第3回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~
フランスの映画媒体、批評家、専門家、プログラマーと連携し、日本劇場未公開の最新フランス映画を紹介する第3回「映画批評月間」がアンスティチュ・フランセ東京で開催される。今回の特集上映は、新たに生まれ変わったフランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の新編集長マルコス・ウザル氏と共に行われたセレクションであることに注目したい。
初日に行われた特別オープニングイベントでは、アルノー・デプレシャン監督の新作『ルーベ、嘆きの光』を上映、フランスのデプレシャン監督と日本の青山真治監督をオンラインで繋いだトークイベントも行われ、早くも活況を呈している。新世代の映画作家としては、独創的なコメディ作品を生み出し、注目されているソフィー・ルトゥルヌールとエマニュエル・ムレのふたりが選ばれている。発見すべき知られざる映画作家としては、ヌーヴェルヴァーグの監督たちの助監督、俳優を務め、「フランスのイーストウッド」(デプレシャン)とも評されるジャン=フランソワ・ステヴナンの監督作品が特集上映される。
また「カイエ・デュ・シネマ」が今年70周年を迎えるのを記念し、同誌で編集長を務め、1992年に他界した後も、映画を作る・思考する者たちに圧倒的な影響を与え続けているセルジュ・ダネーを巡る上映、トークの開催が予定されている。毎年、春の訪れと共に始まる「映画批評月間」、今年はどんな発見があるのか、会場に足を運んで新しい映画の潮流を体感したい。
初日に行われた特別オープニングイベントでは、アルノー・デプレシャン監督の新作『ルーベ、嘆きの光』を上映、フランスのデプレシャン監督と日本の青山真治監督をオンラインで繋いだトークイベントも行われ、早くも活況を呈している。新世代の映画作家としては、独創的なコメディ作品を生み出し、注目されているソフィー・ルトゥルヌールとエマニュエル・ムレのふたりが選ばれている。発見すべき知られざる映画作家としては、ヌーヴェルヴァーグの監督たちの助監督、俳優を務め、「フランスのイーストウッド」(デプレシャン)とも評されるジャン=フランソワ・ステヴナンの監督作品が特集上映される。
また「カイエ・デュ・シネマ」が今年70周年を迎えるのを記念し、同誌で編集長を務め、1992年に他界した後も、映画を作る・思考する者たちに圧倒的な影響を与え続けているセルジュ・ダネーを巡る上映、トークの開催が予定されている。毎年、春の訪れと共に始まる「映画批評月間」、今年はどんな発見があるのか、会場に足を運んで新しい映画の潮流を体感したい。
2021.3.8 update |
企画協力・ゲスト:マルコス・ウザル(「カイエ・デュ・シネマ」編集長)
ゲスト:青山真治(映画監督)、アルノー・デプレシャン(映画監督)、シェルロット・ギャルソン(「カイエ・デュ・シネマ」副編集長)、ソフィー・ルトゥルヌール(映画監督 予定)、須藤健太郎(映画批評家)
(アルファベット順)
Ouverture spéciale 特別オープニングイベント
3月5日(金) 会場:ユーロスペース
ゲスト:アルノー・デプレシャン、青山真治
ゲスト:青山真治(映画監督)、アルノー・デプレシャン(映画監督)、シェルロット・ギャルソン(「カイエ・デュ・シネマ」副編集長)、ソフィー・ルトゥルヌール(映画監督 予定)、須藤健太郎(映画批評家)
(アルファベット順)
Ouverture spéciale 特別オープニングイベント
3月5日(金) 会場:ユーロスペース
ゲスト:アルノー・デプレシャン、青山真治
3月12日(金)~3月28日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京
料金(一律):1,000円
