OUTSIDE IN TOKYO
KEN LOACH INTERVIEW

ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』オフィシャル・インタヴュー

2. この映画は抵抗運動の後押しをした

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Q:『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、イギリスではあなたの作品の中で一番のヒットとなりました。素晴らしいことですね。一番のヒットとなった感想をお聞かせください。
ケン・ローチ:驚いています。私たちにとっては小さな作品ですから、大きな驚きでした。これまでにはない反響です。これまでにもスペインで妙にヒットしたり、アイルランドで特に成功したりした作品はありました。でも本作はなぜかツボを突いたようです。その理由はおそらく、特にヨーロッパ全土で、そしてたぶん日本でも、人々が同じ状況に苦しんでいるのに、誰もそれを話題にしてこなかったからではないでしょうか。真のポリティカル・コレクトネスとは自由市場に楯突かないこと、などと言う人がいます。私たちを殺しつつあるのが自由市場なのに、それを指摘するのは「政治的に正しくない」のです。誰も口に出さなくとも、この映画が証明しています。自由市場は私たちを殺す、私たちはそれを変えなければならない、ということを。

Q:デビュー作『キャシー・カム・ホーム』(66)が公開された際にはイギリスで1200万人が見て、法律が変わるなど、国を巻き込んだ動きになったと聞いています。本作はイギリスの公開時に、労働党党首のコービン議員が国会で取り上げるなど、一大ムーブメントとなりましたが、本作がイギリスの政策や政治にどのような影響を与えたか、その様子を具体的に、詳しく教えてください。
ケン・ローチ:この映画が及ぼした影響があるとすれば、それは現政権やその政策に対して運動を起こしている人たちを鼓舞したことだけだと思います。抵抗運動の後押し、それだけです。そして変化を起こすには政権の移行が欠かせませんから。今の政府が権力を持っている限り、何も変わりません。極右、反労働者階級の政権は、貧困者をさらに極貧に陥らせることであらゆる問題を解決したように見せるかけるのは分かっています。ですから政府を変えるしかないのです。この映画に影響力があるとすれば、その変化の促進剤ということになるでしょう。

Q:フードバンクのシーンが非常に強烈でした。あそこは、実際のフードバンクで撮影したのでしょうか。またあのシーンで大変だったことを教えていただけますか。
ケン・ローチ:あのフードバンクは、実在するフードバンクです。撮影の都合でほんの少し運営方法を変えましたが、本物です。そしてあのシーンに出てくる人たちはフードバンクの実際のスタッフか、フードバンクの訪問者です。全員が実生活と同じことをやっているのです。

大変だった挑戦は2つです。1つは、ケイティを演じたヘイリーに、あの場でやるべきことをやる動機を持たせることでした。極限の空腹を理解しなければなりません。役者にとって大きな挑戦です。私の仕事はなるべく彼女がその状態に入りやすいようにすることでした。

あのシーンの中の誰も、何が起こるのか知りませんでした。リハーサルをしませんでしたから。ダニエルも自分が何をやるのか知らず、女性スタッフも自分が何をやるのか知らないのです。分かっているのはケイティだけ。そのため、彼女がどんな動きをしても良いフレームで撮れるよう、2台のカメラを設置しました。そして、彼女の演技を完璧な形でとらえることができたのです。

時間はかけず、1時間で撮りました。しかし、ケイティがまさに食べる瞬間は、何度も繰り返せるようなシーンではありません。彼女の演技は素晴らしかったのですが、それを作品に使うかどうかを判断するのは難しかったです。幸い、本作にふさわしいシーンになりました。


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