OUTSIDE IN TOKYO ENGLISH
COSTA-GAVRA INTERVIEW

コスタ=ガヴラス:オン『西のエデン』

3. デジタルにより、映画の経済、美意識が変わり、映画の普及の仕方、見せ方が変わるでしょう

1  |  2  |  3

それは入口を広げ、入りやすくして学んでもらう意図があるのですか?
今いくつか挙げましたが、映画史上、素晴らしい作品は全てエンターテイメントです。映画を見ることは、大学へ行って授業を聞くことでもなければ、政治集会に出ることでもありません。一番人々がエンターテイメントだと感じる作品は、人間について語っているものです。もちろん才能を持って語らなければなりませんが、人間について語っていると同時に、その人が生きている社会について、うまく説明してくれている。だから自分を投入して、同一視して見ることができる。そして後に、考える可能性を開いてくれる。それが最も優れたエンターテイメントです。

今回、僕自身もそうですが、見ていてユーモアを感じる瞬間が多かったのですが、そのユーモアも意識されているのですか?
もちろん、テーマによりますが、この作品に限っては、アイロニーのタッチを入れようと思いました。映画はまず、見る人の感情を引き起こします。好きだとか、嫌いだとか、笑うとか泣くとか。そうした感情を呼び起こすことができて、初めてその人たちに考えさせることができるのです。

今回、主人公はその国の言葉ができないことで、(観客は)見るという行為に集中できた気がするのですが、同時に、シネマテークでの無声映画についての話も読みました。そこで音と映像についての自分のバランスを教えていただけますか?
無声時代に出来た作品、無声映画は、世界で最も美しい作品だったと思います。その後、音が導入されましたが、トーキーになるのは当然の帰結でした。しかし音を使ったからと言って、あまり状況がよくなっていない作品もたくさんあります。映画において音を作る時、まず人物がいて、それから音を使いますが、その音符の使用は、ドラマツルギー面での必然に対応しているべきだと私はいつも考えています。ですから、テーマがむずかしい映画だからと言って、音の工夫や、音楽をたくさんいじれるべきだというふうに私は思いません。音のロジックがありますし、人物のロジックがある。その間には対応関係がなければならないと思うのです。今回の作品の利点は、その国の言葉が話せない登場人物という設定ですから、彼は視線と身体だけを使って、全てを行わなければなりませんでした。つまり、突然入ってこられた社会を、知らなかった社会を、ただ見るだけで理解しなければならなかったのです。言葉を介入させることができませんでした。その点は、俳優にとっても、また演出家にとっても、むずかしいと同時に、とてもおもしろいことでした。つまり、言葉を介さずに、彼の行動をさせていくための解決策をいつも見つけていかなければなりませんでした。

この作品で見せた傾向は、これに特化したものですか?それとも、今後意識していくものでしょうか。
この映画に限って、このストーリーだからこのスタイルになったということです。ストーリー毎に、そのストーリーに最も適切なスタイルを選ぶべきだと思います。少なくとも、作品毎に、そのストーリーに最も相応しいスタイルを選んできたつもりです。

最後の質問ですが、監督は映画に希望をお持ちでしょうか。
未来はあると思います。過去とはかなり違った未来になるでしょう。今、我々は革命的な時期に生きていると思います。それはデジタルが導入されたからです。すでにデジタルによって変わった部分がありますが、ますます映画は変わっていくでしょう。映画の経済が変わり、映画の美意識が変わり、映画の普及の仕方、見せ方が変わるでしょう。そして今も、すでにそのような分野で変わっている部分もありますが、その変化は更に大きくなっていくことでしょう。フランスでもどのようになって、それがどこに行くのかは分かりませんが、急速に物事が変わっています。おそらく、デジタルのために、あらゆるストーリーの語り方が可能になるでしょう。
映画に起きた最初の革命は、無声映画からトーキーへの移行でした。その際に多くの監督が消え、俳優が消えていきました。映画の美学が変わりましたし、映画の経済も変わりました。作品の作り方も変わっていきました。それで同じような革命が今起きています。ただし今回の革命は、第一回の革命よりは、さらに大きなもので、大きな変革をもたらすでしょう。

コスタ=ガヴラス監督プロフィール
1933年ギリシャ生まれ。19歳のときに渡仏。IDHEC(映画高等学院)を卒業後、助監督としてルネ・クレマンらのもとで映画制作を学ぶ。65年に『七人目に賭ける男』でデビュー。ギリシャの政治事件を題材にした『Z』(69)で世界的な名声を得る。以後『告白』(70)『戒厳令』(73)、『ミッシング』(82)『背信の日々』(88)『ミュージック・ボックス』(89)などで社会派映画の巨匠としての地位を確立。2001年の『ホロコースト-アドルフ・ヒトラーの洗礼-』では、セザール賞脚本賞を受賞。ナチスドイツの犯罪に対する「ローマ法王の沈黙」を描きヨーロッパで波紋を呼ぶ。2004年の『斧』では、リストラが与える社会への影響をサスペンス仕立てで描き、フランスで大ヒットを記録した。妻のミッシェル・レイ=ガヴラスは、元ジャーナリストで映画プロデューサー、本作『西のエデン』でもプロデューサーを務めている。

1  |  2  |  3