チケット:Peatixにて発売(窓口販売はございませんのでご注意ください)
開場時間:15分前
全席自由(整理番号順)。上映開始10分後以降の入場はご遠慮下さい。
料金(一律):1,000円
チケット:Peatixにて発売(窓口販売はございませんのでご注意ください)
開場時間:15分前
全席自由(整理番号順)。上映開始10分後以降の入場はご遠慮下さい。
|
↑ |
上映スケジュール
<ユーロスペース>
<ユーロスペース>
|
<アンスティチュ・フランセ東京>
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
↑ |
上映プログラム
特別オープニングイベント
© 2019 Why Not Productions Arte France Cinéma
| 『ルーベ、嘆きの光』(Roubaix, une lumière d’Arnaud Desplechin) 2019年/120分/カラー/デジタル/フランス語 監督:アルノー・デプレシャン 出演:ロシュディ・ゼム、レア・セドゥ、サラ・ファレスティエ、アントワーヌ・レナルツ クリスマスの夜、フランス北部の街ルーベで警察署長のダウードと新米刑事のルイは放火事件を捜査していた。そんな中、ある老女性の遺体が発見される。同じ建物に暮らすクロードとマリーを署に連行する。カップルとして暮らすふたりは薬物、アルコール中毒者だった。名匠デプレシャンが、生まれ故郷ルーベの警察署の様子を記録したドキュメンタリーから着想を得て、ほぼ設定も台詞も変えず、現地の住民や警察官たちとプロの俳優たちを共演させて撮り上げた初のフィルム・ノワール。2019年カンヌ国際映画祭コンペティション出品作品。ダウード警察署長を演じたロシュディ・ゼムはセザール賞最優秀男優賞受賞。 「デプレシャンがこの映画で行っているのは、ダウール署長と同様に、曖昧なるものに光を注ぎ、縺れたものを解きほぐそうとするだけであり、そこに道徳や美を判別しようとすることでは一切ない。そう、まさに古典的映画が探求したように。(…)重要なのは贖罪ではなく、それよりもっとシンプルなことだ。つまり自らの中の漠然とした、薄暗い部分を光で照らし出すことによって、心の平静を得ること。その結末がどんなに悲劇的なものになろうとも。」マルコス・ウザル |
© JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS |
同時上映 『あの頃エッフェル塔の下で』 (Trois souvenirs de ma jeunesse d’Arnaud Desplechin) 2015年/123分/カラー/デジタル/フランス語/R15+ 監督:アルノー・デプレシャン 出演:マチュー・アマルリク、カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、アンドレ・デュソリエ 恋愛映画の金字塔『そして僕は恋をする』から20年の時を経て、人生も半ばを過ぎた主人公が、恋に生きた青春の日々を追憶する。長い海外生活を終えて故郷フランスへ戻ることになった外交官で人類学者のポールは、パスポートに問題が見つかり空港で止められてしまう。自分と同じ名前のパスポートを持つ男に共産圏のスパイ疑惑がかけられていると聞いたポールは、心の奥にしまい込んでいた青春時代の思い出を呼び起こしていく。2015年カンヌ国際映画祭監督週間にてSACD賞を受賞。 |
↑ |
カイエ・デュ・シネマ 2019年/2020年ベスト
