OUTSIDE IN TOKYO
SHIMADA RYUICHI INTERVIEW

『春を告げる町』は、海沿いの街道から初日の出を拝み、父親から何をお願いしたの?と聞かれた少女が「もう一生お母さんに怒られませんように!って」と答える、若い家族が談笑する微笑ましい場面から始まり、海を見渡す位置から捉えた広野町の町並みを背景に、これからこの映画に登場することになる町の人々が置かれている複雑な状況を端的に表現する以下のテロップを以て、開巻する。

福島第一原子力発電所から20kmに位置する広野町は、2011年3月11日に起きた東日本大震災後、全町避難となった。
その後、翌2012年3月31日に避難指示が解除され、他市町村に先駆け、本格的な帰還が開始された。
現在は原発事故による廃炉・駆除作業従事者が町民の半数を占めている。

福島県双葉郡の彼の地の状況について殊更何を知るわけでもない者にしてみれば、あの原発事故の現場から20kmしか離れていない地に住んでいた人々が、僅かその1年後には、避難指示が解除されて本格的に帰還し始めていたことに、今更ながら虚を突かれた思いをし、しかも、そこで生活する人々の半数が原発の廃炉や放射能の駆除作業に従事しているのだというから、自らの無知を恥じ入りたい心持ちになるのだが、幸いなことに、この映画は、世の中に数多いるであろう知識や関心が充分に及ばない人々の怠惰を諫めるような邪悪な意図を持っていない。

作品のタイトルに入っている“春”という言葉は、本来は長い冬の後に待ち望まれた新しい季節のサイクルの始まりを表象していたものが、今では、そろそろ花粉がやってくるであるとか、3.11のような巨大災害もあり、予てより培われてきたイメージとは異なる、現代的な“二重性”を帯びているように思える。その“二重性”とは、小森はるかと瀬尾夏美が取り組んでいるプロジェクト(『二重のまち/交代地のうたを編む』)でもキーワードになっている通り、災害の後、復興プロセスの中で生じた人々が置かれている複雑な状態を表現している言葉だが、この映画にもその“二重性”が纏わりついている。

映画の中盤に差し掛かり“恐竜”が登場するあたりで、その“二重性”とは、人間存在を巡って生じる不可避な“不条理”のことなのかという形而上学的な想像力を刺激し始めるのだが、ある瞬間から、映画にずっと纏わりついていた“二重性=不条理”が消えていったように思える。それは演劇部の学生たちが葛藤し始める辺りからなのだが、その瞬間が、纏わりつく“二重性=不条理”という虚構を消化すべくダイナミックに映画が動き始めた、この映画のブレイクポイントだったのかもしれない。

島田監督には、そうした私の感想をお伝えしてから、お話を伺った。このインタヴューを行ったのは、日本でもコロナウイルス禍がもうすでに始まっており、折しも『春を告げる町』の福島での上映初日舞台挨拶を行う予定がキャンセルになったと告げられた直後のことだった。本来であれば、3月21日から全国の劇場で公開される予定だった『春を告げる町』は、同時期に上映予定だった多くの作品と同様に、一部の劇場では公開されたものの多くの劇場が臨時休館をせざるを得ない状況下で、上映延期の憂き目に遭った。そして、コロナウイルス禍収拾の目処が立たず、劇場再開の目処も立たない今、本作の配給会社東風を中心とした幾つかの配給会社と全国のミニシアターが企画・賛同してスタートした、一時的な映画配信サイト<仮設の映画館>の第1弾上映作品として、4月25日(土)から『春を告げる町』のデジタル配信が始まろうとしている。

1. プロデューサーでもある加賀博行さんという役場の職員の方が
 仕掛け人となって始まったプロジェクト

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず最初に、この作品を作るに至った経緯を簡単に教えて頂けますか?
島田隆一:私は2015年から広野中学校で映像教育の講師をしています。総合学習の時間にふるさと創造学という中学生が故郷について考える枠組みがあるんです。そこで中学生が広野町についてのドキュメンタリーを制作します。この作品のプロデューサーでもある加賀博行さんという役場の職員の方が仕掛け人となって始まったプロジェクトです。それが縁で加賀さんと話していく中で子供が作るのではなく、我々が映画を撮りましょうという話になったんです。
OIT:映像教育は2015年から公的なプロジェクトとして始まったと。
島田隆一:そうですね、最初は何人もいる中の講師の一人として参加して、2年目からは制作統括っていう形で入らせて頂き、現在も続いています。毎年、何日かに分けて通っています。町立の中学校で元々“シネリテラシー”を研究されていた千葉茂樹監督という方がそこで始めるにあたって私が補佐的に講師で入っていくという形でした。
OIT:シネリテラシーを中学生でやるのは素晴らしい試みですね。フランスとかはやってそうですけど、日本はそういうものは遅れてるんじゃないかと思っていました。
島田隆一:金沢でもやっているそうです。諏訪監督や是枝監督もやってらっしゃいます。しんゆり映画祭でもアートセンターが中心となってやる枠組みがありました。千葉監督は元々オーストラリアのシネリテラシーを研究されていて、それを日本でやるにあたって、2015年に「島田、手伝ってくれ」と言われて、「わかりました、行きます!」っていうことで参加しました。

『春を告げる町』

3月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

監督・撮影:島田隆一
プロデューサー:加賀博行、島田隆一
助監督・録音:國友勇吾 編集:秦岳志
整音:川上拓也
音楽:稲森安太己
出演:渡邉克幸、新妻良平、帯刀孝一、松本重男、松本文子、藤沼晴美、福島県立ふたば未来学園高等学校演劇部

(C)JyaJya Films

2019年/日本/130分/DCP/ドキュメンタリー
配給:東風

『春を告げる町』
オフィシャルサイト
https://hirono-movie.com

<仮設の映画館>にて、4/25(土)〜デジタル配信
http://www.temporary-cinema.jp/
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