第2回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~

フランスの映画媒体、批評家、プログラマーらと協業し、最新のフランス映画を紹介する「映画批評月間」の第2回がアンスティチュ・フランセで開催される。ジュリアン・ジェステール(映画批評家)がセレクションを手掛けた第1回目に続く今回は、世界中の主要な映画作家たちの製作を支援してきたアルテ・フランス・シネマのディレクター、オリヴィエ・ペールがセレクションを手掛けている。本特集上映では、それらの作品の上映とともに、日本の映画批評家、監督たちとのディスカッション、そして、セレクションの一本『マダム・ハイド』のセルジュ・ボゾン監督の登壇も予定されている。
さらに、長編だけでも67本の監督作品を持つ、カルト的人気を誇る映画監督ジャン=ピエール・モッキーの特集上映も同時開催される。奇しくも、ジャン=ピエール・モッキー監督が2019年8月に86歳で逝去した数ヶ月後に、90歳で他界した映画批評家ジャン・ドゥーシェの人物像を描いたドキュメンタリー映画『ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像』の追悼上映も行われる予定だ。
本特集上映に臨む前に、パリのシネマテーク・フランセーズで開かれたジャン・ドゥーシェ追悼の場でアルノー・デプレシャン監督が読み上げた追悼文を坂本安美氏が翻訳した記事「アルノー・デプレシャンによるジャン・ドゥーシェ追悼」を未読の方は、この機会に一読されることを強くお薦めする。
(上原輝樹)
2020.3.5 update
企画協力:オリヴィエ・ペール(アルテ・フランス・シネマ ディレクター)
特別ゲスト:セルジュ・ボゾン
ゲスト:青山真治、五所純子、岡田秀則、須藤健太郎、富田克也、結城秀勇 ほか
(アルファベット順)


公式サイト:https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema200312/

3月12日(木)
会場:ユーロライヴ
料金:一般・学生・シニア1,200円/
ユーロスペース、アンスティチュ・フランセ 東京・横浜 会員800円(会員証をご提示ください)
※18:30の回のみ一律 1,600円
チケット販売時間:3月9日(月)午前0時よりユーロスペースHPにて、同日開館時よりユーロスペース窓口にてすべての回のチケットをご購入いただけます。全席指定席、開場は各回上映開始の10前です。上映開始10分後以降の入場は、他のお客さまへの迷惑となりますので、固くお断りいたします。

3月13日(金)~4月19日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
料金:一般1,200円/学生800円/アンスティチュ・フランセ会員500円

※3/14(土)オリヴィエ・ペールのレクチャーは入場無料。12:45より先着順にご入場頂きます。
開場時間:15分前
※4月19日(日)『アリスと市長』上映と解説を含め、3時間半程度を予定しています。
-入場料金:500円 ※15歳以上、20歳前後の方対象。一般の方はご遠慮ください。

前売券:Peatixにて2/28(金)15時より発売 https://ifjtokyo.peatix.com/view#
予定枚数完売の場合は当日チケットの販売はない場合がございますので、ご注意ください。
当日券:上映当日各回の30分前から上映開始10分後まで。チケット販売時間内には、当日すべての回のチケットをご購入いただけます。
入場:全席自由。整理番号順での入場とさせていただきます。また、上映開始10分後以降の入場は、他のお客さまへの迷惑となりますので、固くお断りいたします。

4月16日(木)
会場:kino cinéma横浜みなとみらい
料金:一般1,500円/リピーター割り1,300円(窓口のみ、要チケット提示)/kino cinéma メンバーシップ1,000円/アンスティチュ・フランセ会員1,200円(窓口のみ)
開場時間:10分前(予定)
チケット販売:HPでは上映日2日前(AM 0:00〜)、 窓口では上映日2日前の劇場OPEN時間よりチケットを販売いたします。全席指定。

4月17日(金)
会場:横浜シネマ・ジャック&ベティ
料金:一般1,500円/大専1,200円/シニア1,100円/高校以下、ジャック&ベティ会員、アンスティチュ・フランセ会員1,000円/アンスティチュ・フランセ横浜会員は、ポイントカードの3ポイントで1回無料
開場時間:10分前
チケット販売:上映日の1週間前より、劇場窓口にてチケットを販売いたします。全席自由。整理番号順での入場とさせていただきます。

