TIFF 第29回東京国際映画祭

今年で第29回を迎える東京国際映画祭(TIFF)が、六本木ヒルズ、EXシアター六本木他にて開催される。注目すべきは、ワールドプレミア6作品を含む16作品が賞を競う【コンペティション】、ホン・サンスやベルトラン・ボネロ、ラヴ・ディアスなど、海外の有名映画祭で話題になった名匠の新作の数々、エドワード・ヤン『牯嶺街少年殺人事件』やキアロスタミ監督最後の短編作品も上映される【ワールド・フォーカス】、名門UCLAの映画テレビアーカイブが復元したサイレント映画からジョン・セイルズの『メイトワン1920』まで、アメリカの古典映画が上映される【UCLA映画テレビアーカイブ 復元映画コレクション】、アジアの新鋭監督が競い合うコンペティション【アジアの未来】、日本インディペンデント映画の俊英の新作が上映される【日本映画スプラッシュ】、現代の若者を新鮮な視点で捉えた作品が上映される【ユース】といった日本未公開映画を中心としたプログラム群だが、一般公開に先駆けて上映されるニコラス・ウィンディング・レフンの『ザ・ネオン・デーモン』や、ケント・ジョーンズ、黒沢清両監督の登壇が予定されている『ヒッチコック/トリュフォー』の上映にも心惹かれる。フレッシュな才能、世界の名匠の映画との出会い、驚きと発見に満ちた10日間を体験すべく、まずは準備を整えたい。
(上原輝樹)
2016.10.14 update
コンペティションワールド・フォーカスUCLA復元コレクションアジアの未来/日本映画スプラッシュ/ユース
TIFF 第29回東京国際映画祭
2016年10月25日(火)~11月3日(木・祝)@六本木ヒルズ、EXシアター六本木 ほかにて
公式サイト http://2016.tiff-jp.net/ja/

■映画祭プログラムディレクター 矢田部吉彦氏による作品解説(CinemaCafe.net) http://www.cinemacafe.net/special/4808/recent/矢田部吉彦+BLOG
上映スケジュール
上映プログラム
【コンペティション】

©Goldenart Production S.r.l. - Manny Films - Ventura Film - 2016
『7分間』(7 Minutes)
91分/カラー/イタリア語(日本語・英語字幕付き)/2016年/イタリア=フランス=スイス
監督/脚本:ミケーレ・プラチド
脚本:ステファノ・マッシーニ
プロデューサー:フェデリカ・ヴィンチェンティ
出演:オッタヴィア・ピッコロ、アンブラ・アンジョリーニ、クリスティアーナ・カポトンディ、フィオレッラ・マンノイア、マリア・ナツィオナーレ、ヴィオランテ・プラチド、クレマンス・ポエジー、サビーネ・ティモテオ、アンヌ・コンシニ、ルイーザ・カッタネオ、エリカ・ダンブロージョ、バルキッサ・マイガ


リストラ計画が進行する繊維工場。様々な背景と事情を持つ女性労働者たちは結束して交渉にあたるが、工場側は奇妙な提案を出してくる。受け入れることはたやすいと思われるこの条件に、労働者のリーダー格の女性が異を唱え、場は荒れていく...。

俳優として45年、監督としては25年のキャリアを誇るミケーレ・プラチド監督は、イタリア・マフィアを描く実録ものに強いイメージがあるが、今回は労働問題を扱う社会派作品となった。しかも、現代のイタリアのみならず、ヨーロッパ全土にも通じる移民映画でもあり、そして女性映画である。様々な出自の女性労働者たちの存在が現在の欧州のリアルな状況を象徴しており、利害の異なる集団の議論の展開は『12人の怒れる男』(57)を彷彿とさせる。その議論をリードする労働者のリーダーに扮するオッタヴィア・ピッコロは、1970年にカンヌ映画祭主演女優賞(『わが青春のフロレンス』)を受賞している名女優であり、今作でも出色の存在感を放っている。揺れ動く人間心理を見事なキャスティングで描く、スリリングな集団劇である。

[インターナショナル・プレミア]