『叫んでいるなどとは思わないでください』 (Ne croyez surtout pas que je hurle de Frank Beauvais) 2019年/75分/カラー/デジタル/フランス語 監督:フランク・ボーヴェ 「2016年1月。愛の関係によってアルザスのこの村にやって来たがその関係は6ヶ月前に終わりを迎えた。45歳の私はそれから独りとなり、その村に住み続けながら、車も、仕事も、将来のたいした展望もなく、豊かな自然も深い混乱を和らげてくれるわけではない。フランスは、いまだ2015年11月の襲撃(パリ同時多発テロ)のショックの中にある。自分が無力に感じられ、内なる怒りで息が詰まりそうだ。どうしていいのか分からず、日がな一日、4本、5本の映画を見て過ごしている。カメラを手に取るのではなく、自分が見ている映画の中に満ちたショットによってこの停滞を形にしようと決めた。」フランク・ボーヴォワ |
『バーニング・ゴースト』 (Vif-argent de Stéphane Batut) 2019年/106分/カラー/デジタル/フランス語 監督:ステファン・バチュ 出演:ティモテ・ロバール、ジュディット・シュムラ、ジョロフ・エムベング 幽霊のジュストは自分のことが見える人々を探して、パリの街をさまよい歩く。死後の世界へ旅立つ人々のために、彼らの最後の思い出を集めていると、生身の女性アガトに巡り合う。幽霊と人間の恋の行方は…?ジャン・コクトー作品を思わせる幻想的な映像が味わい深いゴーストストーリー。2019年カンヌ映画祭ACID上映作品、同年ジャン・ヴィゴ賞受賞。 「感情は直ちに沸き起こるわけではなく、物語の奥深くからゆっくりと生まれてきて、熱狂的ロマンチスムに包まれたフィナーレを機にすべて押し流されていく、若々しいまでの熱気を帯びて。」マチュー・マシュレ |
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS –CLOSE UP FILMS -ARTE FRANCE CINÉMA –RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE |
『涙の塩』(Le Sel des larmes de Philippe Garrel) 2020年/100分/モノクロ/デジタル/フランス語 監督:フィリップ・ガレル 出演:ロガン・アンチュオフェルモ、ウラヤ・アマムラ、アンドレ・ウィルム 地方に住む若者リュックは、父のような職人になりたく美術工芸大学の試験を受けるためにパリを訪れ、偶然出会ったジャミラという女性と恋に落ちる。父の住む故郷に戻ったリュックはかつての恋人ジュヌヴィエーヴに再会し、ふたりはよりを戻すのだが、その頃ジャミラも彼との再会を願い胸を焦がしていた。 「あらゆる点から考えて、より限られた製作体制(少数の登場人物、短めの作品を短い撮影期間で撮る)へ回帰し、それが方法として定着してから、つまり『ジェラシー』(2010年)以来、フィリップ・ガレルは無駄を削り、省略し、最も重要なもの、核心へと一気に突き進んでいく、そしてそのことが作品を非時間的なものとし、恋人たちを親密に結びつけることになる。『涙の塩』は、それぞれの挿話が、写真機のシャッターの動きを想起させるようなデクパージュや編集によって、そうほとんどまばたきのように開き、閉じていくその様によって目が眩むように魅惑させる。」シャーロット・ガルソン |
『思春期 彼女たちの選択』(Adolescentes de Sébastien Lifshitz) 2019年/135分/カラー/デジタル/フランス語 監督:セバスチャン・リフシッツ 出演:アナイス、エマ 育った環境も、性格も、似ていない仲良しのアナイスとエマ。13歳から18歳、思春期まっただ中を生きる少女2 人の成長を追ったドキュメンタリー。まるでフィクションを見ているからのように彼女たちが「登場人物」として立ち上がっていき、一瞬たりとも目が離せなくなる。音楽はクレール・ドゥニ作品でもお馴染みのティンダースティックスが担当。2020年ルイ・デュリュック賞受賞。 「エマとアナイスの間で広がっていき、それによって少しずつ互いが距離を取ることになる差異、開きこそ、おそらく本作の最も美しく、そして最も神秘的な主題を構成しているだろう。それは社会構造だけではなく、若い女性たちが形作っていく彼女たちの人格そのものに属していて、可視化されず、形にもならない磁場がそこに広がっていくからだ。」マチュー・マシュレ |
