OUTSIDE IN TOKYO
Julian Schnabel INTERVIEW

ジュリアン・シュナーベル『ミラル』インタヴュー

2. ユダヤ人が作ったパレスチナ側からの視点の映画である『ミラル』を、
 日本の人達がどんな風に観てくれるだろうかということに非常に興味がある

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OIT:イスラエル建国時から映画は始まっていますが、パレスチナの政治背景をしっかりと描きつつも、今監督がおっしゃったような人物の話が中心にあるわけですから、必ずしも政治的な映画であることを強調する必要がないのかもしれないのですが、アメリカでこういう映画を作った事で厳しい反応はなかったですか?
JS:まあ政治的ではないと言ってもパレスチナの問題を描いた時点で既に政治的なのであって、例えばアメリカの人達はアメリカの原住民がアメリカにいたっていう事を認めたくないのと同じくらいに、パレスチナの存在っていうのをなかなか認めたがらない。去る3月14日に国連でこの映画を上映した時に、パレスチナを応援する映画だという印象があったので、こんな映画はこれ以上上映してほしくないという人もいました。そのために、この映画を観るということ自体が政治的な行為であったと思います。色々な反応があって、ユダヤ人の人達の中でもこの映画を支持する人もいれば、非常に強く攻撃する人もいました。まあ、観もせずに攻撃する人も結構いましたよ。多くの人がこの映画をアーティスティックな感じだと思って観ようとする姿勢があったり、自分は開かれた精神の持ち主なんだという事を示したいという人達もたくさん観てくれたと思うのですが、やはり映画に対して差別的な反応もあって非常に厳しい批評も出ました。日本の観客はどう見てくれるのか、とても興味があるんです。ところで、カール・ライナー(ロブ・ライナーの父親、最近では『オーシャンズ11』シリーズにも出演)っていうユダヤ系のコメディアンがいて、メル・ブルックスと共演したり、『Enter Laughing』(67)の脚本を書いたりしている、もうすぐ90歳になろうとしている大物なんだけれども、彼が観てくれて今年観た中で最高の映画だったと、みんながこの映画を観るべきだと言ってくれたのは、嬉しかったですね。いろんな監督や俳優、例えば、ジョニー・デップやベルナルド・ベルトルッチ、ハビエル・バルデムなんかもこの映画を観て非常に共感をしてくれました。もちろん、否定的な反応も当然ある、とても繊細なテーマだから。この映画が非常に物議を醸し出すだろうというのは始めから分っていたし、だからこの映画を作ったと言ってもいいくらいだけど、日本の批評家の方達がこの映画、ユダヤ人が作ったパレスチナ側からの視点の映画っていうのをどういう風に受け止めるだろうか、日本の人達はどんな風に観てくれるだろうかっていうのは非常に興味があります。

OIT:今までパレスチナ系のエリア・スレイマンであったり、イスラエルのアモス・ギタイであったり、去年だとアリ・フォルマンの『戦場でワルツを』とか、そういう映画が今まで日本でも公開されたり、映画祭で上映されたりしていて、一般的にはそれほど観られているわけではありませんが、映画をよく観ている人はそういう映画が存在すること、ユダヤ人の側からパレスチナ侵略の話を描いたり、国境を超えていく“越境する映画”が存在する事を知っています。この映画は、場合によっては、いわゆるシネフィル的なコミュニティを超えていく、そういう可能性のある映画なのかもしれないと私は理解しています。これから公開されて日本のオーディエンスがどう観るか、とても楽しみです。
JS:私もですよ(笑)。二週間前にオバマ大統領がこのパレスチナ問題に関して1967年の国境設定以前の状態に戻って問題解決にあたるのがいいのではないかという事をホワイトハウスで言ったのですが、この映画が描いているのは正にその事であるので、この偶然というかタイミングは非常に興味深いと思っています。

OIT:この映画に出演していた、パレスチナで「自由劇場」を主宰していたジュリアーノ・メール・ハミスという俳優であり監督である人が4月に暗殺されてしまいましたよね。彼との交流はどのようなものでしたか?
JS:お母さんがユダヤ人でお父さんがパレスチナ人、100%ユダヤ人、100%パレスチナ人という人だったんですね。正に人々が最も必要としていた人物だったのですが、非常にリベラルな人で、リベラルすぎて“憎しみ”に殺されてしまった。彼とのことについては、Huffington Post紙にコメントを寄せているので読んでみてほしい。

OIT:わかりました。それでは映画自体について少しお話を聞かせてください。原作者でもあり、脚本を手掛けたルーラ・ジブリールと撮影監督のエリック・ゴーティエとの仕事はいかがでしたか?
JS:エリックは非常にフレキシブルで作業も仕事も早い人なので、例えばショーン・ペンの映画(『イントゥ・ザ・ワイルド』)とかも観ていて、戦争状態の現場に行って作業をするっていう事がやりやすいのではないかと思ったので、彼と組みました。ルーラに関しては、初めての映画という事で、とにかく映画作りにいろいろ参加してほしかった。パレスチナ人という立場からの視点で本物の映画が作りたかったし、観光客がただ単に撮ったような外部の目ではなくて、内部の人の目を入れた作品にしたかったのです。


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