しき結婚
(100分)



6月12日(日)
12:30
美しき結婚
(100分)


15:00
木と市長と文化会館
(111分)

17:30
マエストロ
(85分)



6月17日(金)
14:30
エリック・ロメール、確かな証拠 第二部
(60分)
16:20
我が至上の愛~アストレとセラドン~
(109分)
19:00
パリのランデブー
(100分)



6月18日(土)
12:00
デジレ
(94分)


14:30
あなたの目になりたい
(101分)

17:00
夢を見ましょう
(86分)
上映後、ドミニク・パイーニによる講演会あり
6月19日(日)
13:00
デジレ
(94分)


15:00
夢を見ましょう
(86分)


17:30
カドリーユ
(95分)



6月29日(水)
19:00
あなたの目になりたい
(101分)

7月1日(金)
19:00
運命のつくりかた
(121分)


7月2日(土)
13:30
キャット・ピープル
(73分)

15:50
描くべきか愛を交わすべきか
(100分)

18:15
パティーとの二十一夜
(115分)

上映後、アルノー&ジャン=マリー・ラリユーとのティーチインあり
7月3日(日)
13:20
描くべきか愛を交わすべきか
(100分)

15:30
フィデリオ、あるいはアリスのオデッセイ
(97分)
17:40
世界の最後の日々
(130分)






7月8日(金)
16:00
世界の最後の日々
(130分)


19:00
三つのこころ
(106分)


7月9日(土)
13:20
フィデリオ、あるいはアリスのオデッセイ
(97分)
15:50
運命のつくりかた
(121分)


18:30
三つのこころ
(106分)






 

)の付いた回は無料となります。
作品ラインナップ

第一章 映画と/(は)愛  三浦哲哉セレクション
女優リリアン・ギッシュの美しさに恋い焦がれる想いがカメラに乗りうつって「クローズ・アップ」が生まれ、恋人同士の切ない情熱を表現するためにこそ「並行モンタージュ」や「ラストミニッツ・レスキュー(危機一髪の救出)」の技法が要請された。恋愛こそが、映画を発展させる動因だった。ヴィゴの『アタランタ号』のあの神々しい水の中の恋人の幻視の場面や、ルノワールの『ピクニック』のブランコの場面を伝説的な起点として、フランスにおいてこそ、恋愛にどのようなかたちを与えうるかという問いが、現在に至るまで、多種多様な主題や文体や様式を豊かに開花させてきた。「恋愛のディスクール」への注視から真の「映画表現史」が紡がれる。
三浦哲哉(映画批評家)

『サンライズ』(L'Aurore de F.W. Murnau)
アメリカ/1927年/95分/モノクロ/16ミリ/サイレント・日本語字幕
監督:F・W・ムルナウ
出演:ジョージ・オブライエン、ジャネット・ゲイナー、マーガレット・リヴィングストン

田舎に住む純朴な夫は都会から来た女の虜になり、その女にそそのかされて妻を湖で殺そうとする。夫はすんでのところで思いとどまるが、怯えた妻は逃げ出し、路面電車に飛び乗る。夫はなんとか追いつき、車中で仲直りしたふたりは初めての大都会で心弾む一夜を過ごし故郷に戻る。だが、小舟で田舎に帰る途中、嵐のため小舟が転覆し、妻は行方不明になってしまう......。「世界一美しい映画」(フランソワ・トリュフォー)
『アタラント号』(L'Atalante de Jean Vigo)
フランス/1934年/89分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:ジャン・ヴィゴ
出演:ディタ・パルロ、ジャン・ダステ、ミシャル・シモン、ルイ・ルフェーブル

ル・アーブルとその上流の田舎町を往復している艀アタラント号の若き船長は美しい妻を迎える。しかし新妻は都会の誘惑にかられ、パリに近づいた折にこっそり抜け出してしまう。怒った夫は彼女をおいて出航するが......。熱に浮かされたように官能的で詩的なジャン・ヴィゴの傑作。離れていながら、恋焦がれ、悶え合うふたりの平行モンタージュはまさに映画のみが描き得る愛のシーン。
『やさしい人』(Tonnerre de Guillaume Brac)
フランス/2013年/100分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ

フランス・ブルゴーニュ地方、まもなく冬を迎える小さな町トネール。ミュージシャンのマクシムは父親の住む実家に戻ってくる。人気の盛りは過ぎ、若さはもはや過去のもの。しかし人生にはときに素晴らしい贈り物が差し出される。マクシムにはそれは若い恋人だった。だがそれは、かつてない無情な速さで失われてしまい、マクシムは人生を揺るがしかねない危うい行動にでる。現在のフランス映画で愛を絶望的に求める男を演じさせたら一番のヴァンサン・マケーニュがここでも魅力を十全に発揮している。
第二章 追悼:ジャック・リヴェット ジャンヌ・バリバールとともに
2016 年1月29日、ヌーヴェルヴァーグでもっとも秘密に包まれた映画作家ジャック・リヴェットがこの世を去った。リヴェットが好んだゲームや陰謀、パリの散策は、もちろん恋愛の駆け引きとも結びついているだろう。傑作『セリーヌとジュリーは舟で行く』のふたりのヒロインがマルキ・ド・サドのヒロインたち、ジュリエットやジュスティーヌの後継者であると言えるように!
ドミニク・パイーニ

『セリーヌとジュリーは舟で行く』(Céline et Julie vont en bateau)
フランス/1974年/185分/35ミリ/カラー/英語字幕
監督:ジャック・リヴェット
出演:ジュリエット・ベルト、ドミニク・ラブリエ、マリー=フランス・ピジェ、ビュル・オジエ

パリの公園のベンチで図書館員のジュリーは魔術の本を読んでいる。そこを手品師のセリーヌが走り抜け、サングラスとスカーフを落とし、それをジュリーが拾って追いかける。
この魅力的な開幕で、二人の主人公は「不思議な国」へと入り込んでいく。

「リヴェットが真に主人公に女性を迎えるとき、それは必ずふたりでなくてはならない。ひとりは空間を捻じ曲げる魔術師、もうひとりは時間を司る記憶の番人。ふたりの分身が交わるとき70年代リヴェットの冒険が始まる。」松井宏
『彼女たちの舞台』(La Bande de quatre)
フランス/1988年/160分/35ミリ/カラー/日本語字幕
監督:ジャック・リヴェット
出演:ビュル・オジエ、ブノワ・レジャン、ロランス・コート、フジリア・デリバ、イネス・デ・メディロス

厳しい教えで有名なコンスタンス・デュマの演劇学校に通う4人の若い女性、アンナ、クロード、ジョイス、ルシアはパリ郊外の屋敷で一緒に暮らしている。彼女たちは、かつての同居人セシルが謎に満ちた男との恋愛で危険な目にあっていると耳にする。屋敷と演劇学校の間を往来しながら、彼女たちは演劇、人生、嘘、そして愛について学んでいく。

「近くからでも遠くからでも、演劇を扱う主題を選べば、映画の真実へ入ることになる。なぜならそれは嘘と真実を主題とすることであり、まさにそれこそが映画の主題だからだ。映画とは必然的に虚構の手段によって真実を探求するアートである。」ジャック・リヴェット、「カイエ・デュ・シネマ」
『恋ごころ』(Va savoir)
フランス/2001年/155分/カラー/35ミリ/英語字幕
監督:ジャック・リヴェット
出演:ジャンヌ・バリバール、セルジオ・カステリット、ジャック・ボナフェ

3年前に恋人と別れ、パリをあとにしたカミーユは、いまではイタリアの劇団の看板女優で主宰するウゴーとの恋も順調。しかし公演のために久々にパリに戻って来ると、舞台にも身が入らず、どこかソワソワ。思い切って、3年前に別れた恋人ピエールのもとを訪ねるのだが......。リヴェットが新しいミューズにジャンヌ・バリバールを迎え、小粋にして軽妙に描いたラブ・コメディ。

「『恋ごころ』の夜の撮影時、朝の8時まで続く日でも一番元気だったのはジャックでした。彼がなにか指示を出してくれる度に、『30代の女性の心の中で起こっていることをなぜこんなに分かるのかしら』と思ったものです。」ジャンヌ・バリバール
『ランジェ公爵夫人』(Ne touchez pas la hache)
フランス/2008年/137分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:ジャック・リヴェット
出演:ジャンヌ・バリバール、ギヨーム・ドバルデュー、ビュル・オジエ、ミシェル・ピコリ
原作:オノレ・ド・バルザック

