OUTSIDE IN TOKYO
HONG KHAOU INTERVIEW

武侠映画の女王として活躍した歴史が育んだものなのか、チェン・ペイペイの険しい眼差しとアンドリュー・レオンの優しい眼差しが交錯し、紫陽花の花が印象的に飾られたノスタルジーとモダニズムが調和した室内で、視点が過去と現在をシームレスに移動するオープニング・シークエンスに先ず目を奪われる本作『追憶と、踊りながら』は、ひとりの男性の不在を巡って、彼と親密な関係にあった者たちが、不可視の”匂い”や”記憶”といった、辛うじて残された儚い生の断片を頼りに彼の記憶を慈しむ、漂うような儚さ、それ自体が魅力の美しい小品である。

カンボジア出身のホン・カウ監督は、ベルリン国際映画祭やサンダンス映画祭で上映された短編映画が注目され、本作で長編デヴューを飾った英国在住の俊英。本作は、本国英国で注目を浴びた他、サンダンス映画祭ではデビュー作として異例のオープニング作品に選ばれ、撮影賞を受賞、ゲイカップルの一夜限りのロマンスを描いた『Weekend』(11)を手掛けたウラ・ポンティコスが撮影を務めているとこも見所のひとつだ。ホン・カウ監督は、低予算の本作に人気俳優ベン・ウィショーを主役のリチャード役に据えることに成功しただけではなく、手で触れることの難しい”不可視”なものを確かに見るものの意識に植え付け、伝わるはずの言語の”伝わらなさ”を見事に浮き彫りにすることで、日常の風景の中に生者と亡者が共生する映画ならではの空間を立ち上げてみせた。そんな魅力的な長編処女作を創り上げたホン・カウ監督に、まずは映画を見た感想を伝えることからインタヴューを始めた。

1. 複数のテーマを紡いでいくような感じで、Liltingさせながら物語を語っていきたいという思いがあった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):この映画の登場人物たちは、いずれも複数の国や言語、家庭、ジェンダーといったものの間で揺れ動いている、フローティング、漂っているような人達だなという印象を持ちました。そのような意図はありましたか?
ホン・カウ:フローティングっていう言葉を使われましたけど、仰る通り、ゆっくり揺れ動くというような意味を、『Lilting』という英語タイトルは持っています。ですから、自分の作品の中で、複数のテーマを紡いでいくような感じで、Liltingさせながら物語を語っていきたいという思いがありました。まさにそういう思いでこの作品を撮ったのだと言えます。

OIT:映画の冒頭に出てくる紫陽花は、室内で鉢に入っていますよね?日本では、結構普通に土に植わっていて、そこかしこで見ることが出来るものなのですが、それがこの映画では室内の鉢の中にある。大地から離れて植えられているという意味で象徴的だなと思ったのですが。
ホン・カウ:確かにあそこで自分が紫陽花という花を選んだことには理由があります。彼女の部屋に紫陽花が飾ってある、紫陽花という花は、英国では従来オールドファッションな花として知られています。それが最近、すごくファッショナブルな花として家の中に摘んで飾ったりするっていうのが、セレブたちの間でもトレンドになってるんです。過去の古いものが、今新しく流行っているという感覚、そして、ちょっと英国的な花を母親が好きというところも、あそこに飾った理由には隠されています。それともう一つは、紫陽花という花は土の中にある酸の度合いによって色が変わる、住んでいる土地の土によって色が変わっていくということですね。そうしたところが面白いと思っていたので、映画の中に取り入れたのです。

『追憶と、踊りながら』
原題:LILTING

5月23日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ホン・カウ
製作:ドミニク・ブキャナン
撮影:ウラ・ポンティコス
プロダクションデザイン:ミレン・マラニョン
衣装デザイン:カミーユ・ベンダ
編集:マーク・タウンズ
音楽:スチュアート・アール
出演:ベン・ウィショー、チェン・ペイペイ、アンドリュー・レオン、モーヴェン・クリスティ、ナオミ・クリスティ、ピーター・ボウルズ

(c) LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014

2014年/イギリス/86分/カラー/1:2.35/5.1ch
配給:ムヴィオラ

『追憶と、踊りながら』
オフィシャルサイト
http://www.moviola.jp/tsuioku/
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