『8月のエバ』(Eva en août de Jonás Trueba) 2020年/129分/カラー/デジタル/スペイン語 監督:ホナス・トルエバ 出演:イタソ・アラナ、ビト・サンス、ジョーマンホン 33歳のエバは、多くの人がヴァカンスに出かける8月に、マドリードにとどまることに。人気の少ない都会の休日を一人気ままに過ごしていたエバは、ある野外イベントに参加し、今まで縁がなかった人々との出会いを経験する。ヴァカンスシーズンを一人で過ごす女性が、ゆっくり自らと向き合い、新しい自分を見つけていく「親密なる日記」。2019年カンヌ映画祭ACID上映作品、第16回ラテンビート映画祭出品。 「型にはまった観光とはかけ離れたそぞろ歩きを続けていくにつれて、エバは“世界に存在するための新たなる方法”を自ら作り出していく。予想不可能なものを引き寄せては、それを受け入れ、偶然を記憶へと留めながら、それによって導かれて。」エヴァ・マルコヴィッツ |
↑ |
ソフィー・ルトゥルヌール特集:コメディの産科学
ヴァカンスや映画祭など、旅でのエピソードや友人たちの体験など、生の素材から着想を得て、そこから丹念に脚本や台詞を練り、そして実際の場所やシチュエーションを活用しながら実験的な撮影を行う。ジャック・ロジエの作品を想起させもするそうした手作り感覚の独創的な映画作りで、迷いながらも自由に、前に向いて生きる人々を描いたコメディを発表し続けている若手女性監督ソフィー・ルトゥルヌール。本国をはじめとして世界各地で大人気の最新作『奥様は妊娠中』含めた3本を紹介します。
『思い出の船乗り』(Le Marin masqué) 2011年/35分/モノクロ/デジタル/フランス語 出演:ソフィー・ルトゥルヌール、ラエティシア・ゴフィ、ジョアン・リベロー レティシアとソフィーは、レティシアの生まれ故郷ブルターニュでの週末を過ごすためにカンペールに旅行する。クレープ、海辺の散歩、「コテージ」でのナイトライフ、思い出の船乗りとの再会、レティシアの甘く切ない若き日の恋物語。 |
『セックス・アンダ・ザ・フェスティバル』(Les Coquillettes) 2013年/75分/カラー/デジタル/フランス語 出演:カミーユ・ジュノー、キャロル・ル・パージュ、ソフィー・ルトゥルヌール、ジュリアン・ジェステール、ルイ・ガレル 恋に悩む不器用な愛すべき三人娘がロカルノ国際映画祭に向かう。自分の作品を発表しに来たはずが、ミーハーなソフィーは有名俳優ルイ・ガレルに夢中、ロマンティックなカミーユは不可能な恋物語を夢見、実用的なキャロルはただ“男と寝たい”だけ…。フラッシュバックとともに夏の体験を回想し合う3人娘たちのお喋りによって、映像と言葉が、記憶と現在が混ざり合っていく。 |
『奥様は妊娠中』(Énorme) 2020年/101分/カラー/デジタル/フランス語/R12+ 出演:マリナ・フォイス、ジョナタン・コーエン、ジャクリーン・カコー クレールは世界的な天才ピアニスト。夫でマネージャーのフレデリックと共に日々世界中を飛び回っている。子供は持たない、それが夫婦の共通認識だったが、40歳を迎えたフレデリックは、父になりたいとの強い思いに駆られ、クレールの避妊薬に細工をしてしまう……。 「ソフィー・ルトゥルヌールは、体験の場、俳優たちの育成の場として手探りで風変わりなコメディを作り、フランス映画の境界を揺るがしているひとりである」マチュー・マシュレ |
↑ |
エマニュエル・ムレ特集:愛する術