上映スケジュール

<ユーロライヴ>
3月12日(木)
12:45
見えない太陽 (102分)
上映前、オリヴィエ・ペールによる作品紹介あり
15:30
アリスと市長 (105分)
上映前、オリヴィエ・ペールによる作品紹介あり
18:30
リベルテ (138分)
アフタートークあり(ゲスト:青山真治、オリヴィエ・ペール)

<アンスティチュ・フランセ東京>
3月13日(金)
18:30
ソロ
(87分)
上映後、オリヴィエ・ペールによるレクチャーあり
3月14日(土)
10:00
君は愛にふさわしい
(107分)
上映前、オリヴィエ・ペールによる作品紹介あり
13:00
レクチャー:「映画を見せること、語ること、作ることー上映、製作、配給の現在、そして国際共同製作の可能性について」
(講師:オリヴィエ・ペール、聞き手:土田環)
15:30
シノニムズ
(123分)
上映前の作品紹介、及びアフタートークあり
(ゲスト:オリヴィエ・ペール、富田克也、五所純子)
3月21日(土)
12:00
カブールのツバメ
(82分)



14:15
君は愛にふさわしい
(107分)







17:00
ディアスキン
鹿皮の殺人鬼

(77分)




3月22日(日)
12:45
ディアスキン
鹿皮の殺人鬼

(77分)


14:45
カブールのツバメ
(82分)







17:00
アリスと市長
(105分)





4月4日(土)
11:15
見えない太陽
(102分)



13:45
奇跡にあずかった男
(87分)







17:00
今晩おひま?
(78分)





4月5日(日)
14:00
今晩おひま?
(78分)


16:00
ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像
(85分)
アフタートークあり(ゲスト:岡田秀則、廣瀬純、須藤健太郎)
4月11日(土)
12:30
ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像
(85分)

14:45
奇跡にあずかった男
(87分)




17:00
言い知れぬ恐怖の町
(92分)



4月12日(日)
14:30
フランス
(102分)


17:00
モッズ
(60分)




4月18日(土)
12:30
奇跡にあずかった男
(87分)


15:00
モッズ
(60分)




17:00
フランス
(102分)
アフタートークあり(ゲスト:セルジュ・ボゾン坂本安美、結城秀勇)
4月19日(日)
14:00
シネ・リセ -若者向け映画講座-
アリスと市長
(105分)
上映後、講義あり(講師:須藤健太郎)

<kino cinéma横浜みなとみらい>
4月16日(木)
19:00
マダム・ハイド (96分)
上映後、トークあり(ゲスト:セルジュ・ボゾン坂本安美、結城秀勇)

<横浜シネマ・ジャック&ベティ>
4月17日(金)
17:40
赤いトキ (80分)
上映前、セルジュ・ボゾンによる作品紹介あり
19:40
ティップ・トップ ふたりは最高 (107分)
アフタートークあり(ゲスト:セルジュ・ボゾン)
上映プログラム

2019年ベストセレクション アルテ共同製作作品
アルテ・フランス・シネマ(Arte France Cinéma)
アルテ(Arte、Association Relative à la Télévision Européenne)は、1992年5月30日に開局したドイツとフランスの共同出資によるテレビ局で、フランス語およびドイツ語で放送。アルテ・シネマ・フランスは同局の映画部門。1990年、プロデューサーのピエール・シュヴァリエが同テレビ局で良質のテレビプログラム・映画作品を製作すべくセット=アルテからセット・シネマを立ち上げた。2000年にセット=シネマは新たにアルテ・フランス・シネマに。アサイヤス、アケルマン、クレール・ドゥニらがそれぞれ自らの思春期について撮ったシリーズ「彼らの時代のすべての少年、少女たち」はシュヴァリエによる企画。創立以来、アルテ・フランス・シネマは良質なプログラムを提供し、新しい才能を支援し、ヨーロッパのみならず世界中のクリエーションに活力を与えることをその役割としている。2012年より、オリヴィエ・ペールがディレクターに就任。ワン・ビン、ジャ・ジャンクー、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン、アリーチェ・ロルヴァケル、マルコ・ヴェロッキオ、ラヴ・ディアス、黒沢清ほか数多くの作家たちの作品を製作支援している。

