OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

フランソワ・トリュフォーのため来日を果たした
ジャン=ピエール・レオーの舞台挨拶:全文掲載



トリュフォーの『大人は判ってくれない』(59)を初めとするアントワーヌ・ドワネル五部作(『二十歳の恋』(62)、『夜霧の恋人たち』(68)、『家庭』(70)、『逃げ去る恋』(79))、ゴダールの『男性・女性』(66)、『メイド・イン・USA』(67)、『中国女』(67)、『ウィークエンド』(67)、スコリモフスキの『出発』(67)といったヌーヴェルヴァーグの重要な作品の数々、そして、ヌーヴェルヴァーグ以降の”シネマ”を支えたヨーロッパの映画作家たち(ベルトルッチ、ユスターシュ、アサイヤス、ガレル、カウリスマキ)の作品に出演してきた、もはや伝説的存在というべき映画俳優ジャン=ピエール・レオー氏が、”フランソワ・トリュフォーのために”ついに来日を果たした。ジャン=ピエール・レオー氏が今回来日して観客の前で発した言葉には、フランソワ・トリュフォーと過ごした時間が如何に彼の人生において特別なものであったかということと同時に、”俳優”という存在の得難さ、そして、”演じること”自体の尽きせぬ魅力が宿っていて、監督と俳優との間で密やかに交わされた”秘密”の一端すら垣間見た思いがする。
(上原輝樹)

ジャン=ピエール・レオー『愛の誕生』上映前の舞台挨拶

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ジャン=ジャック・ガルニエ:皆様こんばんは。アンスティチュ・フランセ東京のディレクター、ジャン=ジャック・ガルニエでございます。今宵、皆様の前に姿を現しまして、多大な感動を覚えております。なぜならば今日、名誉なことにフランス映画の巨大な記念碑ともいうべき存在をお迎えするからです。皆さんご存知かと思いますが、ジャン=ピエール・レオーと言えば彼の出演をした数々の映画作品を通じましてフランスにとって、またフランス映画にとって歴史的な瞬間であったヌーヴェルヴァーグを生きた形で、活動的に象徴している存在であります。ヌーヴェルヴァーグだけでなく、それは歴史的な一時期68年五月革命と、その時に起きた様々な出来事の象徴にもなっています。

今日皆さんにご覧頂く映画は、より最近の作品フィリップ・ガレルの『愛の誕生』(93)でございますが、ジャン=ピエール・レオーといった際にはフランソワ・トリュフォーの名前を挙げずにはいられません。『大人は判ってくれない』(59)、『夜霧の恋人たち』(68)、『逃げ去る恋』(79)、『アメリカの夜』(73)いくつかの名前だけを出しますけれども、これらの作品は世界中の人々の記憶の中に刻み込まれている作品です。そしてまたジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』(73)がありますし、この作品もまた人々の記憶の中に深く刻み込まれています。そしてジャン=リュック・ゴダールの数々の作品、そして更にはごく最近2011年に作られましたノエミ・ルヴォヴスキの『カミーユ、ふたたび』(11)という作品にも出演しておられます。
坂本安美:皆様、本当に早い時間からお並び頂きましてありがとうございます。上映前に『愛の誕生』について少しだけお話し頂けます。
ジャン=ピエール・レオー:皆さんお越し下さいまして本当にありがとうございます。『愛の誕生』の上映の前ということでございますけれども、私自身フィリップ・ガレルのスタイルについて、彼の様式について語ることは致しません。フィリップ・ガレルはもちろん大好きな監督ですし、40年来の友人でもあります。彼について語る代わりに『愛の誕生』のテーマについてお話ししたいと思います。

『愛の誕生』は、私にとってとても大切な、心に残っている作品になっています。それはフィリップの作品の中で、自分自身が演じた人物の演技という点で重視しています。ジュネーブのシネマテークのディレクターが、この作品の中で私とルー・カステルが演じたシーンを観ました。それは高速道路の上で夜のシーンで撮影がとても難しいシーンでした。彼は、そのシーンを観た後、ジャン=ピエール・レオーはフランスで最高の俳優だと言いました。今から皆さんは、その夜の高速道路のルー・カステルと私のシーンをご覧になることだと思います。

この脚本を書いたのはマルク・ショロデンコという作家で、彼のテキストはとても知的で難しいものでした。あまりにもインテリ過ぎて自分にはこんな役は出来ないと思いました。そこでシャトーに閉じこもり、コーチをつけて練習をしようと思いました。テキストの中にいくつか手がかりを見つけて印をつけて、この役を自然に演じられる様に覚えようとしたのです、とても難しいことでした。最終的にはその手がかりとなる印を見つけることが出来ました、1ヶ月半かかりました。そしてその後、フィリップのカメラの前で、私はその役をとても自然に演じることが出来るようになりました。その自然さを見つけるまで、私にはかなりの努力と工夫が必要でした。従いまして、この作品について特にこのシーンについて皆さんにお話し出来ることを、とても嬉しく思います。

もう一つ難しかったシーンがあります、それはショロデンコが私が演じた人物に独白をさせるシーンなのですけれども、壁の前で私は一人で長いモノローグを語ります。私はそのモノローグを、とても驚くべきやり方で語っています。その言い方なんですが、むしろ具体音楽、ミュージック・コンクレートのようでありまして、俳優が普通、古典的にモノローグを語るような言い方ではありません。このモノローグの語り方は、今でもとても誇らしく思っています。

皆さんが今日ここに来てくださったこと、本当に感謝をいたします。私自身演技をすることでこの作品の中で多大な喜びを得たのですけれども、皆さんがこの作品をご覧になって同じくらいの喜びを感じてくださるよう祈ります。

『愛の誕生』上映前の舞台挨拶

2014年10月10日
アンスティチュー・フランセにて
通訳:福崎裕子
原稿採録:OUTSIDE IN TOKYO




『愛の誕生』
原題:La Naissance de l’amour

監督:フィリップ・ガレル
脚本:フィリップ・ガレル、マルク・ショロデンコ 、ミュリエル・セール
出演:ジャン=ピエール・レオー、ルー・カステル、ヨハンナ・テア・ステーゲ

1993年/94分/35ミリ/モノクロ


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