恋愛の情熱、欲望、感情のほとばしり、あるいはその脆さ……。言葉にすることから生まれる行動、アクション、あるいはその間のずれを優雅に、コミカルに、そしてメランコリックに描くエマニュエル・ムレは、サッシャ・ギトリやエリック・ロメール、あるいはウッディ・アレンを引き合いに出され、ラブコメディの名手として一作ごとにその評価が高まっています。大変評価が高く、セザール賞にも13部門でノミネートされているその最新作『言葉と行動』、そしてムレ自身が主演している代表作の1本『カプリス』を上映します。
©Moby Dick Films – 2020 |
『言葉と行動』 (Les Choses qu’on dit, les choses qu’on fait d’Emmanuel Mouret) 2020年/122分/カラー/デジタル/フランス語 監督:エマニュエル・ムレ 出演:カメリア・ジョルダナ、ニールス・シュネデール、エミリー・ドゥケンヌ、ヴァンサン・マケーニュ ふたりの男女が互いの身に起きている愛の物語を語り合う。欲望と愛情の違いとは? 既婚の相手に対し一歩踏み出せるか? 成就しなかった恋に再挑戦できるか? 多様な想いが交差する、軽やかで深淵なる愛のタペストリー。東京国際映画祭では英語タイトル『ラブ・アフェアズ』で上映。 「愛の中で最後に受け入れる他者性、演技の中での自己変容、自己放棄の可能性に自分自身が驚くことを許すための究極の目算:これらすべての名にふさわしい演出は決してその探求を飽きることはない」シャルロット・ガルソン |
『カプリス』 (Caprice) 2015年/100分/カラー/デジタル/フランス語 監督:エマニュエル・ムレ 出演:アナイス・ドゥムースティエ、エマニュエル・ムレ、ヴィルジニー・エフィラ 教師をしているクレマンは、ひょんな事から、大ファンだった有名女優アリシアと付き合うことに。順調に見えたアリシアとの付き合いだが、カプリスという若い女性が登場し、複雑な展開に……。『アリスと市長』などで高く評価されている若手仏女優no.1の誉れ高いドゥムースティエと、ポール・ヴァンホーヴェンとの新作『ベネデッタ』が待ち望まれるやはり最も旬の女優エフィラ、その二人が演じる魅力的な女性の間で揺れ動く内気な男性をムレ自身が演じるチャーミングなラブコメディ。 |
↑ |
ジャン=フランソワ・ステヴナン特集: 逃走の悦楽
ゴダール、トリュフォー、リヴェットらヌーヴェルヴァーグの映画作家たちのもとで助監督を務め、俳優としても数多くの作品に出演してきたジャン=フランソワ・ステヴナンは、3本と寡作ながら、その監督作品が熱狂的な人気を得ており、2018年にはデジタルリマスター版でリバイバルされ、さらに評価、人気が高まっている。ステヴナンの監督作、そして出演代表作『走り来る男』を日本初上映する。
「これほどまでに特異な魅力を持つステヴナンの映画は何と並べることができるだろうか?フランスでは彼がアシスタントについていたジャック・ロジエ、アメリカでは彼が師匠とみなすジョン・カサヴェテスだろう。この二人の師匠にならい、ステヴナンの映画作りは徹底的に冒険的だ。社会や映画の規則を放棄し、一見カオス的に見えながら、所作、そして編集は非常に的確である。生まれ故郷のジョラで山やアルコールを愛し、犬と一緒に歌う人々たちの驚くべき集まり、ステヴナンしか見せることができないフランス、世界が広がっていく。」マルコス・ウザル
「これほどまでに特異な魅力を持つステヴナンの映画は何と並べることができるだろうか?フランスでは彼がアシスタントについていたジャック・ロジエ、アメリカでは彼が師匠とみなすジョン・カサヴェテスだろう。この二人の師匠にならい、ステヴナンの映画作りは徹底的に冒険的だ。社会や映画の規則を放棄し、一見カオス的に見えながら、所作、そして編集は非常に的確である。生まれ故郷のジョラで山やアルコールを愛し、犬と一緒に歌う人々たちの驚くべき集まり、ステヴナンしか見せることができないフランス、世界が広がっていく。」マルコス・ウザル
