OUTSIDE IN TOKYO
Anais Demoustier INTERVIEW

恐らくは、オットー・プレミンジャー『ローラ殺人事件』(44)の”死後も人を魅了し続ける魅惑的な女性”のイメージを纏ったローラ(イジルド・ル・ベスコ)と、彼女を恋するように慕った少女時代から思春期、結婚に至るまでの十数年間を仲睦まじく過ごしたクレール(アナイス・ドゥムースティエ)、二人が共に過ごす濃密な時間を、おとぎ話的映像絵巻で綴る冒頭のオープニングシークエンスが素晴らしい、ルース・レンデルの短編「女ともだち」に材を得たフランソワ・オゾン監督の新作『彼は秘密の女ともだち』は、監督の人間的な円熟味すら感じさせるヒューマン・ミステリー、ヒューマン・ドラマに仕上がっている。

人生の最高に輝かしい時間を共に過ごし、互いに善きパートナーと巡り会ったローラとクレールを待ち受けていたのは、思いもよらぬ”死別”だった。最愛の妻ローラに先立たれた夫のダヴィッド(ロマン・デュリス)は、その喪失感をローラの遺体をドレスアップし、美しいメイキャップを施すことで埋めようとし、最愛の友を失ったクレールは、喪失感に打ち拉がれながらも、人の良い夫ジル(ラファエル・ペルソナ)に慰められ、失意に沈むダヴィッドを支えようとする。共通の”愛”の対象であったローラを失ったクレールとダヴィッドは、奇妙な縁に導かれるように接近していく。そんなある日、ダヴィッドの家を訪れたクレールは、ローラとの間に授かった一人娘の赤ん坊を、女装した姿であやすダヴィッドを目撃し、衝撃を受ける。

しかし、この衝撃こそが、クレールにとっての、新たなる人生の幕開けだった。この先は、是非、本編をご覧になってお楽しみ頂くとして、ここに、フランス映画祭2015のために初来日を果たし、聡明さを強く印象づけた主演女優アナイス・ドゥムースティエのインタヴューをお届けする。『アナと雪の女王』(13)ではアナのヒールが氷河にひびを入れ、『マッドマックス 怒りのデスロード』(15)ではフュリオサのブーツが赤い砂漠の上を闊歩する、21世紀の新しく力強いフェミニズム映画が躍進する現代において、女装した男性がショッピングモールにハイヒールの音を響かせる、オゾン監督ならではの捻りの効いた”女性性”賛美映画の登場である。

1. 自分らしさを見つけていく解放の物語

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Q:アナイスさんの出演作品の中で、日本で観ることが出来た最初期のものは、恐らくミヒャエル・ハネケの『タイム・オブ・ザ・ウルフ』(03)だと思います。アナイスさんは、まだ十代の少女でした。日本では、リアルタイムでは公開されず、2010年の『白いリボン』公開を祝した特集上映で観ることが出来ました。それと前後して、クリストフ・オノレの『美しいひと』(08)やレベッカ・ズロトヴスキの『美しき棘』(10)、そして、ロベール・ゲディギャンの『キリマンジャロの雪』(11)でもお姿を拝見していました。今回は、初めてフランソワ・オゾン監督の作品に出演されたわけですが、ハネケ監督や、オノレ監督と比べて際立った違いのようなものがあれば教えてください。
アナイス・ドゥムースティエ:どの監督もそれぞれのやり方というのがあるので、似ている人というのは中々いないと思います。ハネケ監督の時は私はまだ凄く若くて、初めての映画でした。その時は他の監督がどうやっているのかを知る由もなかったのですが、今回は、既に色々な監督と撮影していましたので、様々な違いを実感することが出来ました。まず、オゾン監督のやり方で特徴的なのは、進み方が非常に早いということです。撮影のテンポも凄く早いのですが、彼の作品作りのペースというのも早いのですね。年に一本のペースで映画を作っている監督は、フランスには滅多にいません。とにかく彼は凄く情熱的でエネルギッシュに、物事をワーっと進めていきます。本当に映画が好きで、子供のようにエキサイトしながら映画を作っているんです。そうしたことがよく分かる撮影現場でした。今振り返りますと、ハネケ監督はちょっとエネルギーの種類が違っていて、凄く集中してシリアスな雰囲気の中で撮影が進んでいきます、オノレ監督もどちらかというとそちらのタイプでした。監督のやり方というのは、今となって比べてみると、確かにそれぞれ違っています。オゾン監督は撮影監督ではありませんが、自らカメラの後ろに立って、どのアングルからどういうフレームで撮っていくかを決めていかれるので、監督の視線を間近に感じ、役者と監督の距離をとても身近に感じます。演じている上で些細なディテールもちゃんと見てくれているという感じがするのです、そこは他の監督たちと際立って違うと感じる点です。オゾン監督は経験も豊富ですから、シーンごとの動きや流れ、役者への指示やカメラの動かし方まで、何をどう撮りたいのかが明確にわかっていて、演出がとても的確です。

Q:今回、お話が来た時に、物語の内容や、オゾン監督と組むということついてどのように思いましたか?
アナイス・ドゥムースティエ:オゾン監督は、フランスで最も才能のある監督の一人ですから、彼と仕事が一緒に出来るということで本当に気持ちが高ぶりました。オゾン監督は女性にいい役を与え、素敵に撮ることで知られていますけれども、とりわけ素晴らしいのは女性を表面的にではなく、魂の奥深い複雑な部分までしっかり描くことに長けている点だと思います。今回の脚本を読んで、主人公の女性は、元々控えめで内気だったのが、ダヴィッド/ヴィルジニアとの出会いを通じて、自由に解き放たれていき、自分らしさを見つけていく解放の物語だったので、凄く特殊なラブストーリーですけれども、実は普遍的で、まるでおとぎ話のようでもあり、すぐに惹かれました。

『彼は秘密の女ともだち』
原題:THE NEW GIRLFRIEND

8月8日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:フランソワ・オゾン
製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー
原作:ルース・レンデル
脚本:フランソワ・オゾン
撮影:パスカル・マルティ
美術:ミシェル・バルテレミ
衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
編集:ロール・ガルデット
音楽:フィリップ・ロンビ
出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナーズ、イジルド・ル・ベスコ、オーロール・クレマン、ジャン=クロード・ボル=レダ

© 2014 MANDARIN CINEMA - MARS FILM - FRANCE 2 CINEMA - FOZ

2014年/フランス/107分/カラー/ビスタサイズ/5.1ch
配給:キノフィルムズ

『彼は秘密の女ともだち』
オフィシャルサイト
http://girlfriend-cinema.com
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