OUTSIDE IN TOKYO
GEORGES GACHOT Interview

ジョルジュ・ガショ『ジョアン・ジルベルトを探して』インタヴュー

2. ジョアン・ジルベルトは、彼の音楽の中で、
 時間を伸ばしてみたり短くしてみたりして、時間と戯れている

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OIT:それはとても面白い、わかる感じがします。この映画の中で、言葉として直接出てくるかわからないんですが、サウダージっていうブラジルの音楽を表すキーワードがありますね、映画の中で「憧れは分裂した自らの自意識である」というヘーゲルの言葉をマーク・フィッシャーが引用していますが、“サウダージ”という言葉と“憧れ”という言葉は関連していますか?
ジョルジュ・ガショ:そうです、“サウダージ”という言葉をドイツ語で訳すと“憧れ”という言葉になります、その2つの言葉には似た感覚があるという風に私は理解しています。

OIT:ドイツ語にもサウダージに近い感覚があるということですね。
ジョルジュ・ガショ:サウダージという言葉はフランス語や英語では訳がなくて、ドイツ語ではその“憧れ”いう言葉が当てはまるという風に私は考えているんです、日本語でどうなのでしょう?

OIT:日本語だと“郷愁”という言葉を充てたりしますけれど、“郷愁”という言葉には、失われたものへの懐かしい気持ちという感覚があります。この映画では、ドイツ語経由で“憧れ”という言葉に翻訳されていますので、ちょっと違いがあって面白いですね。日本には『サウダージ』(2011)というタイトルの映画もあるんです。だけどそれはブラジルの話ではなくて、日本における失われた故郷の物語です。ところで、この映画の中でボサノヴァの時間というのは前と後に常に微妙にズレていて(シンコペイトしていて)、合致することがないっていう話をされていましたが、僕もブラジル人の時間感覚については不思議な感触を持っていましたので、そのことが説明されていて面白いと思いました。監督は、それについてどういう風に感じていますか?
ジョルジュ・ガショ:それは面白い質問ですね。ジョアン・ジルベルトは彼の音楽の中で時間を伸ばしてみたり短くしてみたり、彼の即興プレイの中でそういうことをやる人でもあるんですね。音楽家として音楽の中でそういうことをジョアン・ジルベルトは行なっていましたので、私も私の映画でそのアイディアを反映して時間を伸ばしみたり短くしてみたり、時間と遊ぶというんでしょうか、そういうプレイをしたいという風に思っていました。そういう風に時間と戯れることができるのがジョアン・ジルベルトの個性でもあり、そういった自由な感覚を持っていることが彼の音楽の強さであると私は思っているんです。アインシュタインの相対性理論のように、色々なリズムや詩、そういった要素を伸ばしてみたり短くしてみたり、あるいはひっくり返してみたり、という風にして遊ぶわけですね。そういう自由さが彼の音楽にはあると感じていました。彼の場合は、同じ曲を弾いて歌っても必ず毎回違う音楽になる、同じになることは決してない。私は、彼はとても卓越した、時間で遊ぶ人だと思っています。ミウシャがいつも言っていたことなんですけれども、ジルベルトは一日中ずっと同じ音楽を弾いていることがあったと言っています。ハーモニーやリズムは同じだけれども、毎回同じ曲を弾いていても毎回違った弾き方で時間と遊びながら伸ばしてみたり短くしてみたり、あるいはどこかとどこかを入れ替えてみたり、というようなことをして時間と戯れているようだったとミウシャは言っています。



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