10/25(火) 14:30 10/26(水) 18:10

公式サイト作品詳細ページ
© Sergey Bezrukov Film Company
『天才バレエダンサーの皮肉な運命』(After You're Gone)
120分/カラー/ロシア語(日本語・英語字幕付き)/2016年/ロシア
監督:アンナ・マティソン
プロデューサー:アレクセイ・クブリツキー、セルゲイ・ベズルコフ
撮影監督:セルゲイ・オトレピエフ
脚本:チムール・エズグバイ
編集:イワン・リシチキン
出演:セルゲイ・ベズルコフ、アナスタシア・ベズルコワ、カリーナ・アンドレンコ、ウラジーミル・メンショフ、アリョーナ・バベンコ、セルゲイ・ガザロフ、ステパン・クリコフ、マリヤ・スモルニコワ、ヴィタリー・エゴロフ


アレクセイ・テムニコフは名の知れた天才バレエダンサーだが、90年代にその短いキャリアは突然終わっていた。20年後の現在はバレエ教室を営み、傲慢で冷淡な性格が周囲との軋轢を招いているが、全く気にする様子を見せない。達観したように生きるアレクセイだが、次第に体調が悪化するに従い、人生の選択を迫られる。

本作が3本目の長編劇映画となるアンナ・マチソン監督は、舞台との関わりも深く、本作でも威風漂う姿を見せるマリインスキー劇場の舞台監督や美術などを手掛けている。同劇場の芸術監督ワレリー・ゲルギエフが指揮するオペラの映像監督も務め、その縁でゲルギエフが本人役で登場するが、ここで虚構と現実の境が曖昧になり、実在のダンサーの生涯を追っているような効果を本作にもたらしている。マジカルなカメラワークも楽しく、スケール感のあるエンターテイメント作品として、従来のロシア(映画)のイメージを覆す作品である。主演のセルゲイ・ベズルコフは舞台と映画の双方で活躍するロシアの人気俳優である。

[インターナショナル・プレミア]

10/31(月) 21:00 11/02(水) 14:15

公式サイト作品詳細ページ
『誕生のゆくえ』(Being Born)
91分/カラー/ペルシャ語(日本語・英語字幕付き)/2016年/イラン
監督:モーセン・アブドルワハブ
撮影監督:モハマッド・アーマディ
音響:アミルホセイン・ガセミ
美術:メーディ・ムサワィ
編集:セピデー・アブドルワハブ
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
メイク:メールダド・ミルキヤニ
録音:ヤドラー・ナジャフィ
出演:ヘダヤト・ハシェミ、エルハム・コルダ、セパーラド・ファルザミ、レザ・モルタザワィ、ベーナーズ・ジャファリ、モルテザ・ナシム・ソブハン、ロヤ・ジァワィドニア


パリとファルハードは演劇と映画を仕事にする中流階級の夫婦。ふたりは愛し合い、ひとり息子とも幸せに暮らしているが、パリは再び妊娠。ふたりとも望んでいない妊娠だった。いったんは中絶で合意したふたりだったが、パリは疑問を抱き始める。

現在のイラン映画では、畳みかける会話の応酬が緊迫感を盛り上げ、そのまま物語をリードしていくスタイルが主流となっている。本作もその流れを象徴する1本である。2子目を産むかどうかで意見の食い違う夫婦の物語は、現代社会において普遍性を持ちつつ、その議論の進め方にはイラン社会特有の価値観も垣間見える。事態が次第に取り返しのつかない状態に転がってしまう展開も、昨今の優れたイラン映画に特有であり、80年代よりドキュメンタリー編集や短編製作を手掛けてきたキャリアの長いアブドルヴァハブ監督の確かな力量が伺える。夫を映画監督、妻を舞台女優と設定することによって、現代イランにおける表現活動の実態を伝えようとする監督の意図も見逃せない。

[インターナショナル・プレミア]

10/27(木) 10:35 10/28(金) 18:00

公式サイト作品詳細ページ
© 2015 - Atlantik Film - Maya Film - IMAJ
『ビッグ・ビッグ・ワールド』(Big Big World)
101分/カラー/トルコ語(日本語・英語字幕付き)/2016年/トルコ
監督/脚本/編集:レハ・エルデム
プロデューサー/プロダクション・デザイナー:オメル・アタイ
撮影監督:フロラン・エリ
音響監督:エルヴェ・ギヤデール
主題歌:ニルス・フラム
照明:シェノル・トズ
キャスティング・ディレクター:ファズル・コルクマズ
ライン・プロデューサー:タンクルト・メキキ
出演:ベルケ・カラエル、エジェム・ウズン、メリサ・アクマン、ムラト・デニズ、アイタ・ソゼリ


