OUTSIDE IN TOKYO
Cécile De France

観衆の前で楽しそうに歌う修道女たち。そんな画を見る時、ウーピー・ゴールドバーグ主演の『天使にラブ・ソングを』(92)を思い浮かべる人もいるかもしれない。素行の悪い黒人女性が逃亡の末に修道院に潜りこみ、結果的に、歌の才でみんなを虜にするという物語だ。だがこれはベルギー映画だ。そして『シスタースマイル ドミニクの歌』は実在する人物を元にしている。ジャニーヌ・デッケルスという何事にも物怖じしない奔放な少女は、厳格な母親と優柔不断な父親から逃れるため、進学せず、修道院に入る決意をする。生きる糧のない彼女にとって、それが精一杯の自立だった。だが修道院の厳しい規律は彼女の母親に勝るとも劣らないものだった。そこで彼女が見つけた“神様に仕える”という名目の自由が、曲を作り、唄を歌うことだった。60年代、顔を隠した修道女が“シスター・スマイル”が唄う、「ドミニク、ニク、ニク」という歌は、瞬く間にベルギーを席巻し、アメリカどころか日本にまで飛び火していたようで、ペギー葉山、ザ・ピーナッツがカバーしていたそうな。だが人々に声が届く喜びを知り、教会とレコード会社に利用されていると知った彼女は、専業歌手を目指して、修道院を出る決意をする。そこから彼女の人生は急下降を始める。彼女に乗っかろうとするレコード会社の思惑で郊外の一軒家を借りたものの、教会のお墨付きを失うと、レコード会社にも無視され、生活もままならなくなった彼女は、フランス語圏のあるカナダ・ツアーの誘いを受ける。そこで彼女は周囲の反対を押し切って、女性に避妊権を与えることを勇気づける「黄金のピル」という曲を発表してしまう。女性を救うものと信じながら、下降線を描き始めた彼女の人生にブレーキがかかることはなかった。

そんな“シスター・スマイル”を演じるのは、『スパニッシュ・アパートメント』(02)の強いレズビアン役でセザール賞新人女優賞、続編の『ロシアン・ドールズ』(05)ではセザール賞助演女優賞、『モンテーニュ通りのカフェ』(06)『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part1 ノワール編』(08)などで高い演技力を評価されているセシル・ド・フランス。様々なキャラクターを演じ分けながらも、その演技には強い個性と意志を感じる。そして待たれる最新作はクリント・イーストウッド監督最新作の『Hereafter』というから着実なキャリアを積んでいる。そんな多忙な彼女に、短い時間ながらも、話を聞くことができた。今後続くであろう取材の前奏として、楽しんでいただければと思う。

1. 世の中からハミ出したような人間に惹き付けられる

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):そもそも、この映画の主人公であるシスター・ドミニク(という人物像)にどのような魅力を感じたのですか?
セシル・ド・フランス(以降C):(理由は)たくさんあるんだけど、特にふたつのことが私の心に響いたの。まずひとつは、その性格が非常に反逆的で不服従的であるということ。これは自分の立場で許されることを超えても、色々なリスクを背負って、言うべきことは言っていく、そういう勇気を持っていたことにとても感動したわ。特に、彼女は教会をもっと人々にとって身近なものにしていきたいと願っていたわけよね。そして若者たちにもっと自由に教会のこと、神のことを語りかけて、彼らが抱えている様々な問題を乗り越えていく上で手助けしたいと考えていた。そういう彼女の生き方には共感するわ。また、もう一つの彼女の魅力は、愛の欠落に苦悩したという、そういう人間的な一面ね。色々な権威が彼女の生き方に制約を与え、特に母親が非常に厳格で、自由を認めなかったということから、彼女の性格の様々な面において弊害が出てきていた。そんな問題を抱えながら生きていかなければならなかったという点にとても心を動かされたわ。

OIT:あなたは出演作を選ばれる時に、社会からハミ出すような人物を選ぶ傾向があるように思えるのですが、それはやはり自分の個性がハミ出しがちで、そもそもそういう人物に惹かれてしまうということですか(笑)?
C:(笑)うーん、非常にむずかしい質問ね。(その点は)あまり深く考えないできたものだから。ただ、作品を選ぶ時に3つの要素があると思うの。まず、シナリオそのもの、監督、そしてその人物の魅力よね。ただ、私の方から色々と魅力を感じてやりたいと思うかというと、そういうわけでもなくて、やはり私は俳優として計算しながら、そういう役を演じていく立場にあるわけ。まあ、そうは言っても、やはり世の中からハミ出したような人間に惹き付けられることは多々あるわね。ただ、私にとっては、そういうハミ出し者も、全てひとりの人物の多面性、そして役柄の多様性のパレットが非常に様々だということの現れでもあるの。だから、色々と異なる役をやってみたいという思いはあるわね。それはその時その時でどういうものを提案してもらえるかにもよるんだけど。

『シスタースマイル ドミニクの歌』
原題:Soeur Sourire

2010年初夏シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

監督:ステイン・コニンクス
脚本:クリス・ヴァンデル・スタッペン、アリアン・フェート、ステイン・コニンクス
撮影:イヴ・ヴァンデルメーレン
音楽:ブルノ・フォンテーヌ
出演:セシル・ド・フランス、サンドリーヌ・ブランク、マリー・クレメール、ジョー・デスール、ヤン・デクレール、クリス・ロメ、フィリップ・ペータース、クリステル・コルニル

2009年/フランス、ベルギー/124分/カラー/ドルビーSRD
配給:セテラ・インターナショナル

©2009 PARADIS FILMS - LES FILMS DE LA PASSERELLE - EYEWORKS FILM & TV DRAMA - KUNST & KINO

『シスタースマイル ドミニクの歌』
オフィシャルサイト
http://www.cetera.co.jp/dominique/
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