パリの華やかな舞踏会。ランジェ公爵夫人は、モンリヴォー将軍と出会い、激しい恋心を抱く。彼女の思わせぶりな振る舞いに心揺さぶられたモンリヴォー将軍は、逆に彼女を誘惑するという手段に出る。それを機に恋に目覚めた公爵夫人だったが......。

「もし映画がうまくいっていたら、それはひとえにジャンヌとギヨームというスタイルの異なるふたりの俳優の関係が、まさにバルザックの原作のふたりの登場人物のようにうまく機能していたからだ。」ジャック・リヴェット
『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』(36 vues du pic Saint-Loup)
フランス/2009年/84分/35ミリ/カラー/日本語字幕
監督:ジャック・リヴェット
出演:ジェーン・バーキン、セルジオ・カステリット、アンドレ・マルコン、ジャック・ボナフェ

夏の巡業の前夜、小さなサーカスの創業者でありオーナーが突然死去する。シーズンを乗り切るために、団員たちは故人の長女ケイトに参加してもらうように頼む。ケイトは15年ぶりに一座に戻ることを決意。そんな時、ひょんなことから彼女はイタリア人のヴィットリオと出会う。ジェーン・バーキンを再び迎え、明るい光線のもとに軽妙なタッチで描かれたジャック・リヴェットの遺作。

「リヴェットは演劇についての彼の主題を素晴らしい方法で本作反響させる。小品だが、奥深い作品である。(...)リヴェットの映画術がここまで率直に見せられたことはなく、そのことがとりわけ感動的である。」ジャン=マルク・ラランヌ
『[現代の映画作家シリーズ]ジャック・リヴェット、夜警』(Jacques Rivette, le veilleur (Cinéastes de notre temps) de Claire Denis)
フランス/1990年/125分/カラー&モノクロ/ビデオ/英語字幕・作品解説配布
監督:クレール・ドゥニ
出演:ジャック・リヴェット、セルジュ・ダネー、ジャン=フランソワ・ステヴナン

かつて同シリーズでルノワールを撮ったように、今度はリヴェット自らが撮られる対象となり、作家とモデルの探求を行うドキュメンタリー。パリという都市、自らの作品、あるいは生...、その現在と過去の亡霊を守護するふたりの共謀者リヴェットとダネー。そして来るべき次回作(『美しき諍い女』)の製作が予告される。
第三章 エリック・ロメール:偶然と駆け引きによる恋のコメディ

(C)1982 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.
『美しき結婚』(Le Beau mariage)
フランス/1982年/100分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:エリック・ロメール
出演:ベアトリス・ロマン、アンドレ・デュソリエ、アリエル・ドンバール

連作「喜劇と箴言」の第2作目。パリで美術史を学ぶサビーヌは画家で妻子持ちの愛人シモンとの関係を清算し、結婚することを決意する。親友のクラリスは従兄弟で弁護士のエドモンを紹介する。サビーヌは彼との結婚を決意するのだが、多忙なエドモンがなかなか電話に出てくれない......。

「ロメールの作品は、なによりも登場人物によるシナリオの作成を物語っている。登場人物はそのシナリオの中に世界を折り畳んでみせる。シナリオと現実の対峙、それがまさにすべてのロメール作品で問われ続けている問題だ。」ジャン=マルク・ラランヌ
(C)1993 LA C.E.R.
『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(L'Arbre, le Maire et la Médiathèque)
フランス/1992年/111分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:エリック・ロメール 出演:パスカル・グレゴリー、アリエル・ドンバール、ファブリス・ルキーニ、クレマンティーヌ・アムルー

パリ郊外の町の市長ジュリアンは野外劇場やプールも備えた文化会館の建設を目論んでいるが、恋人で作家のベレニスはこの土地の素朴な暮らしに会館は不釣合いだと言うし、地元の小学校教師マルクは予定地の老齢の柳が犠牲になると言って真っ向から反対。市長を取材にきた記者の記事は編集長の手心で全くマルク寄りに。そして、娘ゾエがマルクの娘ヴェガと友達になったことで、市長は軌道修正を迫られることに......。