青年アリは、離れて暮らす妹を気にかけるが、里親が会わせてくれない。業を煮やしたアリは妹の奪回を企み、極端な行動に走る...。

前々作『Jin』は少女兵士が森でサバイバルをするストレートな物語、そして前作『歌う女たち』では森で歌う女性たちに平和を象徴させ、スピリチュアルな世界を描いたレハ・エルデムであるが(両作とも13年TIFFにて上映)、本作はそのふたつの世界を融合させて、さらなる高みへと向かう作品である。森に入った兄妹は、次第に自然と一体化していくが、そこでは、かたつむりも水牛もヤギも同格の存在である。木々でさえも体の一部となる。やがて生と死も、昼と夜のように、ひとつのサイクルの中の地続きなものである様が、圧巻の映像美で描かれていく。アニミズム的な神性が美しく浮かび上がるエルデム監督の新たな傑作。

[アジアン・プレミア]

10/29(土) 11:00 10/31(月) 11:15

公式サイト作品詳細ページ
©2016 Edith Held / DOR FILM-WEST, Four Minutes Filmproduktion
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』(The Bloom of Yesterday)
125分/カラー/ドイツ語(日本語・英語字幕付き)/2016年/ドイツ=オーストリア
監督:クリス・クラウス
プロデューサー:ダニ・クラウス、カトリン・レンメ
共同プロデューサー:ゲルト・フーバー、クルト・シュトッカー
撮影監督:ソニア・ロム
プロダクション・デザイナー:ジルケ・ブール
衣装:ジョイア・ラスぺー
編集:ブリギッタ・タウフナー
音響:アンドレ・ツァッハー
音楽:アネッテ・フォックス
出演:ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン=ヨーゼフ・リーファース、ハンナ・ヘルツシュプルング


ホロコーストのイベントを企画する頑固な男が、強引な性格を理由に担当を外される。納得のいかない男は、風変りなフランス人インターン女性と独自に準備を続けるが、やがて意外な事実に行き当たる...。

日本を含め世界でヒットを記録した『4分間のピアニスト』(06)にて、獄中の天才ピアニスト少女と戦中の辛い記憶を抱える老女の交流を描いたC・クラウス監督は、今回もホロコーストというヘヴィーな題材を、ユーモアや恋愛を交えて鮮やかに語ってみせる。凄惨な歴史の記憶を継承する重要性と、人間味溢れるラブ・ストーリーとを両立させる巧みさに、職人技が伺える。主演のラース・アイディンガーは、舞台俳優として活躍する一方、いまや国境を越えて活躍する欧州映画に欠かせない存在である。共演のアデル・ハネルは現在のフランスきっての売れっ子であり、ダルデンヌ兄弟監督新作でヒロインを演じて今年のカンヌ映画祭の話題をさらった。

[ワールド・プレミア]

10/27(木) 21:10 10/28(金) 14:20

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© The IdeaFirst Company Octobertrain Films
『ダイ・ビューティフル』(Die Beautiful)
120分/カラー/フィリピン語(日本語・英語字幕付き)/2016年/フィリピン
監督/プロデューサー/原案:ジュン・ロブレス・ラナ
エグゼクティブ・プロデューサー:ペルシ・インタラン
プロデューサー:フェルディナンド・ラプス
ライン・プロデューサー:オマール・ソルティハス
脚本:ロディ・ベラ
撮影監督:カルロ・メンドーサ
編集:ベン・トレンティーノ
作曲:リカルド・ゴンサレス
プロダクション・デザイナー:アンヘル・ディエスタ
出演:パオロ・バレステロス、クリスチャン・バブレス、グラディス・レイエス、ジョエル・トーレ


美女コンテストで優勝したトランスジェンダーのトリシャが突然死してしまう。彼女の望みは、埋葬前に幾夜も行われる儀式で、毎回違うセレブの装いをまとうこと。友人たちは団結してトリシャの願いを叶えようとする。トリシャが生きた、カラフルでちょっと変わった一生を思い起こしながら。息子として、姉として、母として、友として、恋人として、妻として、そして女王としての人生を。