『防寒帽』 (Passe montagne) 1978年/110分/カラー/デジタル 出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、ジャック・ヴィルレ、イヴ・ル・モワニュ 田舎に住む物静かな男セルジュは、パリからやって来たジョルジュと出逢う。ジョルジュは、友人たちに見捨てられ、車が故障して困っていた。ジョルジュは、修理工場で車を直してくれたセルジュと共に山脈地帯のジュラを旅することになり、やがてふたりの間には不思議な友情が芽生えてくる。フランスの山岳地帯をふたりの男が西部劇さながら旅していくロードー・ムーヴィー。 |
『男子ダブルス』 (Double Messieurs) 1986年/90分/カラー/デジタル/フランス語 出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、イヴ・アフォンソ、キャロル・ブーケ 堅実な生活を送っていたフランソワの許に、映画のスタントマンをしている昔からの友だちレオが訪ねてくる。いつまでたっても少年のようなレオとフランソワはもうひとりの仲間に再会しようと出発するが、グルノーブルで彼らを迎えたのは、彼の美しい妻、エレーヌだった。エレーヌはふたりになかば「誘拐され」、そこから3人の波瀾に満ちた旅が始まる。 |
『ミシュカ』 (Mishka) 2002年/116分/カラー/35mm/フランス語 出演:ジャン=ポール・ルシヨン、ジャン=フランソワ・ステヴナン、サロメ・ステヴナン、ジョニー・アリディ 夏のヴァカンスが始まる頃、高速道路のサーヴィスエリアで置き去りにされた老人を迎えた看護人ジェジェーヌは、老人を”ミシュカ(クマちゃん )”と呼び、5年間、音信不通の娘を一緒に訪ねる旅に連れ出す。そこに、幼い弟レオと共に家出し、父を探している少女ジャンヌとジプシー・ロックの女性ミュージシャン、ジョリ=クールが加わり、擬似家族の絆で結ばれた5人が、海に向かって旅を続けていく。 *国立映画アーカイブ所蔵作品 |
『走り来る男』 (Peaux de vaches) 1988年/87分/カラー/デジタル/フランス語 監督:パトリシア・マズィ 出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、サンドリーヌ・ボネール、ジャック・スピエセル 北フランスのある田舎町、ジェラールは兄とともに酩酊し、農場に火事を起こしてしまい、たまたまそこにいた浮浪者が命を落としてしまう。10年後、刑務所から出所した兄は、美しいアニーと結婚し、娘ができ、あらたに農場を持つジェラールのもとに戻ってくる。はたして彼は復讐を果たしに戻ってきたのだろうか……。撮影はヌーヴェルヴァーグを支えた名匠ラウル・クタール。1989年カンヌ国際映画祭ある視点部門出品作品。 「『防寒帽』を見てからステヴナンのファンになり、彼のための映画を撮りたいと思っていた。帰還する男を通して、攻撃的、暴力的な側面もある現代の田舎を浮かび上がらせ、家族の中に潜むものを触発したかった。そして(アニエス・ヴァルダの)『冬の旅』で発見したサンドリーヌ・ボネール、そして弟役にジャック・スピエセルを見出し、映画は始動し始めた。」パトリシア・マズィ |
↑ |
セルジュ・ダネーを巡って
『カイエ・デュ・シネマ』で編集長を務め、同雑誌の一時代を築き、日刊紙『リベラシオン』に移った後は、よりジャーナリスティックな映画評「映画=日誌」を書き綴り、晩年は季刊誌『トラフィック』を創刊、1992年にエイズで48歳という若さで亡くなった後も、いまなお映画の領域を越えてその思想、言葉で圧倒的な影響力を誇る映画批評家セルジュ・ダネー。自らを「映画の息子(シネ=フィス)」、「渡り守(パッスール)」と評し、「映画とは何か」思考し続けたダネー。来年没後30年を迎えるにあたり、ダネーが愛した作品や、ドキュメンタリーを上映、ディスカッションも行い、その重要性、現代性について検証します。