「ここでのロメールは、シニシズムとはおよそ異なる姿勢で『嘘のような』不自然さを導入しながら、それらしい『本当らしさ』を否定していないばかりか、むしろそのことの『真実』を画面に描き出そうとさえしている。」蓮實重彦、「ユリイカ 特集エリック・ロメール」2002年11月号
(C)1995 LA C.E.R.
『パリのランデブー』(Les Rendez-vous de Paris)
フランス/1994年/100分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:エリック・ロメール
出演:クララ・ベラール、アントワーヌ・バズラー、セルジュ・レンコ、オロール・ローシェル、ミカエル・クラフト、ベネディクト・ロワイアン

第1話「7時のランデブー」、第2話「パリのベンチ」、そして第3話「母と子 1907年」、パリの街のそれぞれ異なる界隈で出会う男女、恋の駆け引きについての三部構成のオムニバス。それは見かけの嘘、あるいは真実の逆説についての三つの物語でもある。
『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』(Les Amours d'Astrée et de Céladon)
フランス/2007年/109分/DVD/カラー/日本語字幕
監督:エリック・ロメール
出演:アンディー・ジレ、ステファニー・クレヤンクール、セシル・カッセル、ジョスラン・キヴラン、ロドルフ・ポリー

5世紀のローマ時代。育む羊飼いの少女アストレと青年セラドンは純粋に愛し合っていたが、あらぬ誤解からアストレはセラドンを拒絶してしまう。絶望し川に身を投げ自殺を図るセラドンを森を妖精ニンフが見つけ、彼は一命を取り留める。やがて、アストレの言葉を忠実に守り、 村に戻ることなく森で暮らし始めるセラドンだったが...。

「ロメール作品としては久しぶりにとても陽気で、瑞々しさに溢れ、常軌を逸するほど幸福感に満ちた作品であり、まるで世界で最初に生まれた映画のようだ。」ジャン=マルク・ラランヌ、「レザンロキュプティーブル」
『[現代の映画作家シリーズ]エリック・ロメール、確かな証拠(第一部・第二部)』(Eric Rohmer preuves à l'appui (Cinéma de notre temps) de André S. Labarthe)
フランス/1994年/第一部・第二部それぞれ60分/カラー/DVD/英語字幕・作品解説配布
監督:アンドレ・S・ラバルト
出演:エリック・ロメール、ジャン・ドーシェ

1993年5月、エリック・ロメールは「現代の映画シリーズ」に出演し、「カイエ・デュ・シネマ」批評家時代からの友人であるジャン・ドゥーシェのインタビューに答える。第一部で、自分をサイレント映画の作家と評し、ムルナウやグリフィスと比較してみせる。またドイツ哲学や音楽が自分を含め、ヌーヴェルヴァーグの作家たちにとって重要な役割を果たしていることを語る。第二部では幾つかの貴重な「証拠」を取り出しながら、ロメール映画の鍵となるテーマで「偶然」について語る。
『マエストロ』(Maestro de Léa Fazer)
フランス/2014年/85分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:レア・ファゼール
出演:ピオ・マルマイ、マイケル・ロンズデール、デボラ・フランソワ

アクション映画に出ることを夢見る若手俳優アンリはひょんなことから作家性の強い監督セドリック・ロヴェールの映画に出演することになる。撮影条件が想像と異なり、戸惑うアンリだったが、魅力的なスタッフや共演者とともに日々を送るうちに、映画作りについてそれまでとは異なる思いを抱くようになる。『我が至上の愛~アストレとセラドン』に出演したジョスラン・キヴランがロメールとの撮影の体験をもとに脚本を書いたが、2009年に不慮の交通事故で他界。友人であったレア・ファゼールが後を引き継ぎ完成させた。若い俳優を発掘し、彼らと一緒に撮影を進めるロメールの姿が本作から見えてくる。
第四章 フランス的恋愛ドラマ ドミニク・パイーニ セレクション
フランス映画にはマリヴォーやボーマルシェの系譜に属すフランス風の恋愛ドラマというものが疑問の余地なく存在している。サッシャ・ギトリやジャン・ルノワールの後継者であるヌーヴェルヴァーグの映画作家たちも、物語の最も重要なテーマに恋の駆け引き、官能的な誘惑の不確かさを据えるフランス文学の伝統を継承してきた。アルノー・デプレシャンの最新作『あの頃エッフェル塔の下で』はこうした伝統に連なるもっとも優れた一本であるだろう。恋愛ドラマにおいて大衆的な映画と作家性の強い映画を区別しない方法をとても独特なやり方で見出してきたフランス映画をここ最近の作品から紹介したい。
ドミニク・パイーニ