『ある理髪師の物語』(13)でユージン・ドミンゴにTIFF最優秀女優賞をもたらしたラナ監督新作は、またもや俳優が見事に際立つ作品である。トランスジェンダーのヒロインの笑いと涙に満ちた生涯と、レディ・ガガの姿で逝きたいという彼女の遺言を叶えようとする友人たちの姿を、巧みなフラッシュバックを駆使して感動的に描いてみせる。苦境をはねのける明るさと、生への肯定に満ちた人物像の創造こそが、ラナ監督の真骨頂であるといえる。驚異的な存在感を発揮する主演のパオロ・バレステロスは、フィリピンのバラエティ番組のホスト役などで活躍しており、有名人になりきるインパーソネーター、そしてメークアップ・アーティストとして知られている存在である。

[ワールド・プレミア]

10/27(木) 17:50 11/02(水) 21:00

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『フィクサー』(The Fixer)
100分/カラー/英語、ルーマニア語、フランス語(日本語・英語字幕付き)/2016年/ルーマニア=フランス
監督/脚本:アドリアン・シタル
脚本:クラウディア・セィリシュテアヌ
撮影監督/プロデューサー:アドリアン・セィリシュテアヌ
編集:ミルチェア・オルテアヌ
音響編集:イワン・フィリプ、ダン・シュテファン・ルカレアヌ
プロデューサー:アナマリア・アントチ
共同プロデューサー:ジャン・デ・フォレ
出演:トゥドル・アロン・イストドル、メフディ・ネボウ、ニコラ・ヴァンズィッキ、ディアーナ・スパタレスク、アドリアン・ティティエニ、クリスティアン・イリンカ、アンドレーア・ヴァシレ


売春をしていた少女がパリからルーマニアに強制送還された。事件を取材するTVクルーを手伝う記者は手柄を立てようと張り切るが、少女への面会は難航し、記者の前にヨーロッパの闇が立ちはだかる...。

ゼロ年代中頃からルーマニア映画は世界の映画祭を席巻し続けているが、本作が長編5作目となるA・シタル監督もその一角を狙う存在である。現代ヨーロッパが抱える問題の中で、ジャーナリストとしての職業倫理と葛藤する主人公の心理が、息子との関係にも影響を及ぼしていくなど、スリリングなストーリーテリングが堪能できる心理ドラマである。本作とほぼ同時期に製作され、ベルリン映画祭に出品された前作の『Illegitimate』(16)は、常識や倫理が持つ意味を、カオティックな家族の物語の中で相対化して見せる傑作であった。2作に共通するのは、現代社会における個人のモラルの危うさである。ルーマニアの注目作家による屈指の演出力に注目したい。

[アジアン・プレミア]

10/29(土) 18:10 10/31(月) 14:30

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©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
『アズミ・ハルコは行方不明』(Japanese Girls Never Die)
100分/カラー 日本語(英語字幕付き)/2016年/日本
配給:ファントム・フィルム
監督:松居大悟
原作:山内マリコ
主題歌:チャットモンチー
劇中アニメーション:ひらのりょう
音楽:環ROY
出演:蒼井 優、高畑充希、太賀、葉山奨之、石崎ひゅーい、加瀬 亮、菊池亜希子、山田真歩、落合モトキ、芹那


突如、街中に拡散される、女の顔のグラフィティアート。無差別で男をボコる、女子高生集団。OL安曇春子(28)の失踪をきっかけにひとつの街で交差する、ふたつのいたずら。なぜハルコは姿を消したのか?

10/30(日) 13:35 11/01(火) 14:05

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© Youth Film Studio
『ミスター・ノー・プロブレム』(Mr. No Problem)
144分/モノクロ/北京語(日本語・英語字幕付き)/2016年/中国
監督/脚本:メイ・フォン
エグゼクティブ・プロデューサー:ユイ・ジエンホン
プロデューサー:ホウ・グアンミン、ウー・マンファン
原作:老舎
共同プロデューサー:グオ・ヨンハオ、チョウ・キョン
編集:リャオ・チンソン
撮影監督:チュー・ジンジン
出演:ファン・ウェイ、イン・タオ、シー・イーホン、チャン・チャオ、ワン・ハンバン、ワン・ズートン


重慶のシューファー農場は、生産性は高いが利益につながらない。雇われ番頭のディンは、収入を増やすために自称芸術家のチンに空き部屋を貸すことにする。ディンと従業員たちの癒着に不満を抱いた農場所有者は、ディンをクビにしようとするが、便宜を受けているチンが反対する。それでも所有者一家は近代的発想を持つ新しい経営者を雇用することにし、騒ぎは大きくなっていく。

