OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

シリル・ルティ『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家シネアスト』インタヴュー

3. 今、映画史の大家ニコル・ブルネーズ氏が、ゴダールがどういう支援を
  若い人たちにしてきたかということを調べ上げたリストを作成中です

1  |  2  |  3  |  4



OIT:この映画の中で、これは恐らくアラン・ベルガラの著書に書かれていたことがベースになっているのだと思いますが、ゴダールのとてもパーソナルなこと、例えば、彼の父親と母親、兄妹、裕福な出自のこと、その家族との断絶、彼の祖父母のヴィシー政権との関係といったことに言及されています。もちろん、こうしたことを含めて“人間ゴダール”を描き出すというのが、そもそもの監督の目的であるのかもしれませんが、最初の段階で、こうした要素を入れることに躊躇はありましたか?
シリル・ルティ:そうしたパーソナルな事実というのは、ゴダールをよく知る人達にとっては、それ程、今回初めて知ったということでもないのです。先程の彼の活動家時代のことについて、もう少し付け加えたいんですけど、トリュフォーとゴダールはかつて友人同士でしたが、1968年に絶交しているわけですよね。トリュフォーはゴダールの態度について、こんな風に言っています。「彼が毛沢東主義の活動家をやれているのは、彼がブルジョアの出自だからだ、金があるからだ。そういう風に社会に反旗を翻して、社会なんか!と言うことが出来るのは、甘やかされた子供の行動に過ぎない。僕の場合は、貧しい家庭に育っている、そういう厳しい出自だからこそ社会に同化しようとしたシネアストだけれども、ゴダールは甘やかされて育ったブルジョアだから社会に背を向けることが出来たんだ」。ゴダールが活動家として映画を撮っていた時というのはもちろん、とても誠実だった、嘘はなかったと思います。ただ、トリュフォーの言うことには真理があるなと思います。

アラン・ベルガラ
OIT:そうしたトリュフォーの発言は日本でもある程度伝えられていますけれども、今回の作品を見ると、ゴダールの出自は確かに裕福なものだったとはいえ、家族とも断絶していますから、特に経済的な支援を得ていたというわけでないんですよね。
シリル・ルティ:そうですね、確かに支援は家族から受けてはいませんでしたが、メンタリティはやはりブルジョアだったわけです。お金があったからこそ、お金に対する飢餓感がなかった。ですから、彼が誠実に映画を作っていたと言う時に思うのは、お金のために何かをするということが彼にはなかったということです。実際のところ、貧しいとは言えませんが、ゴダールが映画作りを通してお金持ちになった、豊かになったということはありません。丁度、今、映画史の大家ニコル・ブルネーズ氏が、ゴダールがどういう支援を若い人たちにしてきたかということを調べ上げたリストを作成中なのですが、本当に彼は金銭面でとても気前が良くて、例えば、機材を提供したり、お金を出したり、自分よりも若い映画作家たちを支援していたのです。彼の知名度が抜群だった1970年代、本当だったらもっとお金が入ってくるような、もっとクラシックな商業映画を作ることも出来たのだと思うのですが、彼はそれを拒むわけです。それよりも、自らの探求を突き詰めた作品を撮り続ける道を選んだわけです。

アントワーヌ・ド・ベック
OIT:アンナ・カリーナとアンヌ・ヴィアゼムスキーについては、二人の別の女性がナレーターとして登場して、彼女たちを演じる形で撮影されていますね。
シリル・ルティ:そうですね、アンヌ・ヴィアゼムスキーは、あの時代、ゴダールについて、2作の本(『彼女のひたむきな12カ月』、『それからの彼女』)を書いていますよね。非常に貴重な資料です。ただ、本を映画の中に登場させる、存在させることは、意外と難しいんです。ですので、彼女(アンヌ・ヴィアゼムスキーを演じるセレスト・ブリュンケル)が本を朗読するところを録音している最中であるという設定で撮ることにしました。この手法は、ゴダールがまさにやっていた映画の中で映画が作られているという、メタ的な状況で本を登場させるということを、私自身も実践してみたわけです。アンヌ・ヴィアゼムスキーがゴダールと結婚していたのは、彼女がとても若い時のことで、彼女は19歳、ゴダールは40歳でした。だからこそ、とても若い頃のアンヌ・ヴィアゼムスキーをイメージして、19歳のセレスト・ブリュンケルを起用しています。

OIT:一瞬、誰かな?とは思いましたが、映画の流れの中でとてもマッチしていたと思います。
シリル・ルティ:アンナ・カリーナを演じたジョセフィーヌ・マンシーニは俳優ではないのですが、アンヌ・ヴィアゼムスキーを演じたセレスト・ブリュンケルはテレビシリーズで人気が出て、今や、売れっ子の俳優になっています。彼女が出演していたのは、精神科医の診察室で話が繰り広げらる『En thérapie』というNetflixのドラマシリーズで、最初のシリーズを『最強のふたり』(2011)の監督(エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ)が手掛けました。その後、様々な監督がシリーズ毎に参加しています(アルノー・デプレシャン監督も2022年に1シリーズ7エピソードを手掛けている)。これもアルテが製作しています。


セレスト・ブリュンケルとシリル・ルティ監督
←前ページ    1  |  2  |  3  |  4    次ページ→