©2019 Bac Films Distribution All rights reserved
『アリスと市長』(Alice et le Maire de Nicholas Pariser)
フランス/2019年/105分/カラー/デジタル
監督:ニコラ・パリゼール
出演:ファブリス・ルキーニ、アナイス・ドゥムースティエ、ノラ・ハムザウ ほか

リヨンの市長ポール・テラノーは、「考え」が一切浮かばなくなり、若き哲学者アリスに助けを求めることに。『木と市長とメディアテーク』では高校教師を揚々と演じたルキーニが26年後、まさにロメール的コメディで、燻し銀の魅力で老いとともに人生を見つめ直す市長を演じる。そして、大きな瞳と溌剌とした魅力で、観客の心を捉える人気の若手女優、ドゥムースティエ演じる哲学者との真摯で、遊戯に満ち、心打たれる対話によって、互いに「思考」を、そして「人生」を取り戻していく。第72回カンヌ国際映画祭監督週間出品。
©2008 REZO FILMS
『君は愛にふさわしい』
(Tu mérite d'un amour de Hafsia Herzi)
フランス/2019年/107分/カラー/デジタル
監督:アフシア・エルジ
出演:アフシア・エルジ、ジェレミ・ラウルト、ジャニス・ブジアニ ほか

何よりも大切な恋人レミの裏切りを知り、リラは苦しむ。単身ボリビアに旅立ったレミから、二人の関係はまだ終わっていないと告げられるが、その言葉によってさらに苦しむリラは、友人たちとの会話、新たな出会いの中でもがき、愛の行方を求めて彷徨う...。寄る辺なく生きる現代の若者たちの恋愛をアブデラティフ・ケシシュやアラン・ギロディらの作品に出演している女優、エルジが初監督、主演。第72回カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、「宝石のように美しいラブストーリー」と絶賛された。タイトルはフリーダ・カーロの詩の言葉。
『リベルテ』(Liberté d'Albert Serra)
フランス=ポルトガル=スペイン=ドイツ/2019年/138分/カラー/デジタル
R16+
監督:アルベルト・セラ
出演:ヘルムート・バーガー、マルク・スジーニ、イリアーナ・ザベート、リュイス・セラー ほか

ジャン=ピエール・レオ主演の『ルイ14世の死』が日本でも公開された鬼才アルベルト・セラが今度はフランス革命前夜の18世紀の退廃貴族たちの性、欲望のありか、サド的世界に迫る。ルイ16世のピューリタン的厳格な宮廷から追放された自由主義者達(ルビ:リベルタン)は、伝説的ドイツ人公爵ワルシャンの支援を求めて国境を越える。2019年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員特別賞受賞作品。

「私にとって撮影とは上演(パフォーマンス)であり、一度限りのものだ。演じられている中で生まれるもの、感情を、それぞれが自律的な3台のキャメラで撮影し、それらは再び生み出すことが不可能であり、とくにセックスが題材であればなおさらそうである。」アルベルト・セラ
©Guy Ferrandis / SBS Productions
『シノニムズ』(Synonymes de Nadav Lapid)
フランス=イスラエル=ドイツ/2018年/123分/カラー/デジタル
監督:ナダヴ・ラピド
出演:トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨット ほか

「『シノニムズ』は、パリの空っぽのアパルトメントで凍えそうになった裸体と共に、象徴的な死とある誕生によって幕を開ける。物語は、祖国イスラエルからパリへと亡命し、文化、言語、国、すべてを白紙に戻し、未知の場所でゼロから生きることを選んだラピド監督自身の人生から着想を得ており、主役のヨアブは監督の分身であるだろう。本作はラピドがこれまで続けてきた試みのひとつの到達点でもある。それは通常なら詩的なものからほど遠いであろう憎しみや嫌悪の言葉や映像を結びつけ、それらの衝突の中から、そして視線の中から美を導き出すという試みである」。オリヴィエ・ペール

