OUTSIDE IN TOKYO
ELISE GIRARD INTERVIEW

エリーズ・ジラール『ベルヴィル・トーキョー』インタヴュー

3. ロメールは、五人の少数精鋭スタッフで散歩しながら撮影する、順撮りのスペシャリストでした

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OIT:『ベルヴィル・トーキョー』は、物語自体は確かにちょっと悲しい話なんですけど、映画のスタイルがそうなってない、悲しいばかりではないですね。
EG:悲しい、辛い時でも、時にはやっぱり笑うことって、人生でもあるでしょ。映画もそうであってほしいと思ってるんですね。あまりにも悲しい、辛い時って、逆にそれが滑稽に思えたりとかすることもあると思うんです。この登場人物達も自分達の会話の中で、端から聞いてたら、なんかちょっと不器用なこと言ってますよね。愛おしいような、可笑しさみたいなのを私たち観客が感じること、そういうことが好きなんですね。

OIT:歴史的に、今まで作られてきた多くの映画は男性監督の手によるものでした。その為か“女性”が論理的に理解出来ないものとして描かれた映画が今まで多かったと思うんですね。この映画の場合は逆に、ジュリアンという男性が非常に不条理な行動ばっかりしているというか、女性からの視点が浮き上がっていて面白いと思ったんです。それは意図的というよりは、自然にそういう物語になったのでしょうか?
EG:自然です。正確、的確ということは、映画を作る上では凄く大事だと思うんですね。人生においても黒白がはっきりしていることばかりじゃないと思うんです、そういう意味でグレーゾーンというか、こっちでもあるし、あっちでもある、そういう多義性をもたらす方が正解だなと、人間ってそういうものじゃないですか。人間って、100%天使っていう人もいなければ、100%悪魔という人もいない。みんなそうした要素をちょっとずつ持ってますよね、完璧じゃないですしね。

OIT:画のカラーパレットも、グレーが中心でしたね。
EG:まあ冬の映画っていうのもありますよね、確かにあれは冬の色です。

OIT:9月から確か始まって2月までを描いていますね。
EG:その通りです。

OIT:実際の撮影は?
EG:1月の中旬から2月の中旬までです。

OIT:順撮りでもない?
EG:はい、それは夢ですね。それをプロデューサーにやりたいって、ちゃんと了解させるだけの稼ぎがないんです。技術的な面で順撮りは難しいです。今回は、まずアパートのシーンから撮り始めました。役者は順撮りじゃない撮影方法に慣れてますからね、私はちょっと心配だったんですけど。例えばマリーの場合、午前中の撮影は八ヵ月のお腹で、午後は四ヵ月のお腹で、大丈夫かなと思いましたけど、ヴァレリーは難なく演じてくれましたね。

OIT:ヴァレリーはちょうどその頃妊娠していたわけではないですか?
EG:違いますね。出来るだけ、あんまりじぐざぐに妊婦の期間を交差させるのではなくて、出来るだけ無理のない形で進めるように場所は選びました。

OIT:最近ちょっとびっくりしたのがゼメキスの『フライト』というハリウッド映画が順撮りで撮られていて。
EG:贅沢ですね。クリエイターは望むところですけど、プロデューサーは予算を倍にしないといけなくなりますから。本当に少数精鋭のスタッフで室内空間っていうのであれば可能かもしれませんけど、そうすると必然的に撮影期間が倍になります。ロメールはそのスペシャリストでした、五人の少数精鋭スタッフで散歩しながら撮影したんですね。私もそれをやりたいなとつくづく思いますよ、素晴らしいと思いますね。いつかやってみたいです、可能性としては排除してません。


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