OUTSIDE IN TOKYO
SAKO TADAHIKO INTERVIEW

アメリカ占領下の沖縄で支配者である米軍に抵抗した”カメジロー”こと瀬長亀次郎は、如何にしてその不可能とも思える闘いの中で民主主義を勝ち得ることが出来たのか?”カメジロー”の1作目『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017)は、、神話的な魅力すら放つ瀬長亀次郎の人物像を描きながら、その大きな疑問に対してひとつの答えを見出している。それは、”大衆とともにあること”である。続編となる本作『米軍が最も恐れた男カメジロー 不屈の生涯』(2019)は、まさにその大衆運動の成果である現在の”オール沖縄”の風景を、カメジローが活躍した時代の沖縄の熱に結びつけることから映画を始めている。本作の作り手、佐古忠彦監督が、”カメジロー”の活動を現代的アクチュアリティのあるものとして捉えていることの証左だろう。

『米軍が最も恐れた男カメジロー 不屈の生涯』は、”カメジロー”のより私的な領域に踏み込み、”人間”瀬長亀次郎の魅力を現代に語り継いでいる。若くして政治活動に身を投じた亀次郎に対して父親は、「お前の親であることを恥じている」と手紙で書き付け亀次郎を勘当したこと、失意の中にあった亀次郎を慰めた母親の言葉、高校放校の憂き目にあった亀治郎を救った恩師松原先生のこと、沖映館や琉球銀行といった実業界保守の者たちも陰ながら亀次郎を支援していたこと、まさに”カメジロー”は、政治的イデオロギーを超越して、人と人との間にあり、人々に守られていた。象徴的なのは、1967年2月24日、那覇市立法院前で琉球与党政府の提案する教職員の政治行為を制限する二つの法案に反対した教職員と警察隊が衝突した「教公二法阻止闘争」において、いずれこの法案を廃案へと追い込むことになる、議会前に集結した2万人にも及ぶ教職員と民衆の姿だ。

翻って、現在の私たちの姿を見てみるとどうだろうか?1990年代、筑紫哲也氏と佐古忠彦氏が「NEWS23」でキャスターを務めていた頃に「NO MORE LANDMINE」という地雷除去キャンペーンが行われた。坂本龍一が曲を作り、錚々たるミュージシャンが集まり、生放送の多元中継で演奏をするということがあったのだ。テレビ番組がそうした大胆なキャンペーンを展開できる時代が確かに存在した。しかし、つい先般行われた2019年参議院選挙の投票率は48.8%という史上稀に見る低さを記録した。この低投票率の要因として、選挙前の選挙報道がほとんど成されなかったことが指摘されている。

インタヴューの後に、佐古忠彦監督と少し雑談をしたのだが、今のテレビ報道について監督が漏らした言葉が印象に残っている。「伝えるべきことを伝えているだろうか、これだけ時間はふんだんにあるはずなのに。」現在のテレビ報道に関して、佐古氏の複雑な思いが伝わってくる言葉だが、今や、伝える側だけの責任を問えばすむ時代は終わっている。かつて突き進んでしまった道に繋がらないためにどう踏みとどまるか、私たち自らが主体的に考え、行動すべき時が来ている。問われるのは、私たちひとりひとりの主体性である。

1. 沖縄に私を呼び寄せたのは筑紫哲也さんの存在だった

1  |  2  |  3  |  4  |  5



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):個人的な話ですが、佐古さんのお姿は筑紫哲也さんと一緒にずっとテレビ(TBS「NEWS23」)で拝見していました。この映画の原点には筑紫さんの存在があったということですが、そのことについてお話しいただいてもよろしいですか?
佐古忠彦:映画の原点といいますか、沖縄との出会いは筑紫さんの存在があったからだろうなと思っています。「NEWS23」に私が入ったのが1996年なんですけれども、前年に少女暴行事件があって、その辺りから基地を巡る話がとても大きくなっていくわけです。別に筑紫さんはお前これ取材してこいとか、あっち取材してこいとかっていう人じゃ全くないんですけど、沖縄に興味を持った先輩ディレクター達も、沖縄に行って自らのテーマを見つけて取材して帰って来て、モノを作るというような風土というか文化があって、いつの間にか私もそういう一人になっていました。ですから「NEWS23」時代に随分沖縄で取材をして番組を作りましたし、「NEWS23」を辞めた後も、政治部にいったりしたんですけど、“沖縄への時間”というのはずっと継続していました。最近になってまた、基地を巡る話の中で沖縄と本土の間に溝があるということがよく言われますけど、なぜそうなのかっていうことを考えた時、やっぱり“戦後史への認識の抜け落ち”があるのではないかと思っていました。そうだとしたら戦後史をやるなら“カメジロー”を通して見ると違う見え方があるのではないか、そう思ってアプローチしていったのが、戦後70年の番組が終わった後のことで、次は戦後史かなと思った頃、翁長雄志さんが一番元気だった頃で、翁長さんを取り巻く風景と、亀次郎時代の風景が全く政治的な歩みや立ち位置は違うのに、重なって見えるのは何故なのかと考えました。それは恐らく本土の政治的、あるいは思想的な価値観で見ると間違ってしまう、それこそが沖縄の歴史が表すものだろうと思ったのです。そこが分からないと、永久にこの問題には溝がありますねという話で終わってしまう。まずはその辺の事実認識を共有した上で議論を始めないと、本当に真っ当な話にならないのではないかという思いがありました。

OIT:現代の政治に繋がる日本社会の矛盾が、佐古さんのジャーナリスト、番組ディレクターとしてのモチベーションとなって、企画を動かしていったということですか?
佐古忠彦:そうですね、「NEWS23」時代に、沖縄で特集を作った時の最初の取材が日米地位協定を巡る話だったんです。「米軍が恐れた不屈の男 瀬長亀次郎の生涯」(著:佐古忠彦)にも書きましたけど、筑紫さんはなぜ沖縄に行くのかといった時に、沖縄に行けば日本が見える、この国の矛盾がいっぱい詰まっていると言った。本当にそうだなという場面が結構あって、筑紫さんとそういう話をしたことも含めて、沖縄に私を呼び寄せてくれたのは筑紫さんの存在だったし、その後も常に筑紫さんだったらこの場面どう考えるかなって思いながら事にあたっていた気がしますので、そういう意味でも原点です。

『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』

8月17日(土)より桜坂劇場にて沖縄先行ロードショー、8月24日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー

監督:佐古忠彦
プロデューサー:藤井和史、刀根鉄太
撮影:福田安美
編集:後藤亮太
音声:町田英史
語り:山根基世、役所広司
テーマ音楽:坂本龍一
音楽:坂本龍一、兼松衆、中村巴奈重、中野香梨、櫻井美希

© TBSテレビ

2019年/日本/カラー(一部モノクロ)/ビスタ/ステレオ/128分
配給:彩プロ

『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』
オフィシャルサイト
http://kamejiro2.ayapro.ne.jp
1  |  2  |  3  |  4  |  5    次ページ→