OUTSIDE IN TOKYO
Anais Demoustier INTERVIEW

アナイス・ドゥムースティエ『彼は秘密の女ともだち』インタヴュー

2. 繊細な内面の変化を演じ分けることが一番の課題でした

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Q:この作品にはトランスジェンダーの登場人物が出てきますが、アナイスさんの身近にトランスジェンダーの方はいらっしゃいますか、もしいらっしゃったら、その方がこの作品を観てどういう感想を持たれか教えてください。
アナイス・ドゥムースティエ:私の周りでそういった方は存じ上げないのですが、映画の中でナイトクラブに出かけた時にニコール・クロワジールの歌に合わせて躍っている男性がいましたよね?彼はトランスジェンダーですが、凄く感動して、この映画を好きだと言ってくれました。フランスにはトランスジェンダーの人々は確かに存在しているのですが、マージナルな存在で、普段はあまり注目も浴びず、映画に彼らのような人々が出てくることもあまりありません。この映画では、彼らがなぜ女装しているのか、どういう心情でやっているのかということを正確に描いている、しかも、ちょっとコメディタッチで軽やかに描いている、決して深刻過ぎたり、軽蔑的な重苦しい内容にはなっていない、そうした点がとても評判が良かったと聞いています。

Q:ロマン・デュリスがダヴィッドからヴィルジニアに変身するわけですけど、アナイスさんが演じたクレールも、最初のクレールから変わっていきます。メイクが変わったり、衣装が変わったりして、変身していきますね、その時、外見の変化と同時に、表情であるとか、立ち居振る舞いであるとか、そうした点も演技上変えたりされましたか?
アナイス・ドゥムースティエ:クレール自身も進化して変わっていくというのがまさに今回の自分にとっての一番の課題でしたので、そういったことに気付いてくださって本当に嬉しく思います。演技の使い分けには凄く気を使いました。最初、クレールは内に引きこもって控えめで窮屈で味気ない人生を送っているというところから映画は始まります。善き夫もいて、家も素敵、仕事もちゃんとある、一見、幸せの条件が全て揃っているように見えるけれども、彼女は幸せを実感していません。それで親友の死に大ショックを受けて全てがひっくり返ってしまう。その後に展開するラブストーリーを経て、彼女自身が変わっていくわけですが、ダヴィッドがヴィルジニアに変わるのは見た目から明らかに変わる、あからさまに変わるのですが、クレールの変化は、それに比べて繊細です。実は、彼女にとっては目に見えるものではないけれども、内面的に大きな変化が起きているということが今回のとても重要なテーマでした。ですから私は演じる時、目立たないように、徐々に徐々に変えていくことを心がけていました。例えば姿勢一つでも、最初はちょっと内気だから猫背っぽかったのが、最後は背筋がぴんと伸びて、自信に満ちた、はつらつとした雰囲気に変わっていると思います。それはオゾン監督と撮影前に色々と打ち合わせをした中から、服だけではなく、一つ一つの仕草や表情でどんどん変わっていくクレールを表現して行こうという話をしていたからなのです。世の中では多くの人々が、自分の欲望を内に秘めたまま、それに従わないで生きているわけですけれども、クレールの場合は、自分の本音や欲望にちゃんと向き合い、その衝動の方向に向かって、自らを自由に解き放ち、やがて開花していくという風に描かれています。

Q:オゾン監督とクレールについて話し合った時に、その他に言われて印象的だったことはありますか?
アナイス・ドゥムースティエ:オゾン監督はあまり言葉では多くを語らず、こうしろああしろということは言わないのですが、全ては脚本に書かれています。今回の役作りで頑張ったのは、とにかくクレールという役柄の内面的なことまできちんと理解すること、そのためにシナリオを凄く読み込みました。しかし、シナリオを読む限りでは、彼女は寡黙でミステリアスな人物として書かれていて、内面的なことまではよく分からない。そのまま台詞を言うだけでは彼女の内面性までは伝えられませんし、ヴィルジニアというキャラクターがあまりにも強烈なので主人公が食われてしまう恐れもありました。そもそも、映画はクレールの視点から描かれています。内面的な部分をしっかり表現出来ないと観客には伝わりませんから、ちゃんと現実味のある奥深い人物像を描くために、彼女の心の動きのひとつひとつを緻密に理解するように努めました。

Q:クレールが凄く魅力的でした。アナイスさんからご覧になって、クレールの魅力はどのようなところにあるとお思いですか?
アナイス・ドゥムースティエ:先程、既にお話ししたことに付け加えますと、今回、クレールは、ヴィルジニアとの出会いによって変わっていきます。人が一人では中々出来ないことでも、誰かがそこに居てくれることによって、誰かが見てくれていることによって、勇気をもって立ち向かえるということがあります。そういう存在のお陰で彼女が変わっていったということも、素敵だと思います。



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