『愛のうた、パリ』(Les Chansons d'amour de Christophe Honoré)
フランス/2007年/95分/カラー/35ミリ/英語字幕
監督:クリストフ・オノレ
出演:ルイ・ガレル、リュディヴィーヌ・セニエ、キアラ・マストロヤンニ、クロチルド・エスム

出版社に務めているイスマエルは、恋人のジュリーと暮らしていた。イスマエルの同僚アリスが加わった三角関係は、深刻さのない軽妙なもののはずだったが、ジュリーはひそかに3人の関係に悩んでいた。そんな矢先、3人揃って出掛けたライブの後、突然ジュリーがこの世を去る......。失意の末に自分の殻に閉じこもってしまったイスマエルをジュリーの姉ジャンヌが懸命に救おうとするが、彼は自暴自棄になっていくばかりだ。そんなイスマエルを高校生のエルヴァンがそっと見つめていた。新たな「愛のうた」が始まるのだろうか?カンヌ国際映画祭コンペ出品作。
『美しいひと』(La Belle personne de Christophe Honoré)
フランス/2008年/97分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:クリストフ・オノレ
出演:レア・セドゥ、ルイ・ガレル、グレゴワール・ルプランス=ランゲ

ジュニーは、母を亡くして従兄弟のマチアスの一家のもとに身を寄せ、パリの高校に転校する。マチアスの仲間たちが好意を示す中で、ジュニーはおとなしいオットーと付き合い始めるが、イタリア語教師ヌムールと出会い、強く惹かれ合う。ジョニーはヌムールへの想いを隠し、オットーへの貞節を守ろうとするが、誤解から悲劇が生まれる...。これまでにマノエル・デ・オリヴェイラらによっても映画化されているラファイエット夫人の17世紀末の小説『クレーヴの奥方』を、クリストフ・オノレが新人女優レア・セドゥを迎え、ミュージカル的要素も加え見事に映画化した。
『女の子が好き』(J'aime regarder les filles de Frédéric Louf)
フランス/2011年/92分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:フレデリック・ルフ
出演:ピエール・ニネ、オドレイ・バスティアン、ルー・ド・ラージュ

1981年5月9日に18歳のプリモとガブリエルは出会う。ガブリエルはブルジョワのパリジェンヌ。一方のプリモの実家は、地方の小さな商店だった。ガブリエルの魅力と彼女の取り巻きに目を奪われたプリモはハッタリをかます。新しい家柄をでっち上げ、嘘を重ね、大胆さと想像力で虚構を埋め合わせていく。『イヴ・サンローラン』で見事にサンローサンを演じきったピエール・ニネをはじめとした若手俳優がすばらしい。
『アバンチュールのとき』(Le temps de l'aventure de Jérôme Bonnell)
フランス=ベルギー=アイルランド/2013年/105分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:ジェローム・ボネル
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、ガブリエル・バーン、ジル・プリヴァ

カレーでイプセンの舞台に出演している女優のアリックスは、映画のオーディションを受けるためにパリに向かっている。一方、大学教授のダグは旧友の葬儀ためイギリスからパリへと向かっていた。それぞれの事情でパリに向かっている男女の視線が交わり、胸の鼓動が高まる。列車ですれ違い、あいさつ程度の会話を交わし、それぞれの人生に戻るはずのふたりに、アバンチュールのときが与えられるのか? デプレシャン作品で馴染みのエマニュエル・ドゥヴォスが大人の恋愛をしっとり演じている。
『彼らについて』(A trois on y va de Jérôme Bonnell)
フランス/2014年/86分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督: ジェローム・ボネル
出演:アナイス・ドゥムースティエ、フェリックス・モアティ、ソフィー・ヴェルベーク

理想的な若いカップルのシャルロットとミーシャは、二人の愛の巣となる家を購入したばかり。しかし、シャルロットには数か月前からメロディという同性の恋人が...。恋人の裏切りにはまったく気づいていないミーシャだったが、彼女の心が自分にないことはなんとなく感じていた。そしてまた、彼も浮気をしてしまう。しかもその相手はなんと、ミーシャの浮気相手のメロディだった!二人と同時に恋に落ちたメロディは、シャルロットともミーシャとも秘密を分かち合っている、という目まぐるしい状況にすっかり振り回されてしまい...。心の襞を繊細に描く恋愛ドラマを次々と発表しているジャローム・ボネルの最新作。
『カプリス』(Caprice d'Emmanuel Mouret)
フランス/2015年/100分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:エマニュエル・ムレ
出演:アナイス・ドゥムースティエ、エマニュエル・ムレ

