OUTSIDE IN TOKYO
ELEANOR COPPOLA & DIANE LANE INTERVIEW

物語は、カンヌ国際映画祭が開催され、草木も萌える5月、夫婦が滞在するカンヌのホテルの一室から始まる。大物の映画プロデューサーである夫マイケル(アレック・ボールドウィン)に同行し、彼の日常生活を忙しなく取り仕切るアン(ダイアン・レイン)は、マイケルが新聞を読む合間にキャリーバッグの荷造りを済ませ、チェックアウトの手筈を整える。体調が芳しくないアンは、耳の不調をマイケルに訴えるが、仕事の電話に追われる彼には、彼女の訴えを受け入れる余裕がない。一方で、写真好きのアンは、常に携帯しているライカのコンパクトカメラで、その朝も何枚かシャッターを切っているが、マイケルにせがまれても見せようとはしない。どこか、ぎくしゃくした夫婦関係が、南仏の豊かな自然光の下で描かれていく。

カンヌのホテルを後にした二人は、マイケルの仕事仲間のフランス人ジャック(アルノー・ヴィアール)の車で空港に送ってもらい、そこから、新作の撮影地であるブダペストへ飛行機で赴く予定だったが、耳の不調が収まらないアンは、飛行機をやめてパリの友人宅で休むと言う。そこで、ジャックが、アンをパリまで車で送りますよと申し出る。アンとジャックのロードムービーの始まりである。まずは閑静なホテルでのランチに始まり、セザンヌが描き続けたことでつとに知られるサント・ヴィクトワール山を眺め、プロヴァンスの古城や、ローマ人が建築したのだという水道橋といった名所巡りを、フランス式”おもてなし”で朗らかに遂行するジャックに、最初は戸惑いを感じていたアンも、徐々に心を開いていく。「パリは待たせておけばいい(原題:Paris Can Wait.)」とジャックは言い、夫とはこんなゆったりとした時間を過ごした記憶がないと語るアンは、異国の地で新鮮な感覚に満たされていく。

知的な会話で”食”への限りない愛情を漲らせ、その地の魅力を伝えるジャックの”豊かな”アテンドによって、当初7時間のドライブでパリに到着する予定だった旅程は、まだ4分の1にも満たない距離にあるヴィエンヌの瀟酒なレストランのあるホテルで一夜を過ごす事態を迎える。その翌日も、ローヌ川の畔でのピクニック、リュミエール研究所への好色な寄り道、リヨンの市場と人気レストラン”Daniel et Denise”でのランチへと、流れに身を任せたアンとジャックの旅は続いていく。アンは、時折、アメリカで暮らす娘(ダイアン・レインの実の娘である)からの電話やメールに応えながらも、そのゆったりとした時間の流れの中で”自分が本当に好きなこと”を再発見していく。いよいよ、パリも間近と思える所まで来た二人だが、今度は、アンが、”ヴェズレー”の標識を見つけて、サント・マドレーヌ大聖堂へ行きましょうと言い出す。

車の中で束の間の仮眠をとるアンの首に掛けられたネックレスには、アンの”赤ちゃん”の写真が入れられている。その写真を目に留めたジャックは、静かに車を走らせ、空には月が浮かんでいる。目を覚ましたアンが、月の満ち欠けの俳句を一句諳んじる。そこでアンは、”ヴェズレー”の標識を見つけ、二人は大聖堂へと向かう。この一連の描写が素晴らしく、80歳にして自らの長編フィクション映画デヴューを飾った作品を、単なる”観光映画”に終わらせない、”作家”エレノア・コッポラの神髄を見た思いがする。”作家”は、自らの実人生を糧にして、フィクションを創り上げる。大聖堂で、ダイアン・レイン演じるアンが流した涙には、作家の実人生の真実が宿っている。

1. 一番大変だったのは、お金を集めることね(エレノア・コッポラ)

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Q:映画を拝見して、本当に楽しい作品で、女性としてとても勇気づけられました。テーマ的には、映画化するのが難しいテーマだったんじゃないかと思ったのですが、映画化にあたってご苦労されたのはどんなところですか?
エレノア・コッポラ:ストーリーを考えたり、脚本を書く段階は楽に出来たんです、一番大変だったのはお金を集めること、それが一番のチャレンジでしたね。派手なドラマはないし、カーチェイスもない、情事は出てこないし、汽車が暴走することもない、女性はそういうことを分かってくれますけれども、お金出す男の人達はそういうことを分かってくれない。これじゃ映画にならないっていうことでお金を出そうとしない、一番苦労したのはお金ですね。
Q:コッポラ家では映画はもう家業のようなものではないかという気がするのですが、ご家族の皆さんと、映画化に至る困難な道のりの中で話し合うことはありましたか?
エレノア・コッポラ:フランシスは、最初はあまりこの企画を推してくれなかったんです、やはりお金集めの苦労をよく知っていますからね。難しいことは分かっているし、でも、それが出来なかったら私が悲しむことも分かっているから、あまり積極的にはやれとは言わなかった。最初は引いてたんです。でも、いよいよ制作が始まるという段階になると、ちゃんと入ってきてくれて、お金やビジネスの問題に関して上手くやってくれました。やはり、彼は処理の仕方をよく知っているから、そういう助けはありました。


『ボンジュール、アン』
原題:PARIS CAN WAIT

7月7日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督・脚本・製作:エレノア・コッポラ
撮影:クリステル・フルニエ
プロダクション・デザイン:アン・シーベル
衣装デザイン:ミレーナ・カノネロ
音楽:ローラ・カープマン
出演:ダイアン・レイン、アレック・ボールドウィン、アルノー・ヴィアール

© the photographer Eric Caro

2016年/アメリカ/92分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES

『ボンジュール、アン』
オフィシャルサイト
http://bonjour-anne.jp
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