OUTSIDE IN TOKYO
Mia Hansen-Løve INTERVIEW

ミア・ハンセン=ラブ『グッバイ・ファーストラブ』インタヴュー

6. これぞ映画というようなものは撮りたくないんです、
 自然さ、あるいは私が撮りたいのは、つまり人生、ライフの方なんです

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OIT:音楽でもうひとつ聞きたいのが、「ウォーター」っていう曲が今回の『グッバイ・ファーストラブ』で使われてたんですけど、これ二回かかってるんですが、コンピレーションからとったのかということと、あと時間がなくなってきたので、ブレッソンについて伺っておきたい。ブレッソンに影響を受けたということは公言されてますけれども、映画の作り方ですね、カメラは動くことが多いけれど、人を追ってカメラが動く、カメラが誘導的に動くわけではない、その動くショットをモンタージュで繋いでいき、それが映画の流れを作っていくという作り方の基本が、ブレッソン的なのかなと思ったんです。
MHL:まず「ウォーター」という曲はコンピレーションとは関係ない曲です。編集をしていた時に聴いていた曲で、みんなはそれを使うとは思ってなかったようですけど、ジョニー・フリンというとても若い、25歳くらいのアーティストなんですが、最初のアルバム(「Larum」)を私は聴いていてとても気に入ってたんですが、ちょうど編集をしていた頃に二枚目のアルバム(「Been Listening」)が発表されて、聴いてみたら惚れてしまいました。何故この曲がとても好きなのかというと、もう既に明らかなように、タイトルにも出ています水との関係でとても好きです。
もちろんブレッソンの影響はとても大きいと思うんですが、しかし具体的なテクニカルポイントで似ていると言うことは難しいと思うんです。何故ならすごくぼんやりしていて、どちらかというと一瞬の親近感は感じるんですが、例えば、ブレッソンを真似しようとしている映画監督はみんな失敗するんです。作り方、形だけ真似して中身がないので馬鹿馬鹿しいと思ったりもします。そしてブレッソンはとても決まったスタイル、決まったやり方で映画を撮っていたのですが、私は全然まだまだそこまでいけていないと思うんですね。自分のスタイルを強く主張出来る程にはまだ成長していないと思うんです。例えば、色々なショットもまだ撮っています、クローズショットだとか、ワイドショットだとか、パーンでも撮りますし、トラベリングショットも撮ります。レンズに関しても、ブレッソンは標準のレンズしか使っていなかったんですが、私は今のところ、色々なレンズを使ってしまいます。レンズ、ショットも私はまだ色々試しています。もちろん確固たる原則みたいなものはあるんです。こういうショットは絶対に撮りたくないというのはいくつかあるんです。でもそれ以外は割と柔軟にやっていると思うので、まだ全然そういう域には達していないと思うんですね。しかし、登場人物の歩き方、移動の仕方という点では恐らくどこか近いものがあるのではないかと思います。

OIT:これで最後の質問になります。ミアさんは昨日、カメラは出来事に対して少し遅れて行く必要があるいうことを仰っていて、これはヒッチコックが作る、観客に先に見せてしまって宙づりの状態を作っていくサスペンスとは丁度逆のことをやってると思うんですが、それにも関わらずサスペンスではないのかもしれないけれども、豊かなテンションが持続していてそこがすごいなと思ったんですね。それはやっぱりディテールを撮っているっていうことと、あとは音の使い方でしょうか。自然の音とか動物の鳴き声とか。そこで一つ気になったのが、湖でシュリヴァンが泳いでいて、あの別荘のような家でカミーユが待っている時に、鳥がばっと羽ばたく音がして、家の中で物が割れる音がする、でも何が起こったのかは示されない、あのシーンについてちょっとお話頂けますか?テンションもしくは、サスペンスがあることのひとつの例として。
MHL:そのシーンのお話をされるのはとても面白いです。何故なら撮影をした時は彼女が何かに怯えるというのを撮りたかった、でもそれが何なのかは分かってなかったんですね、それが編集の時に本当に時間をかけて色んな音を聴いてようやく選んだものなんです。昨日の話は、宙づり<サスペンス>ではなくて一種の緊張感<テンション>の話をしたんですが、それがシナリオを書く時は意図的には書いていない、どちらかというと本能で書いてしまうようなところなんです。ですから、理論的にそれについて話すのはちょっと難しいんですが、一種の立体感を作り上げるのが目的だとはいうことは言えます。

OIT:あのシーンは、編集の段階で出来上がったってことですか?
MHL:このシーン自体はそうなんです。私の映画においての緊張感はそんなに意図的なものではないと思いたいところです。リズムはきっちりと作っているんですが、それ以上のことは恐らくないと思うんですね。私が一番やりたくないのは何かと言いますと、映画的なものを作る、照明であったり、ショットの構造だったり、これぞ映画というようなものは撮りたくないんです。自然さ、あるいは私が撮りたいのはつまり人生、ライフの方なんです。


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