69回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。
©Curiosa Films ? Bellini Films ? Arte France Cinema
『見えない太陽』(L'Adieu à la nuit d'André Techiné)
フランス=ドイツ/2019年/102分/カラー/デジタル
監督:アンドレ・テシネ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ケイシー・モッテ・クライン、ウーヤラ・アマムラ ほか

2015年春。地方で牧場や農場を営むミュリエルは、久しぶりに帰ってきた孫息子アレックスとの再会に心躍らせる。しかしアレックスがイスラム教に入信し、しかもその教団がシリアのイスラム教テロリストたちとつながりがあり、アレックス自身もシリアに向かおうとしていることを知ったミュリエルはなんとか彼を引きとめようとするのだが......。ドヌーヴがもっとも信頼を置くと明言している名匠アンドレ・テシネとの8本目の本作で、つねに目の前の対象に開かれ、その度に繊細な演技をみせてきた大女優の魅力が最大限に引き出されている。

DVD発売中:KKDS-891 4,800円(税抜)
発売元:ビターズ・エンド、ミッドシップ 販売元:紀伊國屋書店
©2019 ATELIER DE PRODUCTION ARTE FRANCE CINEMA NEXUS FACTORY & UMEDIA GARIDI FILMS
『ディアスキン鹿革の殺人鬼』(Le Daim de Quentin Dupieux)
フランス/2019年/77分/カラー/デジタル
監督:カンタン・デュピユー
出演:ジャン・デュジャルダン、アデル・エネル ほか

鹿革ジャケットを手に入れたジョルジュは、異常なまでにそのジャケットに愛着を抱く。ひょんなことからビデオカメラも手にしたジョルジュは、ジャケットを羽織り、映画監督に扮して街へ繰り出し、"死のジャケット狩り"を開始する。フランスのエレクトロニックミュージシャン、DJとしても著名なデュピューがジャン・デュジャルダンと初めて組んだスリラーで、2019年カンヌ国際映画祭監督週間のオープニングで上映され人気を博した。注目の女優アデル・エネルがたった一人、狂気に包まれた男に勇ましく対峙していく姿が強く、美しい。
©memento films
『カブールのツバメ』(Les Hirondelles de Kaboul)
フランス=ルクセンブルク=スイス/2019年/82分/カラー
監督・脚本:ザブー・ブライトマン&エレア・ゴべ・メヴェレック ほか
声の出演:ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバス

1998年夏、アフガニスタンのカブールはタリバン勢力の支配下に。
ズナイラとモーセンのカップルは、暴力と悲惨な現実の中でも希望を持ち続けていたが、ある行動が災いし...。大文字の歴史の中で翻弄される夫婦や恋人たちの日常のささやかなやり取り、感情が繊細に描かれ、心を打つ傑作アニメーション。スワン・アルローら、フランスで現在人気上昇中の俳優たちが声で出演している。

2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門コンペティション出品。

Olivier Père オリヴィエ・ペール
1971年フランス生まれ。ソルボンヌ大学で文学を学んだ後、シネマテーク・フランセーズで、シネマテークの上映プログラムの企画に携わる。その一方で、「レ・ザンロキュプティーブル」誌などで映画批評を執筆。2004年から2009年まで、カンヌ国際映画祭監督週間のディレクターを務め、2008年から2012年までロカルノ国際映画祭のアーティスティック・ディレクターを務めた。同映画祭のディレクション中、富田克也の『サウダージ』、三宅唱の『Playback』などがコンペティションに選ばれ、2012年には青山真治に金豹賞(グランプリ)審査員特別賞が贈られた。2012年以降はアルテ・フランス・シネマのディレクターを務め、フランスをはじめ、世界中の映画作家の作品を支援し、共同製作している。またアルテのサイトにて定期的に映画評も執筆し続けている。
セルジュ・ボゾン特集

