OUTSIDE IN TOKYO
Johan Heldenbergh INTERVIEW

米アカデミー外国語映画賞ノミネート、ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞受賞など、世界の映画祭でも高い評価を受けた『オーバー・ザ・ブルースカイ』は、愛する男の名を体に刻み、別れるとその上に別のタトゥーを刻むことで別れた男の記憶を消して生きてきた、情熱の女エリーゼ(ヴェルル・バーテンス)と、”自由の国アメリカ”に憧れるブルーグラス・バンドのバンジョー弾きディディエ(ヨハン・ヘルデンベルグ)の愛と喪失の物語である。いささか物語をドラマティックに作り過ぎている感はあるものの、アメリカーナに憧れながらも、9.11以降露わになった一連のファナティックな宗教観に嫌悪を滲ませる主人公ディディエの思想的側面が、ブルーグラスというルーツミュージックへの愛と共存しているところが興味深く、何よりも、ブロークン・サークル・ブレイクダウン・バンドの面々によって演奏されるブルーグラス・ミュージックが実に素晴らしい。恐らく、スクリーンにこれほど素晴らしいブルーグラスのバンジョー鳴り響くのは、コーエン兄弟の『オー・ブラザー!』(00)以来のことではないだろうか。
ここに、EBMA(ヨーロッパブルーグラス音楽協会)ベルギー代表という肩書の持ち主であるティエリー・ショルツマンによる、本作の原作戯曲を手掛け、主役ディディエを演じたヨハン・ヘルデンベルグのインタヴュー(ベルギーの季刊誌「Bluegrass Europe」第86号掲載原稿の和訳)を掲載する。

1. 最初に好きになったのはパンクで、ニック・ケイヴを通じてルーツミュージックを発見した

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Q:映画は、何年か前にあなたが書いた舞台劇をベースにしていますね?
ヨハン・ヘルデンベルグ:わたしとミーカ・ドブルスが考えたのは歌う劇を書くということでした。ドラマスクールで歌うというアイディアにとても興奮してしまっていたのです。それと、宗教の分極化に危惧を抱いていて、そのことについても書きたかった。でもそれは、ブルーグラスをやることの格好の言い訳だったのかもしれません。たとえば、“Mother's not dead, she's waiting for Jesus to come”という歌詞など、完璧な対象ですよね。それは黒い鏡のようなものです。言ったことと正反対のことをするって、効果的でしょう?私たちはできるだけ悲しいストーリーを探したんです。音楽には二重の機能を持たせています。ドラマの間で観客に休みを与えることと、感情をアンプリファイ(増幅)することです。ブルーグラスの美学は、ビートに乗って、これらのエモーショナルな言葉を歌い、笑顔を見せない、そのシンプリシティにあります。そしてもちろん、楽器の妙技です。わたしはラルフ・スタンレーが弾き、歌う姿勢をとても尊敬しています。J.D.クロウ、ロン・ブロック……ワォーッ!彼らは凄いタイミングの持ち主です。バンドでは、まずリズムをステディにキープしようとしました。でも、バート(バン・ボーテル)がマンドリンでブレークを取ると、彼はほんのちょっとスピードアップさせ、それが音楽のブースターになるんです。

Q:ブルーグラスとバンジョーをどうやって学んだんですか?
ヨハン・ヘルデンベルグ:最初に好きになったのはパンクで、ニック・ケイヴを通じてルーツミュージックを発見しました。ブルース・スプリングスティーやボブ・ディラン、シンガーソングライターやニューウェイヴも聴きました。でも新しいビートが来てラジオを聴くのをやめました。その代わりの遊びとして、安いマンドリンを買ってどうやって弾くのか、調べ始めたんです。それで、期待していたビバルディに行き着く替わりに、ブルーグラスを発見したのです。それは、わたしの故郷に帰るような感覚でした。この音楽こそ、ずっとわたしが共に育ってきたものだと感じたんです。そしてバンジョーにはパンクの要素があります。それはわたしにオーセンティックな時を越えた感覚を与えてくれるのです。

『オーバー・ザ・ブルースカイ』
原題:The Broken Circle Breakdown

3月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

監督:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン
製作:ディルク・インペンス
原作戯曲:ヨハン・ヘルデンベルグ、ミーカ・ドブルス
脚本:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン、カール・ヨース
撮影:ルーベン・インペンス
編集:ニコ・ルーネン
音楽:ビョルン・エリクソン
出演:ヨハン・ヘルデンベルグ、ヴェルル・バーテンス、ヘールト・ヴァン・ランペルベルフ、ネル・カトリッセ、ニルス・デ・カステル、ロビー・クレイレン、ベルト・ホイゼントルイト、ヤン・ベイヴート、ブランカ・ヘイルマン

© 2012 Menuet/Topkapi Films

2012年/ベルギー、オランダ/111分/カラー/スコープサイズ
配給:エスパース・サロウ

『オーバー・ザ・ブルースカイ』
オフィシャルサイト
http://o-bluesky.com
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