教師をしているクレマンは、ひょんな事から、大ファンだった有名女優アリシアと付き合うことに。順調に見えたアリシアとの付き合いだが、カプリスという若い女性が登場してからは複雑な展開に。優柔不断で押しに弱いクレマンは自由奔放なカプリスに振り回され、アリシアとの仲にも危機が訪れる。そんな中、親友のトマがアリシアに接近していて...。主演と監督を務めるエマニュエル・ムレは自ら演じる不器用な主人公を題材にした作品を多く発表し、ウディ・アレンやエリック・ロメールを引き合いにだされ、好評価を得ている実力派。
『三つのこころ(原題)』(3 Coeurs de Benoît Jacquot)
フランス/2014年/106分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:ブノワ・ジャコ 出演:ブノワ・ポールヴールド、シャロット・ゲンスブール、カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニ

フランスのある地方都市。パリに戻る列車を逃したマルクは、地元の女性シルヴィーに出会い、ふたりは朝まで街をさまよう。始発の列車に乗りこむマルクは、シルヴィーに数日後にパリで会おうと誘う。約束の日、シルヴィーは約束の場所に向かうが、思いがけない問題が起こり、マルクが行く事は適わなかった。さらに数日後、シルヴィーを捜していたマルクは、シルヴィーの妹ソフィーと出会う。ジャコならではの丁寧な演出でそれぞれの俳優の魅力が十全に引き出され、トリュフォー的ともいえる病のような恋愛への執着、その運命が語られる感動作。
『ふたりの友人』(Les Deux amis de Louis Garrel)
フランス/2015年/102分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:ルイ・ガレル
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、ルイ・ガレル、ヴァンサン・マケーニュ

クレモンはモナを狂ったように恋している。しかし彼女には秘密があり、どこかとらえどころがない。絶望的に彼女を追い求めるクレモンに彼のたった一人の親友アベルが助っ人にやってくる。ふたりはモナの気をなんとか惹こうとするのだが......。
すでに3本の短編で監督としての力量も披露してきた俳優ルイ・ガレルの長編処女作。
三人の男女の恋愛における残酷さと優しさ、哀しみとおかしみが織り交ざった恋愛ドラマがルイ・ガレル自身も含めた3人の俳優のすばらしい競演で瑞々しく描かれた秀作。カンヌ国際映画祭批評家週間出品作。
第五章 サッシャ・ギトリ:言葉による恋愛
サッシャ・ギトリの戯曲、映画はあらゆる意味において「jeu(ゲーム、戯れ、演技)」についての作品だ。
ジャック・リヴェット
あらゆる偉大な映画作家と同様にサッシャ・ギトリは映画をあらたに作り変えた。映画がトーキーになった時、ギトリはすぐにそれが自分の創造力の延長となることを察知し、純粋なる映画を作り出したのだ。ギトリの現代性は、言葉の遊戯、その組み合わせによって説話、物語を作り出すところだ。そうした意味で、今日、ギトリ的な「言葉の」映画作家は、意外にもタランティーノかもしれない。
オリヴィエ・アサイヤス

『カドリーユ』(Quadrille)
フランス/1937年/95分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ギャビー・モルレー、ジャクリーン・ドリュバック

フランス人女優ポレットは日刊紙「パリ・ソワール」編集長フィリップの恋人。パリ訪問中の今をときめくアメリカ人人気若手俳優カール・エリクソンはポレットの魅力に心奪われる。しかしポレットは、自分を女優と知らないカールに、自分の名前を偽り、友人のジャーナリスト、クロディーヌの名前を告げてしまう。そんな時、カールはフィリップとクロディーヌのインタビューを受けることになる。フィリップはインタビューのお礼に、ポレットが出演している舞台のチケットをカールに贈り、知らずしてふたりの再会をお膳立てしてしまう......。
『デジレ』(Désiré)
フランス/1937年/94分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーン・ドリュバック、アルレッティ

