OUTSIDE IN TOKYO
Apichatpong Weerasethakul INTERVIEW

ジェームズ・ヴァンダービルト『ニュースの真相』オフィシャル・インタヴュー

2. ジャーナリストは、権力に対して勇敢に立ち向かい重要な質問を提起する。
 しかしながらその立場は危ういものになってきている

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Q:『ゾディアック』もジャーナリズムを描いた作品でしたが、あなたは、常に人々に疑問を持ち続けながら書いていくタイプの脚本家ですか?何か話を聞くと、すぐに映画のための構想を練るのでしょうか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:そうだね、観る人に疑問を投げかけるような映画が好きだね。そういう作品は魅力的だし、映画好きな一個人としてもやっぱりそういう作品が好きだ。元になったのはメアリー・メイプスの本だけど、読んだ時には既に映画にすることを考えていた。僕は、この一連の出来事があった時のことを、よく覚えている。アメリカでは大きな話題になったし、連日のように報道されていたから。でも当時は、映画にしようとは考えていなかった。後に彼女の本を読んだ時、彼女は非常に魅力的な女性だと思い、そこで初めて映画にすることを考えたんだ。仕事で頂点を極めたパワフルな女性、そういう彼女の視点から見た出来事を描くことができれば、非常に心に訴える作品になると思った。

Q:メアリー・メイプスには、お会いになったのですか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:イエス。実は、彼女とは、あの出来事があった1年後に会っていて、一緒に過ごす時間も多かった。当時の彼女は、まだ非常に傷ついていて、今にもうずくまりそうだったよ。それから9年の付き合いだけど、彼女は、その間に少しずつ立ち上がり、今は少し胸を張って少しずつ落ち着きを取り戻している。見ていて非常に嬉しかった。

Q:彼女が少しずつ変わっていく、その間に、この作品を書いていたのですね?
ジェームズ・ヴァンダービルト:ええ、そうです。

Q:衝撃から立ち直っている間に。
ジェームズ・ヴァンダービルト:そうなんだ。僕の目には、彼女が少しずつ元気を取り戻しているように見えた。でも最終的には、僕は自分が作ろうとしている作品を作らなくてはいけないし、映像に描かれた内容について、彼女が口をはさまないだろうことも分かっていた。

Q:メアリーが過ごしてきた状況を考えると心が痛みました。これは主題ではないかもしれませんが、男性社会に生きる女性は 風当たりが強いことも描かれているように思いました。そういう趣旨もありましたか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:そうだね。興味深いのは、彼女が受けた批判にもあるからね。興味深いというのは適切な言葉ではないかもしれないけれども。彼女がインターネットで自分に関するコメントを読むシーンがあるけど、あのコメントは全て本当に書かれていたことで、映画用に作ったものではないんだ。その中には、彼女の容姿や、 セクシャリティー、欲求、それから、いかに酷い女であるかということに言及したものがあったのは、彼女が女性だったからだと思う。そしてそういう話は、すぐに暴力と性につながる。僕は、彼女が男性だったらとも考えたけど、もし男性だったら、こんなことにはならず仕事を失うこともなかったと言いたかった訳ではないんだ。彼女に対する攻撃は、非常に種類の異なるものだったということが言いたかった。

Q:アメリカのニュース番組は常にリベラルであるべきだと考えますが、この出来事に関しては、良くない側面が露呈したように思います。視聴者はそれでも希望を求めていると思いますか?この映画を通して、メディアに対するメッセージはありますか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:希望は確実にあると思う。ジャーナリズムは本当に崇高な職業だと思っている。懸命に取り組み、話を組み立て、調査をし、そして、力を持つ人への疑問を投げかける、そういったことがジャーナリストの肩にかかっているからね。ダン・ラザーに起きたことは、誰にでも起こる可能性があって、僕にも起こり得ることだ。ジャーナリストは、それでも勇敢に立ち向かい重要な質問を提起する。だから、希望があると思う。しかしながらその立場は危ういものになってきていると思うよ。調査報道という立場が脅かされていることには、注意していかなくてはならないと考えている。


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