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KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

シリル・ルティ『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家シネアスト』インタヴュー

4. ゴダールは、“音声”が映画に付加された時点で凄く失望した

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『気狂いピエロ』 (c)1962 STUDIOCANAL SOCIETE NOUVELLE DE CINEMATOGRAPHIE DINO DE LAURENTIS CINEMATOGRAPHICA, S.P.A. (ROME).
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OIT:第4章の始まりの部分で、ナタリー・バイが登場しますよね。あそこで流れる音楽が素晴らしいのですが、あれはトマ・ダプロ(Thomas Dappelo)氏によるオリジナル・スコアでしょうか?
シリル・ルティ:その通りです。実は、アントワーヌ・デュアメルが手掛けた『気狂いピエロ』(1965)の音楽を参考にして欲しい、とトマに話していたのですが、中々思い通りのものを作れなくて、彼は相当悩んだんです。何故かというと、アントワーヌ・デュアメルの音楽はとてもリリシズムに溢れていて、センチメンタルな音楽が流れているんですけど、観客が酔い痴れないように途中でパッとカットするんですよね。良い感じになってきたな、と思った所でスパッと切る、そういう感じを出したいということをリクエストしていたのですが、中々上手く出来なくて、色々なバージョンをトマが作って、最終的に採用したのが今入っているものなんです。ナタリー・バイを起用したのは、ゴダールが“政治の時代”を終えて、カンヌ国際映画祭にカムバックして、普通の映画、商業映画に戻ってきた、そういう時代の証言者としてのナタリーが登場するという場面ですので、そこにはこういう華やかな音楽が相応しいだろうと思ったのです。

ナタリー・バイ
OIT:この作品の中で、ゴダールと“絵画”との関係には言及されているのですが、“言語”や“言葉”との関係には言及されていません。そこまでやると3時間の大作になってしまうから難しいといったこともあるとは思いますが、監督ご自身はゴダールと“言語”の関係性について、どのようにお考えですか?
シリル・ルティ:それは複雑な問題ですね。確かに沢山の書物がゴダールと言語の関係について著されています。しかし、私が考えているのは、ゴダールは、“音声”が映画に付加された時点で凄く失望したということなんです。彼は、音声が映画を退化させたと考えているのです。音声が映画に登場したのは1920年代末のことですが、ゴダールは、映画という子供は、トーキーになったばっかりに、上手く成長出来なかったと思っているのです。音声が付加されたことによって、そこで言語が生まれる。あるいはそこでシナリオが生まれる、演劇性、ドラマ性が生まれる、物語が生まれるというふうに退化させたと思っているのです。彼の中では、映画というものはもっとグラフィカルなものであるべきだったし、もっと違うランゲージを生み出すものであるべきだった。だからこそ、ゴダールの作品というのは常に、もし音声が存在しなかったら、どんな映画になっていただろう、ということを絶えず探求していた、それがゴダールの作品でした。仰る通り、言語との関係を語り出したら、あと1時間半必要になるでしょう。この作品は、そもそも、大衆向け、テレビ向けに製作された作品ですから、やろうとしても難しかったでしょうね。今、Netflixでアンディ・ウォーホルの8時間に及ぶシリーズものがありますが、ゴダールの全体像を語るには、そのようなフォーマットが必要になるでしょう。

OIT:監督は、そういうフォーマットに挑戦する気はないのですか?
シリル・ルティ:今はちょっと難しいですね。自分としては、どちらかというと書物にしたいという気があります。色々な人のインタヴューをしているのですが、今回使うことが出来たのは、ほんの一部なんです。ですので、そのインタヴューの全てを一冊の本にまとめて、上手く出版社が見つかれば、書物として出したいと思っています。中でも、ロマン・グーピル(『30歳の死』1982、『ハンズ・アップ!』2010、『来るべき日々』2014)がゴダールのことを語ったのは初めてのことなのです。彼は、他の専門家たちよりも、もっとシンプルな言葉でゴダールの人間性について語っていますので、とりわけ、書物の一部として残す価値のあることだなと思っています。

マリナ・ヴラディとシリル・ルティ監督
OIT:ロマン・グーピルはかつて、ゴダールのアシスタントもしていましたよね?
シリル・ルティ:ゴダールは、グーピルが60年代に(僅か16歳の時に)短編映画(『L'exclus』『Ibizarre』1968)を撮った時に、撮影機材やお金を貸したんです。その流れで、グーピルはゴダール作品で演出の補佐をしていました。

OIT:そのインタヴュー素材は是非何らかの形で作品にして頂きたいですね。
シリル・ルティ:そうなんです、リュック・ムレという、ヌーヴェルヴァーグの後に出てきた重要な映画作家がいて、「カイエ・デュ・シネマ」にも執筆している人ですけれども、彼にもインタヴューしているのですが、今回の編集では残すことが出来なかった。それと、今回、8人の批評家を集めて、ゴダールについての自由討論を3時間に亘ってやってもらったんです。それも全て録音が残っています。その内の一人は、ミシェル・シマンという大御所で、「カイエ・デュ・シネマ」の競合誌である「ポジティフ」で執筆している批評家です。噂では、彼はゴダールを好きではない、と言われています(笑)。

OIT:最後に、監督の次回作の話を可能な範囲で教えてください。
シリル・ルティ:実は、今、ジャン=ピエール・レオについての作品を作っているところです。日本でも撮影をする予定で、『ライオンは今夜死ぬ』(2017/ジャン=ピエール・レオ主演)を撮られた諏訪敦彦監督にもご出演頂くことになっています。この後は、台湾に行って、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督(『ヴィザージュ』(2009)にジャン=ピエール・レオが出演)をインタヴューすることになっていますが、日本での撮影はその後になりそうです。ジャン=ピエール・レオが、カンヌ国際映画祭に登壇した時の映像も、既に使用許可も得ていますので、来年のカンヌでお披露目したいと思っています。

OIT:何と!それはとても楽しみです!


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