韓国に使命を帯びて潜入した北朝鮮のスパイ一家<レッド・ファミリー>が経験する綱渡りの日々から、私たちが日頃当たり前のものと思って享受している”日常”があまりにも愛おしいものとして浮かび上がってくる、『レッド・ファミリー』は、スリルとユーモアに満ちた傑作家族映画である。スパイ一家の面々も、韓国人一家の面々も、ひとりひとりの人物造形が際立っており、キム・ギドクが抜擢した新人監督イ・ジュヒョンの演出の腕の確かさを証明している。映画を見終わった後、終盤の船上における、疑似家族による"本当の家族"再演シーンが脳裏に甦り、じわじわと込み上げてくる感情の昂りを抑えることが難しい。その脚本と演出において、確かな手腕を発揮した韓国の新鋭イ・ジュヒョン監督のインタヴューをお届けする。
1. 体制の中の人間、個人は、何をしたらいいのかということを考えてみたかった |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):二度拝見しましたが、二回とも同じところで泣いてしまって、複雑なテーマを扱っている作品ですが、人間的な温かみのある映画ですね。 イ・ジュヒョン:ありがとうございます。泣いてしまったというのはどのシーンですか? OIT:やはり最後のところ、”レッド・ファミリー”が最後の芝居をするところです。この映画は北のスパイが家族に成り済まして、脱北者暗殺とか、血なまぐさい使命を帯びて南にいるわけですけれども、偽の家族がだんだん本当の家族になっていくプロセスが描かれています。その脚本はキム・ギドクさんが書かれたいうことで、どういう風にコラボレーションされたのか、お聞かせ頂けますか?
イ・ジュヒョン:もし私以外の別の監督さんが撮っていたら、またがらりと違う映画になっていたかもしれませんね。本当に恐い任務を遂行するっていう部分が強調されてそこに重点がおかれていたかもしれませんし、思想の対決っていうところが重点になっていたかもしれません。いずれにしても違う映画になっていたと想像しています。本作には色々な任務が出てきますが、中でも暗殺の任務は逆に登場人物をお互いに結びつける一つのソースになっていた気がします。例えば、殺せという指令がきたけれども、殺せないメンバーがいたら代わりの人が殺したりということがあります。スンヘ(キム・ユミ)が子供を殺せと言われるが、殺そうとした子が自分の娘に似ていて殺せない、そうしているうちにミンジ(パク・ソヨン)が私が殺してあげるって名乗り出ますよね、そんな風にして任務が一つ与えられるたびに、あの家族の結びつきがどんどん強まっていって人間味が増してきたような気がしますね。初稿のシナリオのテーマもやはりメッセージとして人間味と家族という部分がありました。そしてまた、体制の中で葛藤する個人というところにも焦点があてられていたんですね。ただ韓国では映画を観る前に誤解する人も多かったんですよ、ポスターの色も結構、赤い色が沢山使われていて、タイトルの中にも赤っていう言葉が入っていたので、韓国の人たちは、赤という色に敏感なものですから、北と南のどちらが正しいのかっていうことを描いた映画だという風に皆さん誤解をされたようなんです、私が本当に描きたかったのは、その二つの体制によって犠牲となる個人ですね、そこに焦点をあててみたいという風に思いました。体制の中の人間、個人は、何をしたらいいのかということもあわせて考えてみたいと思ったんですね。だからよく考えると南北をモチーフにしているんですけれども、それだけがテーマではなかったと言えますね。そして同時に、この物語を語るには南北というモチーフが適切だったと言えると思います。ある人は体制に適応するでしょうし、ある人は体制に反発するでしょう、それも運命的なものかもしれません。でも私としてはそういった過程、体制の中での人物がどんな風な動きをするのか、どんな風に発展していくのか、そういったことを考えてみたいと思いました。それを考えると未だに世の中には戦争とか(理不尽な)体制が溢れていますので、私達が解決すべき課題は多いかもしれないですね。
初稿の段階からメッセージは同じだったんですけれども、実は初稿は今のものよりもちょっと重い印象があったんですね。なので、キム・ギドク監督と私と二人で共同でシナリオの脚色作業をすることになったんですが、周りの人たちには、そういったことは異例だと言われました。キム・ギドク監督は他の誰かと一緒に脚色したりする作業をほとんどしたことがなかったそうです、でも一緒にやってみて本当に楽しかったです、キム・ギドク監督はあまり知られてないかもしれませんが、本当にユーモラスな方なんです。だから一緒にシナリオを直していく中で上辺だけの笑いではなくて、もっと人間的な、人間味のある笑いを足してきましょうということで、ユーモアの部分を追加していきました。そのことによって、今出来上がっている作品のトーンが固まりました。キム・ギドク監督は実は、ご自分のお父さんが朝鮮戦争の時に銃弾を二発体に浴びて、ずっとそれを患っていたらしいんです。だから本人ではないにしろ、自分のお父さんのことでキム・ギドク監督もそういったトラウマを抱えていらっしゃったので、尚更、体制の中にいる人間ということについて深く考えていらっしゃった、私自身もそういった問題に関心がありました。以前、それと少し通じるようなテーマの作品を私も撮っていたことがあって、私たちは凄く気が合いまして、共通の目標を持っていましたので、シナリオ作業は楽しかったです。 |
『レッド・ファミリー』 原題:RED FAMILY 10月4日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開 監督:イ・ジュヒョン 製作・脚本・編集:キム・ギドク 出演:キム・ユミ、チョン・ウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨン (c) 2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved. 2013年/韓国/100分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル 配給:ギャガ 『レッド・ファミリー』 オフィシャルサイト http://redfamily.gaga.ne.jp |
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