OUTSIDE IN TOKYO
Jasmila Zbanic Interview

ヤスミラ・ジュバニッチ『サラエボ、希望の街角』インタヴュー

2. さまざまな解釈や意見、反響を呼んだラストシーン

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Q:紛争前のサラエボは、異なる民族や宗教がおおらかに共存する世界的にも稀に見る人々にとって理想の街だったとお聞きしています。不条理で不寛容な社会状況は今や世界的な現象です。監督の考えるサラエボのこれから歩むべき未来、世界がこれから歩むべき未来はどういう姿でしょうか?
JZ:この答えは私こそ知りたいのです(笑)。真剣に答えますとこれをクリアに答えられる人も、クリアな答えもないように思います。サラエボはもっとポジティブな形で過去のトラウマ的な経験から抜け出す方法を見つけないといけないですね。これは簡単ではないのです。経済的状況が自由を許さない現状ですから。文化面での寛容さ、異質なものへの愛、他者への恐怖をなくすこと、新しいものや知らないものへの過剰反応をなくすなどでしょうか。私がいつもこれに対して一番大切と思っていることは物事を理解する上で何でも決して1つではないということです。残念ながら、私たちの文明や経済は操作から成り立っています。この操作はみなが同じ方向に向くという性質上成り立っているのです。しかし人生というのはさまざまであり、その美しさを享受すべきなのです。

Q:人々の不寛容は、ここ日本でも顕著な傾向です。そんな収縮していく”世界”の中で、デジタル技術の進歩は、世界中の多くの女性監督が自らの”映画”を撮り、彼女達のストーリーを世界に提示することを助けているといえるでしょうか?
JZ:女性は主たるビジネスの中心ではないのです。より重要でないビジネスにたくさんの女性が携わっています。それはより物事を安く仕上げたり、簡単にできるテクノロジーの問題ではなく、経済活動の流れの中で決して女性は中心ではないからです。 残念ながら、もし女性が「First League」に入れば、彼女たちは権力を崇拝する男性のように振舞わなければいけません。ごくまれに自分の方法を取り入れられる人がいるかも知れません。映画業界も例外ではないのです。女性は異なる物語を異なる方法で語ろうとしていますが、これを実現するための製作、配給、映画祭出品やメディアの注目などがより女性に向かう方法を模索しなければいけません。

Q:ラスト・シーンでルナが見せる凛々しくも澄みきった表情がとても印象的です。ルナの潔く、自分に正直に生きる姿勢がよく表れていると思われますが、このラストに監督が託したメッセージはなんですか?
JZ:まさにあの場面のルナは自身の中にある真実にたどり着いたのです。彼女は大いに変化しました。彼女は自分の人生がアマルの人生から違った方向へ進んでいると気づいたのです。そしてその新しい道がどんなに大変なものであっても進んでいこうと決めたのです。それは彼女の決断であり、彼女のための人生なのです。

Q:ラストシーンのルナの決心について伺いたいのですが、何か監督自身の考える結論はありますか?(EX:ルナは子供を産んで育てていくのか?あるいはその選択はしなかったのか…など)
JZ:もちろん!しかし、私は観客たちに自分たちなりの解釈をしてほしかったのです。これは決して観客をトリックで翻弄しようとかそうした意図ではないのです。誤解しないでくださいね。私はあくまでも観客たちに結論を委ねどのように話が終わるのかを自分なりに決めてほしかったのです。私がこの映画製作の過程で重なる旅を通じてさまざまな答えに出会いました。西欧ではルナは子供を中絶し2度とアマルには会わないだろうと、東欧では彼女は子供を生んで一人で育てるだろうと。また最後のシーンでのアマルの視線にもいろいろ意見がありました。彼は彼女に戻り、また仕事も得るだろうと。私はこの映画が人々を自分自身なら人生においてこのような重要な事に対しどのような決断を下すのかという自分の深層心理を知るきっかけになればうれしいです。

Q:監督に影響を与えた映画監督を教えてください。
JZ:世の中には本当にたくさんの素晴らしい映像の力を表現できる監督たちがいます。デヴィッド・リンチにはそのビジュアルの力、アンビバレントなトピック、とても正直なキャラクターたちにいつも圧倒されています。カサベテスには映画を作ることにおいての私的な部分の見せ方や、ジェーン・カンピオンのあふれるような感情と女性的なアプローチ、マフマルバフとその家族の映画から詩を作り出す力、フェリーニの素晴らしさとそのエネルギー、ユーモアと美、アントニオーニの知性と感情的な多義性、ベルイマンのキャラクターの魂へと掘り下げていく力、黒澤の人間ドラマのエッセンスなど、まだまだあります。

Q:最後に、日本の観客へ、一言メッセージをお願いします。
JZ:この映画を日本の皆様に見て頂く機会を与えて頂きとても光栄に思っております。
私は日本の観客をとても尊敬しており、皆様が映画を気に入ってくださると何よりです。
前回日本から持ち帰った2つのものを今回の映画の中に取り入れています。どなたか気づきましたら教えてくださいね。



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