美しい女優オデット・クレリは大臣のフェリックスと内縁関係にある。ある日、オデットは非の打ち所がない召使、デジレを雇う。ある晩、デジレの隣の部屋で寝ていた女中マドレーヌはデジレが夢の中でオデットの名前を呼ぶのを聞いてしまう。そして大臣は隣で寝ているオデットがデジレの名前を夢の中で呼ぶのを聞いてしまう。互いに求め合うふたりには、しかし身分の違いが歴然と存在している......。ギトリが女主人を恋い焦がれる完璧な召使いデジレ(欲望される男)を見事に演じている。
『夢を見ましょう』(Faisons un rêve)
フランス/1936年/86分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーン・ドゥリュバック、ライム

〈彼〉は〈彼女〉に愛の告白をする。その夜、夜9時にアパルトマンで〈彼女〉を待つ〈彼〉。〈彼女〉がやって来る道順をあれこれ想像する〈彼〉のもとにようやく〈彼女〉が現れ、二人は一夜を過ごす。翌朝、〈彼女〉の〈夫〉が弁護士の事務所を訪れ、〈彼女〉は怯えるが、実は〈夫〉も昨晩外泊していたため、そのアリバイ作りをしようとしていた。恋する女性を待つサッシャ・ギトリの顔のみをとらえた長いモノローグのシーンはあまりにも有名。

「『夢を見ましょう』において重要なのは、あくまでも声だ。声が物語を生み、声が物語を続行させ、声が登場人物を分割さえする。」梅本洋一、「サッシャ・ギトリ 都市・演劇・映画」
『あなたの目になりたい』(Donne-moi tes yeux)
フランス/1943年/101分/モノクロ/35ミリ/日本語字幕
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジュヌヴィエーヴ・ギトリ、エメ・クラリオン、マルグリット・モレノ

パレ・ド・トーキョーでの展覧会で、彫刻家のフランソワはカトリーヌという女性に出会う。その若さと美貌に魅入られたフランソワは、彼女に自作のモデルになってほしいと頼み、やがて彼女に結婚を申し込む。しかしフランソワの態度は豹変し、別の女性と一緒にいるところを見てしまったカドリーヌは裏切られたと思い、彼と二度と会わないことを決意する。やがてフランソワが徐々に視力を失うことを知り、カトリーヌは彼のもとに戻るが......。ギトリ唯一のドイツ占領時代の作品。

「私の記憶では、サッシャ・ギトリの『あなたの目になりたい』だけが、(占領下の)灯火管制の現実を忠実に理解できるものだった。」フランソワ・トリュフォー
第六章 アルノー&ジャン=マリー・ラリユー:女性における欲望
ラリユー兄弟は幸福へゆっくりと登っていく。彼らは高地生まれだから、幸福は高いところから自然に滑走してくるんだ。
マチュー・アマルリック

『運命のつくりかた』(Un homme, un vrai)
フランス/2003年/121分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
出演:マチュー・アマルリック、エレーヌ・フィリエール、ダニエル・コーエン

映画監督ボリスはキャリアウーマン、マリリンと恋に落ち、永遠の愛を誓う。5年後、バレアレス島を旅行中、マリリンは ボリスと子供たちを残し、失踪してしまう。そのさらに5年後、ピレネーの山奥にアメリカからツアーコンダクターとしてやって来たマリリンの前に、すっかり変わったボリスが山岳ガイドとして現れる...。10年におよぶ男女の愛のうつろいと運命のいたずらがミュージカル、メロドラマ、そしてドキュメンタリーと様々なジャンルを織り交ぜて描かれるラリユー兄弟の長編一作目。
『描くべきか愛を交わすべきか』(Peindre ou faire l'amour)
フランス/2005年/100分/カラー/35ミリ/日本語字幕
監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
出演:サビーヌ・アゼマ、ダニエル・オートゥイユ、アミラ・カザール、セルジ・ロペ

