OUTSIDE IN TOKYO
ELISE GIRARD INTERVIEW

エリーズ・ジラール『ベルヴィル・トーキョー』インタヴュー

4. これこそまさに映画だっていう確信を持てる瞬間でした

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OIT:撮影が、名匠レナート・ベルタなんですが、彼との仕事はどうでしたか?
EG:素晴らしかったです。個人的に、もう十年くらい知っていまして、二本目のドキュメンタリーは彼が撮影をしてくれたのです。私の撮影方法を、彼は凄く気に入ってくれたんです。スタッフも極少数で、自然光を多用しますから、柔軟性が非常に高い撮影だったんですね。美術のセットも歩いて行けるぐらいのところにありました。レナート・ベルタはロメールと『満月の夜』(84)を一緒に撮ってますよね。私達はカチンコを使わないんですね。ロメールもそうだと思いますけど、次のシーンを手書きで書いて、手でパチンと打つんです。私自身、スクリプターの経験がありますから。美術もとても職人的な作り方をした撮影でした。二番目のドキュメンタリーは、とても綿密に相談し合って、スタッフの間で作り上げていった作品だったんです。ですから、スタッフとの間の親密性というものはあっという間に築かれましたし、自分達がやるべきことをみんながきちんとこなしていた。少数でやることで、自由、柔軟性、そして稼働力というものが凄く自分達に与えられてると思える現場でした。

OIT:室内でもあまり照明は使ってないですか?
EG:少しだけですね、あんまり使ってないです。とても弱い感じでしか使ってないです。

OIT:室内のシーンは結構、エリーズ監督が出演されていましたね。
EG:出演してます。この食事のシーンは、結構ばらばらで撮ってるんですね、10分だけ撮ったり。そういう意味ではわざわざプロの女優さんを雇うっていうのは、ちょっと面倒くさいなっていうのもあったので、じゃあ私が出るわっていうことになったわけです。でもあんまりカメラの前に出るのは好きじゃないです。

OIT:でも女優さんとしてキャリアをお持ちですが。
EG:これは私のキャリアから抹消したいです(笑)。だから『ベルヴィル・トーキョー』で私の女優キャリアはピリオドです。

OIT:そう仰らずに出て頂きたいですね。
EG:ヒッチコック監督みたいにカメオ出演します(笑)。

OIT:『ベルヴィル・トーキョー』には、凄く感動的なシーンがありました。「ANNA」というCDを聴きながら、二人が泣いてましたね。あのシーンは、どういう風に演出されたのですか?
EG:役者達が私にしてくれた贈り物ですね。撮影の最初の週の後半だったんですけど、週の終わりで、もうちょっと疲れていたんです。ゲンズブールの歌の美しさっていうのもありますけど、泣きながら笑っている、感動的なシーンを狙ってたわけですけど、だからといって、そこで明確に演技指導をして、ここでは泣き笑いをして下さいなんてことは一言も言ってないんです。脚本には書かれていましたけれども、書かれていることを口にして言おうとは思いませんでした。ヴァレリーは、とても音楽的なセンスを持っていて、音楽に反応する感受性のある女の子なんですね。テイクも二回しか撮っていません。ちゃんとセットを用意して、それから撮影の準備も整って、音楽も何回かかけます。技術面で稽古をするわけですね。他のシーンは結構リハーサルみたいな形で演じてもらいましたけど、このシーンでは一度もリハーサルをしませんでした。リハーサルをすることで、何かを損なうんじゃないか、新鮮さを失うんじゃないかと怖れたのです。だからカメラもずっと回し続けました。一回目が歌い終わって、カットせず、はい二回目やってみたいな形でやったんです、二回目のところで彼らの目から涙が、、、っていう感じでした。これが映画のマジックですよね。監督としてああいう瞬間に立ち会うと、これこそまさに映画だっていう確信を持てる瞬間でした。他の部分ではこれでいいのかなっていう疑問を感じることも多かったのですが、あの瞬間はインパクトの強いものになると確信しました。だからこそこの仕事が辞められない!こうした瞬間に到達する回数を増やすことが私の目標だと言っても良いくらいです。

OIT:素晴らしい映画をありがとうございました。


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