ロウ・イエ監督の脚本家として名高いメイ・フォンは、自らの初監督作として、中国近代文学において魯迅と並び称される作家である老舎が、1943年に発表した短編小説を選んだ。富裕家族と番頭さん、軽薄な若者に、近代的経営者など、個性的な面々が行き交い、軽やかな味わいの作品世界を彩っていく。戦火の気配は遠くに感じるのみであり、一種のパラダイスの中で進行する物語が、来るべき新時代の空気を予見する。作品のトーンとして「リアリズムと印象派の釣り合いを求めた」と監督は語り、様式美を備えた品格あるモノクロ映像として見事に結実している。監督としての確かな力量を証明する堂々たるデビュー作である。

[ワールド・プレミア]

10/29(土) 14:10 11/02(水) 10:20

公式サイト作品詳細ページ
© LA RUMEUR FILME - HAUT ET COURT DISTRIBUTION
『パリ、ピガール広場』(Paris Prestige)
106分/カラー/フランス語(日本語・英語字幕付き)/2016年/フランス
監督/プロデューサー:アメ、エクエ
プロデューサー:ブノワ・ドヌー
出演:レダ・カテブ、スリマヌ・ダジ、メラニー・ロラン、ヤシーヌ・アズゥズ


仮出所中のナセルは、兄のバーを手伝うが身が入らない。やがて自分が得意とするクラビングをビジネスとして立ち上げようとするが、ぎくしゃくとしていた兄との仲は一層悪化していく...。歓楽街を舞台に、移民系の男が底辺から這い上がろうとする様を描く人間ドラマ。

パリの歌舞伎町とも称されるピガール地区は、猥雑な歓楽街である一方で、近年は若者が住みたがる人気の地区でもある。様々な人が行き交うこの地を舞台に、本職はメッセージ系のラッパーである監督コンビが、現在のパリを象徴するリアルな人間模様を描き出した。人物に近く寄り添うカメラにより、観客も映画の中のドラマを生きることになる。パリのナイトライフの裏側に、移民系フランス人兄弟の葛藤の物語を交え、初監督作とは思えない臨場感溢れる演出力が発揮されている。主演のレダ・カテブは現在のフランスを代表する若手演技派の一人であり、強面から善玉まで幅広く演じる力により、W・ヴェンダース監督最新作を含め、国の内外で出演作が相次いでいる。

[インターナショナル・プレミア]

10/29(土) 21:20 11/01(火) 17:30

公式サイト作品詳細ページ
©Kinorama, Beofilm and Croatian
『私に構わないで』(Quit Staring at My Plate)
105分/カラー/クロアチア語(日本語・英語字幕付き)/2016年/クロアチア, デンマーク
監督/脚本:ハナ・ユシッチ
撮影監督:ヤナ・プレチャシュ
編集:ヤン・クレムシェ
音楽:フルヴォエ・ニクシッチ
音響デザイナー:ロア・スカル・オルセン
衣装デザイナー:カタリナ・ピリッチ
美術監督:マティルデ・リッダー・ニールセン
出演:ミア・ペトリチェヴィッチ、ニクシャ・ブティエル、ズラッコ・ブリッチ、アリヤナ・チュリナ、カルラ・ブルビチ


病院に勤務するマリヤナの人生は、望もうが望むまいが、彼女の家族を中心に回っている。強権的な父親、障害を持った兄、無責任な母親。彼らは小さなアパートで重なりあいながら、互いにイライラして暮らしている。そんなとき、父親が倒れてしまい、突如としてマリヤナに家族の長としての責任が押し付けられてしまう。

本作の舞台となる美しいダルマチア地方はクロアチア有数の観光地であるが、ジュシッチ監督はその華やかな光と対比するように、狭く窮屈で雑然とした住まいに暮らす家族に焦点を当てた。自伝的内容では無いものの、登場するキャラクターの多くは監督が良く知る人々をモデルにしている。当初は印象の悪い人物たちに対し、観客が徐々に好意を抱くように導く演出に、監督のキャラクターに対する愛と理解が感じられる。自由になることの難しさ、そして場合によっては敵であっても身近な存在に囲まれる家族の方が居心地がいいかもしれない、というジレンマのリアリティは絶妙である。見事なカリスマ性を発揮する主演のミア・ペトリツェヴィッチが演技初経験ということにも驚かされる。

[アジアン・プレミア]

