OUTSIDE IN TOKYO
AMIR NADERI INTERVIEW

西島秀俊が演じる主人公秀二は、過去の名作映画の上映活動を行いながら、自らの監督作品を作る機会を伺っているシネフィル青年である。秀二は、ヤクザからの借金を残してこの世を去った兄の肩代わりをし、殴られることで金を貰い、その金を借金の返済に充てている。秀二は殴られるたびに、名作映画の製作年と題名を口に出すことで、その痛みに耐える。その苦行めいた自己犠牲は、借金の返済の為だけではなく、上映機会を奪われて消えてゆく過去の名作映画を救う為のプロテストであり、自らが先人に倣って”ピュアシネマ”を撮りあげるための闘いでもある。秀二がメガホンを使って叫ぶ「映画はかつて真に娯楽であり、芸術であった!」という言葉は、21世紀の今、映画好きを自負する全ての人々が、改めて真摯に受け止めるべき価値あるひとつの警句に違いない。

正に”シネフィル映画”というべき本作で参照される作品は全103作品に及び、さながら、アミール・ナデリの映画史の様相を呈している。”映画史”と呼びうる映画がかつて普通の物語映画に体よく収まった試しはなく、本作も、監督自身が語っているように、実験性の強い『サウンド・バリア』を彷彿させる、偏執狂的激しさを備え、黒沢清監督が讃えた”日本映画らしさ”そのものの過剰なまでの沈黙が支配する、桁外れの情熱に満ちた映画である。そんな”ピュアシネマ”への情熱に溢れた本作を、黒沢監督が受け止めたように、そして本作に出演した西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、でんでん、鈴木卓爾、笹野高史といった俳優陣が受け止めたように、私たち観客も”心”で受け止めたいと思う。

『サウンド・バリア』や『べガス』という傑作映画を連発してきたナデリ監督が、”日本映画”へのオマージュとして、高度に実験性の強い本作を敢えて撮り上げたのには、この映画のアイディアが”映画祭”という場で着想されたことが大きかったに違いない。そんな本作が、ヴェネチア映画祭とフィルメックスで上映され、監督自身がフィルメックスの審査委員長を務めるという事態は、この作品にとって最上の環境で観客の目に触れることが出来たのではないかと思う。フィルメックス開催期間中も、客席で観客と共に映画を楽しむ姿を毎日拝見することができた”あまりにも熱い”アミール・ナデリ監督の有り余るエネルギーが溢れ出るインタヴューをお届けする。

1. 日本には自分の信じるものの為に自分を犠牲にするという方々が沢山いらっしゃる

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Q:『CUT』を、感動と驚きをもって拝見させて頂きました。すごく殴られることによって映画への愛を強く認識する、とても斬新なストーリーだなと思ったのですが、こういった形で映画愛を表現するテーマの発想というのをお聞かせ頂ければと思います。
アミール・ナデリAmir Naderi(以降AN):実は、ジョン・カサベテスと彼の最後の作品で仕事をしたことがあるんです。彼の人生、作品群の中でも最もモダンで悲劇的な作品だったかもしれませんが、彼はその後亡くなってしまった。彼の人生を振り返った時に、配給であったり、製作であったり、大変苦労しながらずっと映画をスクリーンに届け続けて、亡くなってしまい、CUT!と彼の人生はなったわけなんだけれども、何か彼についての映画を一本作りたいと思ったのです。

今回は、脚本をいつも一緒にやっているアボウ・ファルマンと一年かけて開発をして、内容としては、それまでの一世紀分の古い映画を見せて語りたいと思ったんですが、いかんせんジョン・カサベテスの人生はあまりにも大き過ぎて、彼を題材にすると他の国の監督や作品について全くふれることができなくなってしまう、そうすると自分の求めているものを描くにはバランスが良くないと思ったんです。

西島(秀俊)さんとは、7年位前にフィルメックスで来日した時にお会いして、会った瞬間からお互いすぐに通じ合うものがあったのです。西島さんは皆さんもご存知の通り、大変なシネフィルで、私が日本でその映画を作りたいと言うととても強い興味を示してくれて、そこから色々な扉が開いていったのです。そして音楽が変調していくように作品も変調していきました。過去20年間、世界の色々なところで日本映画を観たり、日本映画も含めて様々な講義を自分がしてきた中で、かつての巨匠の作品が過去の灰に埋もれているような現代において、何か主人公が映画を救いたいと思ってるような役がいいだろうと、かつての作品だと白黒の時代ものが多くなるわけなんですけれども、日本をその舞台にするならば、西島さん演じる若い監督が自分の国のかつての名作を救おうと、その行為がひいては世界のシネマも救うという行為になっていくというところまで広がっていきました。

私の住むアメリカでは、自分を犠牲にして何かをするという場合、それは野心によるものが原動力になっているケースが多い。しかし、日本には自分の信じるものの為に自分を犠牲にするという方々が沢山いらっしゃる。私から見ると非常に日本の文化的であると思えるそうした部分を取り入れて、日本を舞台をにした映画を撮りたいという風に思ったのです。

『CUT』

12月17日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:アミール・ナデリ
共同脚本:青山真治
共同脚本・助監督:田澤裕一
脚本:アボウ・ファルマン
撮影:橋本桂二
照明:石田健司
録音:小川武
サウンドエディター:横山昌吾
美術:磯見俊裕
特殊メイク:梅沢壮一
プロデューサー:エリック・ニアリ、エンギン・イェニドゥンヤ、レジス・アルノー
制作:定井勇二、ショーレ・ゴルパリアン
共同プロデューサー:ビンセン・ラルニコル、キム・ジンク、デビット・コッタキオ
スペシャル・アドバイザー:黒沢清、市山尚三
出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、でんでん、鈴木卓爾、笹野高史

2011年/日本/カラー/1:1.85/120分
配給:ビターズ・エンド

© CUT LLC 2011

『CUT』
オフィシャルサイト
http://bitters.co.jp/cut/


第12回東京フィルメックス
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