『現代の映画シリーズ ジャック・リヴェット 夜警』 (Jacques Rivette, le veilleur (Cinéma, de notre temps)) 1990年/127分/カラー&モノクロ/ビデオ/フランス語 監督:クレール・ドゥニ、セルジュ・ダネー 出演:ジャック・リヴェット、セルジュ・ダネー、ビュル・オジエ、ジャン=フランソワ・ステヴナン リヴェットが、「カイエ・デュ・シネマ」で編集長を務めた時代からの仲間で、信頼を置く映画批評家セルジュ・ダネーと共に、かつて撮影したパリのいくつかの場所を訪れる。顔を撮ること、身体を撮ることとは、セクシュアリティーとは、ヌーヴェルヴァーグとは、孤独であるとは、そして映画とは、昼から夜へ、移動から静止へ、ふたりから豊かな言葉が流れていく。 |
『秘密の子供』 (L’Enfant secret) 1979年/92分/モノクロ/35mm/フランス語 監督:フィリップ・ガレル 出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー、アンリ・ド・モブラン、シュワン・リンデンマイアー 映画監督のジャン=バチストはエリーという女性と出会い、ふたりは惹かれ合う。彼女には離れて暮らすスワンという息子がおり、彼は映画界の大物である父親から認知されていない、「秘密の子供」だった。ふたりは共に暮らし、一緒に映画を撮ろうとするが、ドラッグに溺れ、徐々に破滅へと……。フィリップ・ガレルがブレッソン映画の俳優ふたりを迎え、これまでにはなかった物語性を導入したことで転換点となる作品であると同時に、映画の始原の美しさを讃えた代表作。ジャン・ヴィゴ賞受賞作品。 「君の映画が、僕にとって特別かつ貴重であるのは、それが“経験”という理念の上に完全に構築されていて、ブラックホールのようであり、同時に唯一の現実であるからなんだ。」セルジュ・ダネーとフィリップ・ガレルの対話より 「『秘密の子供』の“シーン”は長い抱擁のようだ。ときにそれは味気なく(まるでアマチュア映画のように)、ときにそれは壮麗である(ガレルが若い時分、膝に乗せた美しいものすべてを忘れないでいることを想起させる)」セルジュ・ダネー、『映画=日誌』 |
『ヴァン・ゴッホ』 (Van Gogh) 1991年/160分/カラー/デジタル/フランス語 監督:モーリス・ピアラ 出演:ジャック・デュトロン、 アレクサンドラ・ロンドン 、ベルナール・ル・コク 療養のため訪れたオーヴェルの村。医師ガシェの診察を受けたゴッホは、そこで娘のマルグリットと出会う。美術コレクターでもあるガシェと親しくなった彼は、マルグリットをモデルにした絵を描くために家に通うようになり、やがてふたりは親密さを増していく。ルノワールを思わせるおおらかで成熟した演出で、ひとりの男、アーティストの人生の片鱗を見事に描く壮大かつ親密な要素を兼ね備える傑作。 「デュトロン演じるヴァン・ゴッホを「取り囲む」登場人物たちがあれほどすばらしく、私たちが彼らを驚くほど無償で愛してしまったのは、まさに映画の登場人物を定義する法則のひとつ、文字で書かれることのないその痕跡を彼らが備えているからだ。すなわち「それだけしかすることがないわけではない」人たち。ガシェ医師がいきなり冒頭から、スケジュールをやり繰りするのになにより悪戦苦闘しているところや、足を怪我してしまうまで、店をしっかりと切り盛りしているビストロの女主人を私は愛する。オーヴェルに頻繁に来ることがない(別の人生がある)テオも好きだし、「最後の一杯」をもらうため戸口にいつも立っている父と息子、素晴らしき酔っぱらいたちも大好きだ。」セルジュ・ダネー、『トラフィック』2号 |
↑ |