10/30(日) 10:15 11/01(火) 10:50

公式サイト作品詳細ページ
©Nordisk Film Production Sverige AB
『サーミ・ブラッド』(Sami Blood)
112分/カラー/スウェーデン語(日本語・英語字幕付き)/2016年/スウェーデン=デンマーク=ノルウェー
監督:アマンダ・ケンネル
エグゼクティブ・プロデューサー:ヘンリック・セイン、レーナ・ハウゴード
プロデューサー:ラーシュG・リンドストロム
撮影監督:ソフィーア・オルソン、ペトルゥス・シェーヴィーク
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アーストロム、マーリン・クレーピン、アンドレアス・クンドレル、イルヴァ・グスタフソン


1930年代、スウェーデン北部の山間部で暮らすサーミ族は、劣等民族とみなされ差別的な扱いを受けていた。従属を拒んだ少女は、運命を変えようと決意する...。

サーミ族は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北部に居住する少数民族であり、フィンランド語に近い独自の言語を持っている。30年代のサーミ族は支配勢力のスウェーデン人によってスウェーデン語を強要され、同化政策の対象となり、劣等民族として差別を受けた。スウェーデンの歴史のダークサイドである。カーネル監督自身がサーミ族の血を引いており、自らのルーツをテーマとする短編を撮った後、処女長編となる本作でも同テーマを扱った。監督曰く「支配階級と劣等民族の構図はまだ存在します。映画はスウェーデン史の暗部を描いていますが、でも基本的には、同様なことが現在でも難民キャンプで暮らす誰かに起こりうるのです」。先の世代の体験を力強い少女に託し、ラップランドの美しい自然の中で描く感動的なドラマである。

[アジアン・プレミア]

10/26(水) 14:50 10/30(日) 21:05

公式サイト作品詳細ページ
©Magilm Pictures Co., Ltd. & Dadi Century (Beijing) Co., Ltd
『シェッド・スキン・パパ』(Shed Skin Papa)
100分/カラー/広東語(日本語・英語字幕付き)/2016年/中国=香港
監督/脚本:ロイ・シートウ
原作/脚本:佃 典彥
プロデューサー:ジュリア・チュー
共同プロデューサー:チョー・キンマン、エスター・クー
撮影監督:チャウ・ゲイション
美術監督:アンドルー・ウォン
コスチューム・デザイナー:アイビー・チャン
作曲:レオン・コー
音響:ドゥ・ドゥチー
編集:ウォン・ホイ
出演:フランシス・ン、ルイス・クー、ジェシー・リー、ジャッキー・チョイ


挫折した映画監督の男が借金と離婚問題に悩んでいる中、老いた父は脱皮して若返っている?奇想天外な展開から、やがて香港の歴史と愛の物語が浮かび上がる感動コメディー。

舞台演出家として輝かしいキャリアを築いているロイ監督が、自らの演劇賞受賞作を映画作品として初監督した。原作は佃典彦氏による「ぬけがら」であるが、脱皮を巡るシュールさと楽しさは活かしつつ、父と息子、そして夫婦の愛の物語を通じ、香港の歴史をも概観する内容に見事に翻案している。主演は、目下3年連続で最も稼ぐ香港スターの1位に輝いているルイス・クー。2015年は実に14本の映画に出演しており、今回は挫折した映画監督を演じ、板についたダメ男っぷりを披露している。ダブル主演には、演技派の雄、フランシス・ン。コミカルなドタバタ・アクションから、シリアスな語りまで、本作の中で文字通り七変化の活躍を見せる。

[ワールド・プレミア]

10/26(水) 21:20 10/28(金) 21:20

公式サイト作品詳細ページ
© RTFeatures
『空の沈黙』(The Silence of the Sky)
102分/カラー/スペイン語、ポルトガル語(日本語・英語字幕付き)/2016年/ブラジル
監督:マルコ・ドゥトラ
脚本:セルヒオ・ビージオ、カエタノ・ゴタルド
撮影監督:ペドロ・ルケ
編集:エドゥアルド・アキノ
プロダクション・デザイナー:マリアナ・ウリザ
音楽:ギリェルミ・ガルバト、グスタヴォ・ガルバト
出演:レオナルド・スバラーリャ、カロリーナ・ジッケマン、チノ・ダリン、アルバロ・アルマンド・ウゴン、ミレージャ・パスクアル


侵入者から妻への暴行を止められなかった男が、自責の念に苦しみ次の行動を思い悩む。妻も暴行された事実を隠し、二人の間には重い空気がたれこめる。極限状態に置かれた人間心理の奥底を見つめるスリラー。

