OUTSIDE IN TOKYO
Werner Herzog INTERVIEW

ヴェルナー・ヘルツォークの存在は、映画好きにとって迫り立つ堅い岩のようなものだ。『小人の饗宴』(70)『アギーレ/神の怒り』(72)『カスパー・ハウザーの謎』(74)『ノスフェラトゥ』(79)『フィッツカラルド』(82)など、野望や狂気、異形の者たちを描いてきた。現場の緊迫した状況も語り継がれ、伝説は尽きない。まさに映画と共に“生きて”きたと言っていいだろう。そしてしばらく姿を見せなくなったと思っていたら、彼を師であり友人と敬愛するハーモニー・コリンの映画への出演などを経て独特の存在感を残し、『神に選ばれし無敵の男』(01)『バッド・ルーテナント』(09)などの劇映画も撮っている。だが最近の注目すべき作品群は、なんと言っても、そのドキュメンタリー作品だろう。野生の熊と暮らし、愛する熊に喰われて死んだ男を描いた『グリズリーマン』(05)、南極に駐在する科学者から末端の掃除夫、ペンギンまで、なぜその極限に身を置くのかを聞いて回る『Encounters at the End of the World』(08)。彼がカメラの背後から投げかける独特の訛りの独特の質問が、不思議な真実を炙り出す、魅力的な作品ばかりだ。そして今度は新作『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』(10)の登場だ。3万5千年前の人類の祖先が洞窟内に壁画を描いた南仏のショーベ洞窟が発見されたものの、これまで観光客に開放されていた他の洞窟に人の息などから黴や細菌が増殖し始めたために、そこは一部の科学者以外に厳重に立入りが禁止された。そこでようやく撮影許可を得たヘルツォークは、限られた時間内、限られた人数での撮影を強いられながら、初めて入った時にそれ意外にない、と決断したという、3D撮影を敢行した。狭い洞窟内で撮影するために独自の3Dカメラを作り、しかも許されたのは1日わずか4時間の撮影を6日間というスケジュール(もちろん、菌が入らないように、中に入って靴を履き替えたりという準備も含む)。だが彼にはそうまでして撮影したいという個人的な理由があった。ドイツはミュンヘンが一番近い都会という山間部で育った彼は、11歳になって初めて映画を見たという。しかも、質の悪いエスキモー映画だったという。そして学校のため、ようやく街に出た彼が本屋の飾り窓に見つけたのが洞窟壁画の本で、その表紙を見ただけでたちまち魅了され、買えるようになるまで、まだ残っているか、ひたすら通ったというほどだ。洞窟世界、はたまた未知なる世界への扉がそんなところにあるとは不思議な縁だ。それをこれまで3D映画など撮ろうと思わなかった人が。また奇しくもニュージャーマン・シネマの旗手として肩を並べたヴィム・ヴェンダースも同じ頃に3Dで『PINA』を撮っているという不思議。これまで取材機会のなかったヘルツォークと、短時間ながら唐突な始まりになるが、(母国ドイツのミュンヘンではなく)現在の拠点であるロサンゼルスからの電話で話を聞くことができた。トム・クルーズの敵役を役者として演じたばかりだという彼だが、すぐにベネズエラへ旅立つのだと話していた。

1. 平均して年に2本程度しか映画は見ない。本はたくさん読んでいる

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OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):あなたは電話もない隔絶された山間部で育ち、11歳で街に出てから書店のウィンドーに洞窟壁画の本を見た瞬間にそれが宗教的な恍惚を覚えるような体験だったとおっしゃいました。そしてそれ以来、ミステリーへの感動を失ったことがないとも。その上で、自然界と人間界の衝突という点についてはどう思いますか?
WERNER HERZOG(以降WH):おそらく、1万年、10万年も前の、石器時代の人にとって、自然界と人間界の衝突など存在しなかったでしょう。彼らはみんな、自然の中に生きていたからです。自然の一部として。その後、我々は、定住生活、都市生活、また近代的な生活を通して、どんどんと母なる自然から自分たちを切り離していったのだと思います。そしてもちろん、この自然からの決別を経た人間の様子が、私の様々な映画の中で、興味を憶える題材として描かれてきたわけです。

OIT:あなたは11歳まで映画を全く見たことがなく、それ故に、自分で一から映画を発明しなければならなかったと仰っていましたが。
WH:そうです。それは今でもそうですし、平均して年に2本程度しか映画は見ません。本はたくさん読んでいます。でも映画はほとんど見ないのです。

『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』
原題:CAVE OF FORGOTTEN DREAMS

3月3日(土)より3週間限定 春休み特別ロードショー

監督:ヴェルナー・へルツォーク
プロデューサー:エリック・ネルソン
撮影:ペーター・ツァイトリンガー
音楽:エルンスト・レイスグル
編集:ジョー・ビニ

2010年/アメリカ、フランス/90分/35mm/カラー/デジタル3D
配給:スターサンズ
配給協力:ビターズ・エンド

『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』
オフィシャルサイト
http://www.hekiga3d.com/
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