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Press conference

ダスティン・ホフマン『カルテット!人生のオペラハウス』記者会見全文掲載

3. (この映画は)彼らにとって自分たちの人生はそういう風に美しく見えているという心象風景なのです

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Q:音楽について伺います。この作品は音楽そのものを、誰もが耳にしたことがある曲を使ってらっしゃいますが、監督がこの作品を手がけられて改めて気に入った曲を教えて下さい。また、これまでご自身が俳優としてご出演された映画で今でも気に入っているテーマ曲などあれば教えて下さいますか?
ダスティン・ホフマ:これは大切な質問ですね!そうですね。この映画に使った音楽は伝統的なクラシックにしろ、ヴェルディにしろ、好きなものばかりです。私がとても好きなヴォードヴィルのシークエンスなんかもね。好きだから選曲しました。音楽がフィルムに一体感を与え形作ってくれました。ごりごりの現実とは違う印象派的なフィルムにしたかったのです。とにかく映像は綺麗に撮りたかった。出演者はみんな年寄りで顔には年齢が刻まれている。その顔を美しいものとして認識させるためにもね。フィルム自体が彼らの内に秘めたものを映し出し、そこに人生が反映されます。外面は違っても、彼らにとって自分たちの人生はそういう風に美しく見えているという心象風景なのです。

私自身が出演する映画については、素晴らしい曲の数々に出会えて幸運でした。皆さんご存知の通り『卒業』(67)のサイモン&ガーファンクルに始まり、『真夜中のカーボーイ』(69)も良かった。ベスト2はそれですね。『クレイマー、クレイマー』(79)ではヴィヴァルディが使われました。この手の映画でクラシックを挿入曲としたのはこれが割と初期の試みだったかと思います。私自身、ピアニストになりたかったのですが、ぱっとしなくて俳優に転向しました。そもそも俳優は第二の選択でした。

ご質問に答えているうちに忘れるところでした。
この映画はコメディであり、ラブストーリーでもあります。このラブストーリーとしての展開で重要なのは、2人が出会い恋に落ちて結婚しながら浮気により別れてしまうというところです。その後2人は40年間会うことがない。運命が2人をリタイアメントホームに引き寄せ再会を果たします。

男が彼女を愛し続けていたことは見てとれるでしょう。再婚すらしていません。片や女性の方は何度も再婚を繰り返した。真に愛する男性と結ばれていなかったのは明らかです。最初に結婚した男と一緒にいるべきだったのです。再会した2人は、40年前の関係が終わったところからやり直そうとする。

そこから学んで欲しいのです。トラウマになるような出来事は起こります。そして、解決しないとトラウマはいつまでも残る。その傷は昨日切ったかの如く痛みます。40年後、2人ともがトラウマを抱えたまま変わっていない。その間の月日は無駄に過ぎ去ったのです。そうではない展開もあった筈ですよね。
私が苦い経験を通して学ぶところとなった信条ですが、憎しみを抱いてはいけません。不平不満を抱えていてはいけない。そういう感情はあなたを止めてしまう。成長を妨げてしまうのです。
これもまた、私がこの映画で意味深く感じているところです。

今日ここにいらっしゃる全ての方、私達は、この瞬間の人生を伴にしています。そして誰もが何かに苦しんでいると思います。愛する人の病気かもしれません、離婚かもしれない、何らかの別離、だれにも言えない痛みかもしれない。ただ確実に言えるのは、この部屋にいる誰1人として、そのような苦しみが皆無の人生をおくることはないということです。しかしそれでも、私達は生きて最善を尽くそうとする。私にはそれが気高いことに思えるのです。
その崇高さが私の映画を通して感じられるように願っています。


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