©Les Films Pelleas
『モッズ』
(Mods)
フランス/2003年/60分/カラー/35ミリ
*英語字幕・日本語同時通訳
出演:シルヴィー・テステュー、パスカル・グレゴリー、ギョーム・ドパルデュー、ジャン=クリストフ・ブーヴェ、ギョーム・ヴェルディエ、フランソワ・ネグレ、ピエール・レオン

大学のキャンパス、そこに病におかされた学生がいる。彼の兄弟であるふたりの兵士が救いにやってくる。自分達に似ることのないこの世界で居場所がない我らが二人の兵士達はそこで様々な人々と出会い、驚きを重ね、病気の弟が残した記憶や、他の場所から聞こえてくる噂、あるいは何処からか聞こえてくる歌に耳を傾ける。
©DR
『フランス』
(La France)
フランス/2007年/102分/カラー/35ミリ
*英語字幕・日本語同時通訳
出演:シルヴィー・テステュー、パスカル・グレゴリー、ギョーム・ドパルデュー、ジャン=クリストフ・ブーヴェ、ギョーム・ヴェルディエ、フランソワ・ネグレ、ピエール・レオン

1917年秋。第一次世界大戦の戦火が最も激しくなった頃、若いフランス人女性カミーユは戦地から届く夫の便りのみを待つ日々を送っていたが、ある日、別れの手紙を受け取る。彼女は深く動揺し、愛する夫に会うため、男に変装し危険に満ちた旅に出ようと決意する。その旅の途中で出会った、奇妙な連隊に加わる。彼らは時に、その場でこしらえた楽器を演奏し、ポップ・ソングを歌う。

「古典的映画の中で、登場人物たちが歌う歌は必ずしも史実に基づいて選ばれたものではありません。『リオ・ブラボ-』でのリッキーのように。」セルジュ・ボゾン
©DR
『ティップ・トップ ふたりは最高』(Tip Top)
フランス=ルクセンブルク/2013年/107分/カラー/デジタル
出演:イザベル・ユペール、サンドリン・キーベルラン、フランソワ・ダミアン ほか

フランス北部でアルジェリア系の情報屋が殺された。その情報屋は、地域のドラッグの密売に関わっていたが、警察署内部を探るため、ふたりの女性監察官、エスターとサリが派遣された。ひとりは殴りこみをかけ、もうひとりは覗き見る...そう、ふたりは最高のコンビ!

「ボゾンはかつてゴダールが取った方法を応用してみせる。犯罪映画を口実にまったく別のものを語ること。では本作では何が語れているのか、おそらく傑出した前作のタイトルの中にその答はあるだろう、つまり『フランス』である」。オリヴィエ・ペール
©Les Films Pelleas
『マダム・ハイド』(Madame Hyde)
フランス/2017年/96分/カラー/デジタル
出演:イザベル・ユペール、ロマン・デュリス、ジョゼ・ガルシア ほか

パリ郊外の高校に勤める内気な物理学の女性教師ジキルは生徒たちから見下されている。ある日、彼女は、実験中に失神し、神秘的で危険な力を感じるようになる。スティーヴンソンの代表作『ジキル博士とハイド氏』を、19世紀後半のブルジョワ社会ではなくパリ郊外、現在を舞台に、また男性ではなく女性を主人公に、自由に脚色されたボゾンの最新作。

「トリュフォーが『野生の少年』で試みたように、学ぶということを映画でどう描くか、教育の重要性、難しさを見せたかった。そのため、冒頭で主人公はまだにそこに至っておらず、ふつうの方法では変えられない状況にいる。そこにスティーヴンソンが介入してくるわけだ。」セルジュ・ボゾン

Serge Bozon セルジュ・ボゾン
1972年、フランスのエクス=アン=プロヴァンス生まれ。1988年に初長編作『友情』を発表。次作のミュージカルコメディ『モッズ』(2003年)でベルフォール国際映画祭にてレオ・シェア賞を受賞、その他30以上の国際映画祭にノミネートされる。第一次世界大戦を描いたシルヴィー・テステュー主演の『フランス』(2007年)でジャン・ヴィゴ賞を受賞。その後、イザベル・ユペール、サンドリン・キーベルラン、フランソワ・ダミアン出演によるコメディ『ティップ・トップ ふたりは最高』(2013年)を発表、カンヌ国際映画祭の監督週間にて上映。さらにイザベル・ユペール主演の最新作『マダム・ハイド』では、第70回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に選出、ユペールは本作で主演女優賞受賞。また監督以外にも映画批評家、俳優としても活躍している。
ジャン=ピエール・モッキー特集

