OUTSIDE IN TOKYO
CARLOS VERMUT INTERVIEW

もしナポレンがスペインを征服していたとしても、数学の基礎が変わるわけではない、という例え話から「完全な真実というのは常に答えが同じであり、つまり2+2は4なのだ」と、教師が生徒に諭す場面から始まる本作は、その言葉に反撃して生徒が披露する”マジック”によって、2+2が4になるとは限らないことを示し、俄然、見るものを映画の世界に引きづり込む。失業中の文学教師ルイス(ルイス・ベルメホ)は、白血病で余命僅かな愛娘アリシア(ルシア・ポジャン)が欲しがっている“魔法少女ユキコ”のコスチュームを手に入れるべく悪戦苦闘するうちに、謎めいた女バルバラ(バルバラ・レニー)に出会い、自らの運命の歯車を狂わせてゆく。そこに、刑務所から出たばかりの男ダミアン(ホセ・サクリスタン)が登場し、映画は予想だにしない展開を迎える。強力なストーリーテリングで見るものを惹き付ける『マジカル・ガール』は、荒唐無稽とはいえない、緻密に紐付けられた説得力のある”秘匿”の感覚を全編に湛えながら、運命の坂を転げ落ちてゆく登場人物を描きながらも、どこか”爽やか”な後味すら残す、希有な作品である。

来日したカルロス・ベルムト監督に、物語ることへの強烈な欲望を感じさせる、この作品について、そして、監督の創造の源泉についてお話を伺う機会を得た。興味深かったのは、監督の中で、”理性”と”感情”の内なる葛藤を常に抱えているということだった。カルロス・ベルムト監督は、この内面の葛藤を明晰な思考によって、登場人物の造形に極めてリアルに映し込んでいる。その点において、『マジカル・ガール』は、単なる空疎なジグソーパズル的映画とは本質的に異なり、かつてブニュエルの映画がそうであったように、人間存在と現代社会の哲学的省察足り得ている。同時に、監督が語ったのは、こうした理性のみで構築された世界を否定する、”マジック”や”謎”といったキーワードだった。この相反する複数の世界に同時に対峙する姿勢こそが、21世紀におけるフィクションの実践には必須の営みであると言えるだろう。

1. 映画の場合、目は口よりも物を言う

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Q:フィルム・ノワールと日本のアニメの文化、融合しそうにないものが融合していて、とても面白かったです。この組み合わせの着想と脚本は滞りなく出来ていったのでしょうか?
カルロス・ベルムト:初めに考えていたのはフィルム・ノワールですけれども、その要素を活かして、脅迫の連鎖をテーマに作ろうと思っていました。でも古典映画のフィルム・ノワールではなく、もう少し人間的な要素も含めたものにしたいと思っていました。そう考えていた時にアニメが出て来たのは、このプロットの中で物語を動かす、物語の駆動力になるような一つのアイテムが欲しかった。それで浮かんできたのがアニメのキャラクターのコスチュームでした。

Q:コスチュームの方が先ですか?
カルロス・ベルムト:コスチュームの方が先でした。それでその後に、魔法の杖です。一旦コスチュームを手に入れたとしても、魔法の杖でもう一度脅迫をしなければいけなくなる、そういう物語への駆動力、物語を進める力が出て来たのでアニメを取り入れました。

Q:脚本は順調に出来たのでしょうか?
カルロス・ベルムト:簡単ではありませんでしたね、一年間かかりました。それはこの三人の人物造形が必要でしたし、その三人がどういう風にして脅迫するようになるか、その理由が必要でしたので、一年間かけて書きました。

Q:女性の目をずっと撮る、長いシーンが凄く印象的でしたが、女優さんの起用理由として、印象的な目であるということが理由の一つにありましたか?
カルロス・ベルムト:そうですね、普段は心の動きだったり、思っていることをみんな言葉を使って表そうとしますけれど、映画の場合、目は口よりも物を言う、というのが当たっていると思います。目というのは私にとってとても重要な要素です、というのもバルバラが鏡を見る、自分を見つめる目、目とその視線、そしてダミアンがこっちを見るな、と言っても見続ける、そういう視線、目の力がこの作品の中では色々な感情を観客に感じさせてくれるものだと思っています。

Q:ダミアンは、目を凄く怖がっています、バルバラもそうです、女の子の目を怖がるというのは、見透かされているような感じとかがもしかしたらあるのかなと思ったんですけど、監督も女性の強い目を怖いなと思うことがありますか?
カルロス・ベルムト:私自身、シャイなのであまり人の目を見るのが得意ではなくて、小さい時、相手が誰かによって非常に怖いと感じることがあります。子供の時から親とも目を合わせなかったくらいですから、自分にとって、視線というのはとても怖いものです。

『マジカル・ガール』
英題:MAGICAL GIRL

3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!

監督:カルロス・ベルムト
製作:ペドロ・エルナンデス・サントス、アマデオ・エルナンデス・ブエノ、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス
脚本:カルロス・ベルムト
撮影:サンティアゴ・ラカイ
出演:ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン、ホセ・サクリスタン、イスラエル・エレハルデ、エリザベト・ヘラベルト

Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ
配給:ビターズ・エンド

『マジカル・ガール』
オフィシャルサイト
http://www.bitters.co.jp/
magicalgirl/
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