OUTSIDE IN TOKYO
JULIE BERTUCELLI INTERVIEW

ジュリー・ベルトゥチェリ『パパの木』インタヴュー

4. キェシロフスキは、100件ものアパルトマンを見て回り、
 本当に細かい部分までメモをした

1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6



OIT:そのリアリティのところで、他のインタヴューで見たのですが、キェシロフスキの映画の現場での窓探しの話をされていて、そういった上で求めるディテールとかリアリティがやはりそういうところにも出てきているということでしょうか?
JB:クシシュトフ・キェシロフスキもものすごくディテールに拘りを持った人でした。『トリコロール』(93-94)の作品を撮る時にパリに行ったのですが、彼にとってパリは外国ですよね。いろんな物件を探して歩いている時に、彼がロケハンするということは、その映画のためにロケハンするということだけではなくて、その国を、知らない国を発見する一つのプロセスでもあるわけです。彼がたとえばアパートを探している時に、そこに行ってみて、中を見てみるという作業をするのですが、その時の彼の眼は、ただ単にロケハンをする映画監督ではなく、本当に民俗学者のように、この国の人たちはどういう生活のスタイルを持っているのか、本当に細かいところをものすごくよく見ています。見ているだけではなくて、彼らの生活スタイルを後々に想像出来るくらいの細かいメモを彼はとるんです。水槽はこんな風になって、キッチンはこんな風になって、本当に細かい部分までメモをして。あの時も100件くらいのアパートを見て回ったのですが、結果的にはスタジオでセットを組んで撮ったのです、だけどそこに組まれたアパルトマンというのは、本当にフランス人の生活空間がそのまま実現されているような空間でした。その時初めて自分は、ああ、このために彼はメモをとって、このために彼はロケハンしていたんだということが分かって、実際にアパルトマンを撮るためではなく、結局、自分の本当に作りたいものを作るために100件ものアパルトマンを訪ね歩いていたことを自分も分かったのです。だから色々な自分の知らない所に行って見て歩くことが、後々に自分の色んな想像の世界を作るにあたって、本当に細かいところまでリアルな部分を作り出せるんだというのがよく分かりました。

OIT:その細かいひとつひとつ(の部分)が何かの物語の要素になっていくということですね。
JB:そうですね。特に自分の作品の場合は台詞がそんなにたくさんないので。台詞で見せるよりも眼差しとか、登場人物達の関係性とか、あるいは彼らが佇む空間とか、そういった部分で物語を語る部分が多いのです。彼らの身体のアクションもそこにある物達との関係性でアクションが生じるという描き方をしているので尚更です。

OIT:それはこの映画でも?
JB:そうです。

OIT:家は元々あった家ですか?
JB:移築しました。オーストラリアではよく家を買った時に、自分の好きな場所に運送してもらうということが普通に行われているんです。今回の家も、買ってその場所に持っていってもらいました。今回の作品のための木を、まず探すのにすごく時間がかかってしまったんですね。ですからそれ以上あまり時間をかけることができなかったというのもあるし、後々この家を壊すという設定ですから、そういう意味でも家と木とセットでロケハンをしないで、まず木を探して、家は買って移送する方法を採りました。すごく大きな家だったので、半分に割って移送したのです。片方だけ。それで映画で見せる部分だけをリフォームして、壁もちょうどいい具合に古い感じでしたので、少し手を入れましたけど自分たちが思い描いていたような、そういう家でしたね。

OIT:キェシロフスキに言われたようなかたちでディテールを求めるが故に人を送り出して見つけたり、家の中のインテリアも含めて人を送り出したりしたのでしょうか?
JB:美術監督がいるので、まずその人が統括することになるのですが、アシスタントの人たちが何人かいて、さっきも言ったように、とにかく相応しい木を探すのに時間とお金を随分かけたんですね。だからアシスタントの人たちはそちらの方により力を注いだことになって、今回の家を探したのもアシスタントたちですが、いくつかの候補の中で“これ”という候補を挙げて、最終的に自分も一緒に見にいって決めて買ってくるという感じでした。この家の場合はたぶん30枚くらいの写真を見せられて、そこからいくつか選び、それで見にいって買ってきたという風に記憶しています。キェシロフスキもそういう風にしてましたが、全て監督さんが出向いてチェックするわけではなく、やっぱりディテールを含めてアシスタントの人たちが報告しているものの中から結局は選ぶんですね。家も結局は彼(美術監督)と一緒に行って選んで買いましたが、その家の中に色んな細かい備品がありますね。あれはやはり自分がアシスタントや、美術監督と一緒に実際にお店に行ったり、蚤の市に行ったりしながら、玩具とか本とかそういったものを買いそろえていき、備品として使いました。


1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6