OUTSIDE IN TOKYO
Sasha Grey

ソダーバーグの新作『ガールフレンド・エクスペリエンス』、これこそ本当の”SEX AND THE CITY”。舞台はリーマンショック直後のニューヨーク、1時間2000ドルの高級エスコートの日常を通して、破綻した経済の影響下で巨大な幻想が崩れるのを目にした人々のうろたえる姿が、即興のセリフで構成されたドキュメンタリータッチのフィクションに、現実世界の鏡像のようにリアルに写り込んでいる。

『ガールフレンド・エクスペリエンス』は、ソダーバーグの作品群の中で『セックスと嘘とビデオテープ』(89)、『フル・フロンタル』(02)、『インフォーマント!』(09)といったドキュメンタリータッチのフィクション映画の系譜に連なる作品だが、その衝撃度は彼のデビュー作品『セックスと嘘とビデオテープ』を見た時の驚きと困惑に匹敵するものがある。撮影されたのが、たまたまリーマンショック直後の大統領選を目前に控える時期であったことから、俳優たちの即興から生まれたセリフにそうした現実が反映し、これ以上ないリアルな現実のドキュメントがフィクショナルな枠組みの中に緻密に組込まれた。ソダーバーグが、自らの映画作りの原点に今一度立ち返った本作は、スクリーンから飛び出て観るものの現実に働きかけようとしてくる生々しい傑作である。

高級エスコートとしてプロフェッショナルな自覚を持ち、仕事(売春)とプライベートの生活で様々な葛藤を感じながらも、生き馬の目を抜く大都市ニューヨークで強かに生きる女性チェルシーを演じたのは、22歳の現役ポルノ女優サーシャ・グレイ。現在までに180本以上のハードコア・ポルノ映画に出演する一方、自らの製作会社も設立し、マネージメントにも辣腕をふるうという彼女の現実が、本作の設定にそのまま活かされている。サーシャ・グレイは、ニーチェの哲学書を愛読し、ゴダールへの傾倒を公言、スマッシング・パンプキンズのPVにも出演するなど、アートやサブ・カルチャー領域にも親しい。それは、十代の頃に通った演技のクラスでの体験とも無関係ではなく、そうした演技への情熱が、今回のソダーバーグによる大抜擢に繋がったと言ってよいだろう。

ポルノの仕事については、「自分がやりたいからしている。あらゆる形のセックスが楽しいだけでなく、パフォーマンス・アートをするのが好きだから。」と語り、突き抜けた価値観で社会の様々な障壁に挑戦する勇敢な女優サーシャ・グレイのオフィシャル・インタヴューをお届けする。
(上原輝樹)




Q:初めてスティーヴン・ソダーバーグ監督と会った時の印象は?
サーシャ:初めて会った時はまるで自分が子供に戻ったみたいに興奮したわ。ミーティングは、ワーナー・ブラザースのオフィスで45分くらい行なわれたものだったけど、普通のオーディションとはまるで違うものだった。この作品について、彼がどういう方向を目指しているのかについて話し合っただけだったの。それだけだったの。

Q:劇中の台詞は即興で話していたそうですが、役作りは大変だったのでは?
サーシャ:あまりにも情報が少なかったので、役作りはすごく大変だった。ホテルに夜帰って、10通りくらいの演じ方を自分の頭の中で準備して行くんだけど、次の日撮影現場に行くと、スティーヴンは11通り目の演じ方を提案してくるの。しかも、私が考えもしなかったようなことをね。彼は本当に天才だわ。彼の頭の中で何かが一瞬にして高速で回転しているのがわかるの。彼の素晴らしさに毎日本当に驚かされたわ。

Q:好きな映画監督は誰ですか? そして今後どんな監督と仕事をしてみたいですか?
サーシャ:一番好きなのは、ジャン=リュック・ゴダール。それから、ジョン・カサヴェテスも。でも、ゴダールと仕事をしたいかはわからないわ。たぶん、知らないままのほうがいいということがあると思うから。だけどスティーヴンの場合は、すべてが上手くいったの。だからこの機会をもらえたことにすごく感謝しているわ。それから、ジョン・カーペンターにも変な意味で夢中なの。きっと彼と仕事できたら面白いと思う。それから、デヴィッド・ゴードン・グリーンも好き。

Q:演技の勉強はどれくらいしたのですか?
サーシャ:12歳から18歳まで演技のクラスに通っていたわ。高校を卒業してからはレストランでバイトしながら、大学で映画の勉強もしていたの。私に一番影響を与えた演技の先生に、1週間に必ず1本は映画を観なくてはいけないと言われたんだけど、まったくどの映画を観ればいいのかわからなかった。『ストリートファイター』でもいいの?と聞いたら、「それじゃあ演技の勉強にはならない」と言って、観るべき映画のリストをくれたの。



Q:ポルノ業界に入った理由は?
サーシャ:私はヴァージンの喪失が友達の中では一番遅かったし、初めてセックスをするまで自分のセクシャリティについてまるで自信がなかったの。でも、初めてのセックスがあまりに素晴らしい体験だったから、これを隠す必要なんてない、ポルノ業界に入って、自分のセクシャリティをもっと追求してみたいわ、と思ったの。

Q:あなたは自分で制作会社も持っていますが、今後ポルノ女優としての道と一般映画に出演する女優としての道と、どちらに進んでいきたいと思いますか?
サーシャ:両方やっていきたいわ。なぜなら、それをできた人ってまだいないような気がするから。私は人からできないと言われたことをやってみせて、その人が間違っていたと証明するのが好きなの。それが私の性格だと思う。だから、今回スティーヴンが与えてくれたような機会を誰かが今後も与えてくれるなら、それは本当に素晴らしいことだわ。

『ガールフレンド・エクスペリエンス』
原題:THE GIRLFRIEND EXPERIENCE

7月3日(土)シネマライズほか全国順次ロードショー

監督・撮影・編集:スティーヴン・ソダーバーグ
脚本:ブライアン・コッペルマン、デヴィッド・レヴィーン
製作:グレゴリー・ジェイコブズ
音楽:ロス・ゴッドフリー
  出演: サーシャ・グレイ、クリス・サントス、マーク・ジェイコブスン

2009年/アメリカ/英語/77分/カラー/スコープサイズ/ドルビーデジタル・DTS
配給:東北新社

©2009 2929 Productions LLC. All rights reserved.

『ガールフレンド・エクスペリエンス』
オフィシャルサイト
http://www.tfc-movie.net/girlfriend/