長年連れ添った夫婦ウィリアムとマドレーヌ。画家のマドレーヌは絵の題材を探して古い家を訪れ、そこで教養ある盲目のアダムと美しい妻エヴァと出会う。彼らの勧めもあり、ふたりは自然豊かな丘の古い家に移り住むことになり、隣人である若い夫婦たちともさらに親しく付き合うようになる。そんなある日、アダムたちの家が火事で焼けてしまったため、マドレーヌたちは自分たちの家にしばらく泊まるよう提案する。ジャン・ルノワールを思わせる大らかな官能性で欲望の衰えとそこへの回帰を描いた、光と闇の戯れが美しい作品。
『世界の最後の日々』(Les Derniers Jours du monde)
フランス/2008年/130分/35ミリ/カラー/字幕なし・作品解説配布
監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
出演:マチュー・アマルリック、カトリーヌ・フロ、カリン・ヴィアール

世界の終わりが発表された時、ロバンサン・ラボルドは、妻と別れる原因となった色恋沙汰の心配から少しずつ立ち直ってきた。惨事が差し迫っているにもかかわらず、あるいはおそらくそれともっと向き合うために、ロバンソンは愛と欲望の冒険へと身を投じ、フランスからスペインへと進んで行く。死に匂いが漂うポストアポカリプス的な世界の中でマチュー・アマルリックが文字通り裸となって駆け巡るファンタジックなロード・ムーヴィー。
『パティーとの二十一夜』(21 nuits avec Pattie)
フランス/2015年/115分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
出演:イザベル・カレ、カリン・ヴィアール、アンドレ・デュソリエ、セルジ・ロペス、ドゥニ・ラヴァン、マチルド・モニエ

盛夏。キャロリーヌは疎遠であった母が亡くなったと報せを受け、パリから南仏の小さな村に赴く。母が遺した家に着くと、管理人のパティーが出迎えてくれ た。ふたりで散歩に出かけるが母の話もそこそこに、パティーは自分の性生活を赤裸々に語りはじめ、奥手のキャロリーヌは唖然とするばかり。そんな不思議な 出会いのなか、母の遺体が消えてしまう...。森の中のミステリアスな事件というラリユー兄弟らしい設定に、欲望に臆病なキャロリーヌの心の揺れが絡み、エロスとタナトスへのおおらかな賛辞に満ちたラリユー兄弟の最新作。
【アルノー&ジャン=マリー・ラリユー監督セレクション 女性における欲望】
最新作『パティーとの二十一夜』では女性の中に芽生える欲望、しいては女性たちの生きる悦びが描かれています。 このテーマを巡り、ラリユー兄弟に3本の作品を特別に選んでもらいました。

『キャット・ピープル』(Cat People de Jacques Tourneur)
アメリカ/1942年/73分/モノクロ/16ミリ/日本語字幕
監督:ジャック・ターナー
出演:シモーヌ・シモン、ケント・スミス、ジェーン・ランドルフ

造船設計技師のオリヴァーは、セントラル・パークの動物園で黒豹の写生をしていたイレーナと知り合いやがて結婚するが、猫族の末裔という妄想にとりつかれたイレーナは、自分が興奮すると黒豹に変化するのではないかと苦悩しはじめる...。ヴァル・リュートンがプロデュースしジャック・ターナーが監督した怪奇映画の第一作。
© Investing Establishment/ Plaza Production International/ Comstock Group
『昼顔』(Belle de jour de Luis Buñuel)
フランス=イタリア/1967年/101分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:ルイス・ブニュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン・ソレル、ミシェル・ピコリ、ピエール・クレマンティ

美しい若妻セヴリーヌは医師のピエールを夫に持ち、パリで幸福な生活を送っている。だが、いつしかみだらな妄想を抱くように......。ある日友人から、上流階級の婦人たちが客を取る売春宿の話を聞いたセヴリーヌは、そこで日中だけ"昼顔"という名の娼婦になる。
『フィデリオ、あるいはアリスのオデッセイ』(Fidelio, l'odyssée d'Alice de Lucie Borleteau)
フランス/2014年/97分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:リュシー・ボルルトー
出演:アリアンヌ・ラベ、メルヴィル・プポー、アンデルス・ダニエルセン

30歳のアリスは船員だ。恋人のフェッリクスを残して、古い貨物船フィデリオに整備工として乗り込む。やがてアリスは自分の前任者の男が亡くなったばかりあること、そしてかつて大恋愛をした相手、ガレルが船長であることを知る。男性の乗組員に囲まれて海の旅を続けながら、しだいにアリスの心の中も波打ち始める。ロカルノ映画祭最優秀女優賞授賞。




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