OUTSIDE IN TOKYO
CARLOS VERMUT INTERVIEW

カルロス・ベルムト『マジカル・ガール』インタヴュー

3. “謎”を“謎”として残しつつ明らかに解るようなところでこの映画を作りたかった

1  |  2  |  3  |  4



Q:そういう男性達に比べて女性の人物造形は冷静というか、そんなに感情的には見えないですね。バルバラを演じた女優、バルバラ・レニーさんは、たくさん賞も獲っていらして、素晴らしかったと思うのですが、この方をキャスティングした理由を教えていただけますか?あと彼女からインスパイアされて作り出されたカットがあれば教えてください。
カルロス・ベルムト:まずバルバラ役のバルバラ・レニーは、両親はアルゼンチン人ですが、彼女はスペインで育っていますけれども、生粋のスペイン人ではないということもひとつの理由でした。一番重点をおいたのは先ほど言ったみたいに、目ですね、彼女の目が、とても冷酷であったということ、あと雪女のような雰囲気がありました、そうでなくてはならないとバルバラの役に関しては思っていました。ほとんどのスペインの女優さんは、もっと情熱的な目をしていたり、割と感情が出やすい、目の表情で、感情を押し込めるというのはとても難しいことなのです。でも彼女の場合はそれが出来る女優だったので選びました。彼女にインスパイアされたシーンということでいえば、それは全てのシーンだということになります、なぜかというと脚本を書いている時点では彼女の役はもっと年配の役だったんです。でも彼女を見て役柄の年齢を変えました、相手役の年齢も変えました、彼女の存在によって全て脚本が変わったと言ってもいいと思います、ですから全てのシーンが彼女によってインスパイアされたシーンなのです。

Q:監督は漫画からキャリアをスタートされたということですが、映画的なバックグラウンドというのをちょっとお聞きしたくて、例えば、ダミアンを演じたホセ・サクリスタンさんは、ブニュエルの息子が監督して、ドヌーヴが主演した『赤いブーツの女』(74)に出ていましたね。日本の現状も同じですが、多分スペインもそうだと思いますけれども、この作品には社会全体に反知性主義的なものがはびこっていることへの一種の批判が物語の中に入っていると思います、そうした批判は、例えば、かつてブニュエルが、ブルジョワジーであったり、自由という概念であったり、そうしたものを支えている社会の空気を批判して、からかっていたようなところと似ているのかなと思ったからです。その辺のことも含めて、監督のバックグラウンドについて教えてください。
カルロス・ベルムト:分析して頂き、ありがとうございます。『赤いブーツの女』に関しては知らなかったんですけど、ブニュエルは大ファンなんです、ですからずっとブニュエルを観ていました。まず私達の両親の世代にとってブニュエルは映画館で観るものでした、彼らは別にシネフィルでもなんでもなかったんですけど、映画館でブニュエルの映画を観ていました。ということは、当時はブニュエルがメインストリームだったんです、でも今はブニュエルのような映画っていうのは映画祭でしか観られません。昔、ブニュエルを観ていた人達というのはそれがメインストリームだったので何も疑問は感じなかったわけです。それで映画の世界でちゃんと“謎”を楽しむことが出来たわけですね、でも今はそれが変わってきまして、私は非常に理性的な人間だと自分で思っているので、政治的、社会的には、理性的なものがより良い社会を作ると思っていますけれども、芸術的な面に関してはあまりに理性的であることは私の中では非常に居心地が悪くて、その中で自分の内なる葛藤が常に起こっています。なぜかと言うと今はみんな説明を求めるからです、人々がみんな“謎”を“謎”として受け入れる力がなくなってきて、みんなそれはなぜなのかという説明を求められます、ですからよりたくさんの人に観てもらうためには、それを明らかにしないといけないんですけれども、私はでもその中で“謎”を“謎”として残しつつ明らかに解るようなところでこの映画を作りたかったというのがあります。ですから自分の中では理性と感情との葛藤というのが常にあるんです。

Q:監督のプロフィールには、日本のアニメーションと漫画で育ったと書いてあって、とても詳しいようですがなぜそんなに惹かれるのかということと、年に日本に四ヶ月も住んでいらっしゃるとも書かれていて、四ヶ月というと年の三分の一になるわけですが、その間一体何をされているのでしょう?今回のアリシアの衣装のなどは、例えば秋葉原を歩いていて思いついたとか、そういうことがあるのでしょうか?
カルロス・ベルムト:まず、なぜ日本の漫画やアニメかということですが、特に“日本の”っていうことはないんです、好きなものがたまたま日本のものだったということです。ですからよく日本文化が好きなんですねって言われるんですけど、日本文化全部が好きなわけじゃなくて、その中の一部です、漫画、アニメでも一部ですし、本もそうです、サブカルチャーも好きですし、でも本に関してはミステリーが好きですね、ですから全部ではないということです。二つ目の質問ですけれども、今回が10度目の来日です、全部合わせると多分一年半くらいになるとは思いますが、初めは観光客として来ましたが、脚本を書いている時に来たこともあります。あとは友人と会ってご飯食べたり、散歩したり。何回きても日本人にはなれるわけではありませんから外国人のままですが。必ず行くのは上野の自然科学博物館で、凄く好きですね、そこに行って頭を空っぽにするんです。今回は、次の作品の脚本が書き終わったのでストーリーボードを書くための準備という感じです。『マジカル・ガール』の脚本はちょうど東京で書いていたので、リアリティのある信頼出来るものにするために、秋葉原には通っていました。そこで雑誌とかコミックを見たり、コスプレ用の衣装を見たり、どうすれば一番信じられる衣装が出来るかということを研究しました。


←前ページ    1  |  2  |  3  |  4    次ページ→