OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ドゥニ・ヴィルヌーヴ『複製された男』オフィシャル・インタヴュー

3. いい意味で(ジョゼ・サラマーゴの)原作を壊し、自分のものにする必要がある。
 そうでなければ本当の脚色とは言えない。

1  |  2  |  3



Q:“複製”された人物の見せ方についてお話を聞かせてください。
DV:今までにも何度か特殊効果を使ったけれど、それほど多くはないよ。それも今回のような複雑なものではなかった。俳優にテニスボールを相手に演技してくれと頼んだのは、今回が初めてのことだ。でもどんなに高度な技術や、演技手法を用いたとしても、結局俳優自身の演技力が全てなんだ。技術力そのものではなく、それをどう活かして演じられるかが大切なんだよ。その点、ジェイクはこれ以上ないというほどに素晴らしかった。もちろん特殊効果や技術担当のスタッフも素晴らしい仕事をしてくれたけれど、完成した映像の現実味はジェイクの演技によるところが大きいし、それなくしては成り立たない。最も重要なのは、演技なんだと言いたいね。

Q:ジョゼ・サラマーゴの小説「複製された男」を映画化するにあたって、何が重要でしたか?
DV:長くて複雑な小説を90分の映画にまとめることに成功したハビエルの仕事は脚本家としてとても素晴らしい。原作の内容は、延々と続く主人公の狂気とも言える内なる独白劇のようなものなんだ。それをハビエルは動きを与えてイメージを具現化させたんだ。驚くべき成果だよ。それから映画が実際に作られていく過程で、感情面の脚色も加えていった。言葉だけでは表現しきれなかった部分も、映像化することである意味脚本よりも深くて力強いものになった。まあ大抵の映画はそう言えるだろうけどね。けれど本作の映像化は、原作とは大きく異なる部分がある。映画では独自の解釈を加えたんだ。私はサラマーゴに会った事はないし、既に他界しているから今後も会う事は出来ないけれど、著者に最大限の敬意をはらうためには、加味する解釈は真摯なものでなければならない。それと同時に、いい意味で原作を壊し、自分のものにする必要がある。そうでなければ本当の脚色とは言えないと思う。だから原作と映画には全く繋がりがないと言えるけれど、ある側面ではとても似通ったものだとも言える。まあ、私からすればね。

Q:蜘蛛は何かの象徴でしょうか?
DV:蜘蛛についてはこんな短い時間じゃ的確に話せないね(笑)でも強いて言うなら、男の潜在意識と性を象徴するような具体的なイメージを私はしばらく探していたんだ。私にとって蜘蛛は完璧なイメージだった。今はこれ以上話さないよ。説明しない方が遥かに面白いと思うからね。以前同じような事を聞かれた時には答えるべきプレッシャーを感じて話したけど、今はそれがないからね。個々の解釈に任せるのがベストだと思う。私個人としての見解はあるけど、それぞれの想像力と映像を通して、そのイメージを見た方がインパクトは強いと思う。明確にした方が鮮明なイメージが出来るかもしれないけど、やはり観客の解釈に任せるのが一番いいと思うんだ。


1  |  2  |  3