© M. Films
『今晩おひま?』(Les Dragueurs)
フランス/1959年/78分/モノクロ/デジタル
出演:ジャック・シャリエ、シャルル・アズナブール、ダニー・ロバン、アヌーク・エーメ ほか

土曜日の夕暮、フレディとジョゼフは、セーヌ河岸で偶然出会い、女の子を「ひっかけに」街に繰り出す。二十歳の装飾家でプレイボーイのフレディは「理想の女性」を探し求めている。かたやまじめな銀行員ジョゼフは妻を見つけ、家庭を持つことを望んでいる。アンバリッド、サン=ジェルマン=デ=プレ、シャンゼリゼ通り、モンマルトル、彼らは、様々な女性たちと出会い、彼女たちの人生を垣間見ることに。29歳のジャン・ピエール・モッキーが自伝的な要素を交え、ささやかなテーマながら大胆な作風で、ほとんどロケで撮り上げた処女作。日本で公開された唯一のモッキー監督作品でもある。
© M. Films
『言い知れぬ恐怖の町』(La Cité de l'indicible peur)
フランス/1964年/92分/モノクロ/デジタル
出演:ブールヴィル、フランシス・ブランシュ、ジャン・ポワレ、ヴェロニク・ノルデー ほか

逃亡した偽札偽造者の捜索に乗り出したシモン・トリケ警部は、オーヴェルニュ地方の想像の村、バルジュにたどり着くのだが、そこには摩訶不思議な住民たち、出来事があふれていた......。ベルギーの幻想小説家ジャン・レーの原作を自由に、幸福感と繊細さとともにモッキーが映画化。モッキー作品にかかせない俳優のひとり、ブールヴィルが風変わりな警部役を魅力一杯に演じている。撮影はラング、オフュルス、ロッセンらの作品も手がけた偉大なカメラマン、オイゲン・シュフタン。製作当時あまりにも「とっぴな」作品とされ再編集を強いられたこの傑作「詩的幻想映画」を、今回は監督自ら「ディレクター・カット」として蘇らせたバージョンで上映!
© M. Films
『ソロ』(Solo)
フランス/1970年/87分/カラー/デジタル
出演:ジャン=ピエール・モッキー、アンヌ・ドゥルーズ、デニス・ル・ギヨ ほか

魅惑のヴァイオリン奏者のヴァンサン・キャブラルは宝石泥棒でもある。彼の弟のヴィルジルはアナーキストのグループに属し、殺人にも手を染めていた。ヴァンサンはこれ以上の殺戮が繰り返されないように、警察より先回りしてヴィルジルを追いかけるのだが......。

「70年代、モッキーはB級犯罪映画を自ら主演し、連続して撮っている。アクションに次ぐアクション、そして演出のアイディア満載の本作は、68年五月革命直後についてのモッキー自身の考察から出発している。シニックなアンチヒーローを演じるモッキー、ジョルジュ・ムスタキのテーマ曲によって愁いを帯びたロマンチシスムに包まれたフィルムノワール。」オリヴィエ・ペール
© M. Films
『赤いトキ』(L'Ibis rouge)
フランス/1975年/80分/カラー/デジタル
出演:ミシェル・セロー、ミシェル・シモン、エヴリーヌ・バイル ほか

孤独な会社員ジェレミーは赤いマフラーで次から次に女性たちを絞め殺してきた。同じ界隈に住み、賭博好きレーモンは、借金を返済するために愛する妻のエヴリーヌに宝石を売るよう頼む。そんなふたりが出会い、ある計画が立てられることに......。

