OUTSIDE IN TOKYO
ITAI TAMIR Interview

イタイ・タミール『彼が愛したケーキ職人』インタヴュー

2. 少ない資金を元手に見切り発車で撮影をしてしまって、ラフカットを作りました

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OIT:サラ・アドラーは素晴らしい女優さんですね。個人的には、最初に彼女を観たのはゴダールの『アワーミュージック』(04)だったと思いますけれども、『アワーミュージック』(04)のことは頭にあったりしましたか?
イタイ・タミール:彼女を熱望していたのはオフィルですが、彼の頭の中に『アワーミュージック』があったかどうかは、わかりません。ただ彼は、サラ・アドラーはこの役をやるべくして生まれてきた、この役を演じるのは彼女しかいない、と感じていたことは確かです。

OIT:監督のオフィル・ラウル・ゲレイツァは、フレーミングや演出が繊細で素晴らしいですね。彼のことは、脚本をやりたいと持ち込んでくる前から知っていたんですか?
イタイ・タミール:(2月の)ベルリン国際映画祭にはイスラエルのレセプションがあるのですが、そこでオフィルとは初めて会いました。まだ若いオフィルが私のところに来て、こんな脚本を書いたので読んでくださいと言ってきたのです。それが初めての出会いでしたが、「じゃあ読んでおくよ」とは言ったものの、3ヶ月間読んでなかったんです。そうしたらオフィルから、「もう読んだ?」っていう連絡がきてしまったので、「読んださ!」と返信しつつ、その夜急いで読んだわけです。そうしたら、とても良い内容だったので、じゃあ一緒にやろうということになりました。そこからやはり資金集めには相当時間がかかりましたよ。

OIT:それはこの作品の内容によるものですか?理由を教えて頂けますか?
イタイ・タミール:ドイツとの共同制作なので、ドイツの方々に脚本を読んでもらって、それで資金を獲得できると思っていたのですが、彼らから「物語に真実味がない」と言われてしまった、ゲイだったら女性と付き合うわけがないというわけです。その時点で見込んでいた資金のアテが外れてしまった。イスラエルにはエルサレム・ファンドというのがあって、そこは最初から気に入ってくれていて、そんなに多くはないけれど少額の資金を提供してくれることになりました。しかし、それでは足りなくてもっと資金が必要でしたが、このストーリーでは、陳腐すぎるし定番だ、シンプル過ぎると言われてしまって、なかなか資金が集まらない。そこで、少ない資金を元手に見切り発車で撮影をしてしまって、ラフカットを作りました。そこで、オフィルの手腕が発揮されたのです。実際に目に見える映像が出来上がってくると、皆さんは、定番だとか陳腐だとか言わず、非常にフレッシュでオリジナルなものになっていると思ってくれた。それは、ひとえに監督と俳優の力ですね。それから、そのラフカットを、もうちょっと資金を提供してくれそうな大きなファンドに持って行き、初めて完成できるだけの資金を提供してもらうことが出来たのです。その後、編集をするにも資金が必要ですから、ラフカットを今度はエルサレムに持って行った。そうしたら気に入ってくれて、ルーマニアのブカレストでポストプロダクションをする資金を提供してくれました。そのように、綱渡り的な資金集めを経て完成させることが出来たのです。



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