短編時代からカンヌ映画祭の常連であったデュトラ監督は、処女長編『Hard Labor』(11/フリアナ・ロハスと共同監督)が同映画祭の「ある視点」部門に選出された。収入を失う危機に直面する家族の物語にホラーテイストを加味した作品であったが、監督は長年に渡り日常の中に潜む恐怖に関心を寄せている。3作目となる本作において、恐怖のレベルは異常事態下における夫婦間の心理戦へと進化し、パラノイア的なモノローグと計算されたカメラワークが見事に緊迫感を高めている。原作のセルジオ・ビジオは極限状態における濃厚な心理サスペンスを得意とするアルゼンチンの作家で、作品の多くが映画化されている(09TIFF審査員特別賞受賞作『激情』等)。

[インターナショナル・プレミア]

11/01(火) 20:40 11/02(水) 17:50

公式サイト作品詳細ページ
© Snow Woman Film Partners
『雪女』(Snow Woman)
95分/カラー&モノクロ/日本語(英語字幕付き)/2016年/日本
配給:株式会社 和エンタテインメント
監督:杉野希妃
プロデューサー:小野光輔、門田大地
共同プロデューサー:福島珠理
撮影監督:上野彰吾
脚本:重田光雄
美術:田中真紗美
音楽:sow jow
出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎、水野久美、宮崎美子、山本剛史


小泉八雲原作「怪談」の一編である「雪女」を新たな解釈のもと、杉野希妃監督が映画化、自ら雪女とユキの2役を演じている。杉野の長編監督作品としては、『マンガ肉と僕』『欲動』に続く第3作となる。

ある時代、ある山の奥深く、吹雪の夜。猟師の巳之吉は、山小屋で、雪女が仲間の茂作の命を奪う姿を目撃してしまう。雪女は「このことを口外したら、お前の命を奪う」と言い残して消え去る。翌年、茂作の一周忌法要の帰り道。巳之吉は、美しい女ユキと出会う。やがてふたりは結婚し、娘ウメが生まれる。14年後。美しく聡明な少女に成長したウメは、村の有力者の息子で、茂作の遠縁にあたる病弱な幹生の、良き話し相手だった。しかしある日、茂作の死んだ山小屋で幹生が亡くなってしまう。幹生の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡が。巳之吉の脳裏に、14年前の出来事が甦る。自分が見たものは何だったのか、そしてユキは誰なのか‥。

[ワールド・プレミア]

10/28(金) 11:00 10/31(月) 17:40

公式サイト作品詳細ページ
©2016 Over the Barn, LLC
『浮き草たち』(Tramps)
82分/カラー/英語、ポーランド語(日本語・英語字幕付き)/2016年/アメリカ
監督:アダム・レオン
音楽:ニコラス・ブリテル
撮影監督:アシュレイ・コナー
編集:サラ・ショウ
プロダクション・デザイナー:エリン・マギル
装飾:エメリン・ウィルクス=デュポワ
出演:カラム・ターナー、グレース・ヴァン・パタン、マイク・バービグリア、マーガレット・コリン、ミハル・フォンデル、ルイス・キャンセルミ


ダニーは将来有望のシェフ。インチキな兄から、ある仕事を頼まれた。仕事内容は単純で、ブリーフケースを持った運転手と一緒にリゾート地に行って、別のブリーフケースと交換するというもの。嫌々引き受けたダニーだったが、ことはそう単純には進まない。焦るダニーの前に、謎の少女が現れる。

カンヌ始め、多くの映画祭を巡ったA・レオン監督処女作『Gimme the Loot』(12)は、NYのストリートを舞台にグラフィティ・アーティストたちの友情を描くものだった。使い古された設定をリブートして評価された監督は、2作目となる本作でも、スリラー仕立ての青春ラブ・ストーリーというジャンルに見事に新風を吹き込んでいる。若者の心理をリアルに捉え、困難な状況を設定しつつもユーモアを忘れず、クールな映像と音楽の組み合わせにセンスを発揮し、爽やかな後味をもたらしてくれる期待の才能である。主演のC・ターナーは『グリーン・ルーム』(日本公開17年2月)で注目されたイギリス出身の26歳で、出演作が多数控える新鋭。

[アジアン・プレミア]

10/26(水) 11:20 10/30(日) 17:10

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