OUTSIDE IN TOKYO
EMMANUELLE DEVOS & MARTIN PROVOST INTERVIEW

20世紀初頭、望まれぬ子として生まれ、「今度生まれてくるなら、彫像にうまれてくればいいと思う。堆肥の下にうごめくなめくじに生まれればいいと思う」と、自らの幼少時代の心象風景を代表作「私生児」(64)の中で描写した作家ヴィオレット・ルデュックは、本国フランスでも誰もがその名を知る存在というわけではない。

ヴィオレットを演じたエマニュエル・デゥヴォスも、読んだことがなかったと語っている通り、ヴィオレットがマイナーな存在に留まっていた理由を、ヴィオレットに魅了されて作家の道を進み、本作の共同脚本家を務めた、フランスにおけるイタリア文学、日本文学の著名な翻訳者でもあるルネ・ド・セカティは以下のように語っている。「同性愛者、より正確にはバイセクシャルであるという偏見が、彼女の読者を限定していた。一部の評論家が彼女を無視した理由のひとつには、生々しい感覚を描写しようとした女性作家に対する嫌悪を挙げるべきだろう。彼女は”自らの内臓”で書く作家と批判され、不幸の露悪趣味があるとみなされた。「私生児」が大ヒットしたことが、かえって彼女の才能に対する疑惑を生んだと言える。」(プレスシートより引用)

しかし、「私生児」冒頭の熱烈な序文を読めばわかるように、ボーヴォワールがその「天分と文体」に惚れ込み、サルトルやジュネ、コクトーが作家としての才能を認めたヴィオレット・ルデュックの「自我のもっとも深いところまで降りていき、そこで見つけたものを、まるで聞き手なんかいないかのように大胆な誠実さで語った」(ボーヴォワール)自らの体験と記憶に根ざした自伝的な小説は、21世紀の今読んでも、その文体の強度と現代性、迸り出るエロティシズム、性的アイデンティティについての深い考察、物質に官能的な言葉すら与えた独自の語り口に、惹き付けられずにいられない。

映画は、そんな文学的才能に恵まれながらも、「私生児」として生まれた出自と外見のコンプレックスに悩まされ続けたヴィオレットが、同性愛的感情の対象であったボーヴォワールの寛大な支援を受けながら、”書く”という行為によって光を見出していく姿を、ボーヴォワールやジュネが生きた時代のパリ、そして、南仏の豊かな自然のもとに、叙情性、官能性豊かに描きだした。実に見事に”自分とはまったく似ていない”人物像を匂い立つ官能性と愛嬌すら滲ませ、愛すべき女性として演じきったフランスを代表する女優エマニュエル・ デゥヴォス、この類い稀なる作家の物語を”自分の物語”、”普遍的な芸術家の物語”として語ったマルタン・プロヴォ監督のインタヴューをここに掲載する。

1. 彼女の作品を読んだ後、“書く”とはどういうことなのだろう、ということを考えました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降:OIT):マルタン・プロヴォ監督から、ヴィオレットの役をデゥヴォスさんで当て書きされたと聞いています。最初にこの役のオファーが来たときはどのように思われましたか?
エマニュエル・デゥヴォス:最初に監督にお会いしたのはシナリオを書き始める前のことでした。わたしは、なぜ、わたしなのだろう、と思ったのです。まったく、わたしと近い人物像には思えなかったものですから。ただその時、マルタンからは、彼女は今ほとんど知られていない作家だから、一から人物像を創っていくんだ、という説明を受けました。ですから、最初は、ただただびっくりしたという感じでした。
OIT:デゥヴォスさんは、ヴィオレットのことをご存知でしたか?
エマニュエル・デゥヴォス:全然知りませんでした。
OIT:その後、どのように話は進行しましたか?
エマニュエル・デゥヴォス:マルタンに会った後、まず自伝を読みました。とても分厚い本なのですが、凄く面白いんです。そして、彼女の作品と書簡類を読んだんです。それで、彼女のことを全て理解できたと思いました。
OIT:そうした文献を読まれた後、撮影に入るにあたって、何か特別な役作りはされましたか?
エマニュエル・デゥヴォス:彼女の作品を読んだ後、“書く”とはどういうことなのだろう、ということを考えたのです。わたしは、全然文章を書くということをしない人間なんです。書きたいという衝動もありませんし。それでも“書く”とはどういうことなのだろうと思って、自分で少し文章を書いてみましたが、全然、上手くは書けなかったですね。ただ、“書く”シーンがたくさんありますから、筆跡の学校に行って、ヴィオレットと同じ筆跡で書けるように講義を受けました。そのプロセスはとても楽しいものでした。

『ヴィオレット ある作家の肖像』
原題:VIOLETTE

12月19日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

監督・脚本:マルタン・プロヴォ
撮影:イヴ・カープ
衣装:マドリーヌ・フォンテーヌ
脚本:マルタン・プロヴォ、マルク・アルデルヌール、ルネ・ド・セカティ
編集:リュド・トロック
音響:パスカル・ジャスム、イングリッド・ラレ、エマニュエル・クロゼ
美術:ティエリー・フランソワ
出演:エマニュエル・デゥヴォス、サンドリーヌ・キベルラン、オリヴィエ・グルメ、カトリーヌ・イジェル、ジャック・ボナフェ、オリヴィエ・ピィ、ナタリー・リシャール、スタンレー・ヴェベール

© TS PRODUCTIONS - 2013

2013年/フランス/139分/カラー/1:1.85/5.1ch/DCP
配給:ムヴィオラ

『ヴィオレット ある作家の肖像』
オフィシャルサイト
http://www.moviola.jp/violette/
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