「フレドリック・ブラウンの推理小説『3、1、2とノックせよ』から着想を得た本作は、ファンタスティックかつポエティックにフランス社会を描いたモッキーの代表作のひとつ。本作が遺作となった偉大な俳優ミシェル・シモンへのオマージュでもあり、サン=マルタン運河沿いで多く撮られていることもあり、とりわけ『素晴らしき放浪者』や『アタラント号』の記憶が蘇ってくる。」オリヴィエ・ペール
© M. Films
『奇跡にあずかった男』(Le Miraculé)
フランス/1986年/87分/カラー/デジタル
出演:ミシェル・セロー、ジャンヌ・モロー、ジャン・ポワレ

非合法すれすれでなんとか暮らす気ままなパピュは、、保険金欲しさに事故で足が麻痺したと偽り、献身的な元娼婦のサビーヌを引き連れてルルドへと偽の治癒旅行に出発するが......。

「社会風刺、反聖職者主義的劇画を超えて、不条理で詩的なアイディアで溢れる驚くほど豪快な本作で、モッキー映画の常連、セローとポワレがミスキャストをおおいに楽しんでいるように見える。優雅な俳優ポワレが小汚く下品な浮浪者、セローは滑稽で口のきけない保険業者を演じ、まるでサーカスの演目を見ているようだ(...)。モッキーは、この縁日のような作品で多種多様な人々をこれまで以上に鮮やかに浮かび上がらせてみせる。」オリヴィエ・ペール

Jean-Pierre Mocky ジャン=ピエール・モッキー
1933年ニース生まれ。長編だけでも67本の作品を監督し、フランス映画の中でもどこにも分類できない、ユニークな映画作家。法律の勉強を終えた後、フランス国立高等演劇学校に入学後すぐ、舞台、映画界の両方でその美貌と才能で一気に若手俳優として頭角を現す。ルキノ・ヴィスコンティ監督作『夏の嵐』で助監督を務め、その後、脚本を書き、自ら監督を希望した『壁にぶつかる頭』(1958年)は結局、ジョルジュ・フランジュが監督し、主演することに。1959年にようやく処女長編作『今晩おひま?』を監督し、商業的、批評的に成功を収める。「ヌーヴェルヴァーグの従弟」のような作品と評されるが、風刺的でメランコリック、そして類をみない反体制的な作風でほかとは一線を画し、メインストリームから外れた場所で、自由に映画を撮り続ける。ラブコメディから風刺的コメディ、あるいは犯罪映画や軍隊もの、政治的作品から幻想的な作品まで、ひとつのジャンルにおさまることなく、慣例化された制度、価値には反旗を翻し、アナーキーな世界観や荒々しいまでのユーモアを一本ごとに刻印してきた。そうしたモッキーの魅力は多くのスター俳優たち、フェルナンデル、ミシャル・シモン、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モローを引きつけ、彼の作品に出演している。名優ブールヴィル、ミシェル・セローとは特に多くの作品でタッグを組んできた。2019年8月8日逝去、享年86歳。
ジャン・ドゥーシェ追悼

© 2017 KIDAM-CARLOTTA FILMS. Tous droits reserves.
『ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像』
(Jean Douchet, l'enfant agité de FabienHagege, Vincent Haasser, Guillaume Namur)
2017/85分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:ファビアン・アジェージュ、ギヨーム・ナミュール、ヴァンサン・アセール

2019年11月に90歳で他界したフランスの偉大なる映画批評家ジャン・ドゥーシェ。彼は50年以上前から映画批評家として世界中を旅してきた、映画についての伝道師、「渡り守(パサール)」である。その類まれなる知性、教養、ユーモアによって、映画作家や映画ファンたちに影響を与えてきた。ある晩、三人の仲間たちがドゥーシェと出会い、彼の話にすぐさま魅惑され、ジャン・ドゥーシェという謎も多い男との特権的な関係を持ち始める。

「ジャンは映画の意味を目覚めさせる術を知っている。映画の送ってくる手紙を読み解くように。そして美への思い、配慮する気持ちがジャンをここシネマテークや、他の多くの映画館へと足を運ばせたのです。」アルノー・デプレシャン




第2回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~について、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





Comment(0)

印刷