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『家族ゲーム』(83)、『それから』(85)という日本映画史に残る2つの傑作を生み出し一躍時代の寵児となった森田芳光監督の『(ハル)』(96)以来となる13年振りのオリジナル脚本による新作『わたし出すわ』は、世知辛い世相に敢えて逆らって、“貯蓄好き”な私たち日本人に向けてメッセージされた“蕩尽のすすめ”と言えるのかもしれない。森田芳光は、現在の病的に節約傾向を強め、社会全体の血行を悪くしている日本人のお金の使い方に疑問を感じ、フィクションを通して「お金なんか使ってしまえ!」と本当は大声で怒鳴りたかったのかもしれない。しかし、一般的に言われる日本人の“貯蓄好き”とは、金融資産比率における銀行預金などの占める割合の高さを示すだけのもので、実際の収入に対する“貯蓄率”は、ここ10年程下降の一途を辿り近年の貯蓄率はわずか3%台となっている。これは、中国の30%近い貯蓄率と比して1/10という低水準にあり、先進国の中でも10数%台を維持しているフランス、ドイツ、イタリア等と比べても極めて低い水準といえる。そんな現実も影響しているのか、『わたし出すわ』は「お金なんか使ってしまえ!」と声高に宣言するのではなく、こういうお金の使い方もあるかもしれませんよ、という控えめな表現で観客の前に差し出された。この独特のシャイネスに森田芳光の知性が宿っている。
遠慮がちに差し出された『わたし出すわ』の謎めいた主人公摩耶を、抑制された演技で演じるのが日本のクールビューティー・ナンバー1の小雪である。黒沢清の『回路』(01)で既にスクリーンで唯一無二の美しさを放っていた小雪は、翌年の『Laundry』(森淳一)では窪塚洋介と印象深い恋人同士の役柄を好演し、続く『ラスト・サムライ』(エドワード・ズイック)ではトム・クルーズと競演し、海外にも女優小雪の存在を知らしめた。2005年の『ALWAYS三丁目の夕日』(山崎貴)では、小説家の卵(吉岡秀隆)が惚れ込むヒロイン役を、眩しいまでの透明な存在感を放ちながら昭和初期の下町の人情劇に相応しい気っぷの良さまで身に付け、小説家の卵のみならず、多くの観客を虜にした。これからますます女優としての活躍が期待される、類い稀なる美貌と、森田芳光とも同種のシャイネス=知性が同居する女優、小雪のオフィシャル・インタヴューをお届けする。(上原輝樹)
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最初に映画のオファーがあった時、『わたし出すわ』というタイトルを聞いてどのように思いましたか。 突飛なタイトルなので、「何を出すのか」ということと、「どういう内容なのか」という二つの興味を持ちました。このタイトルは印象に残ると思いますし、ありそうで無いので、とても新鮮でした。 本作のオファーがあった時、森田芳光監督の印象はどのようなものでしたか。
今までの作品を観させていただいて、とても思慮深く情熱がある方だと思いました。初めてお会いした時も映画を拝見した時と同様に、思慮深さと情熱が同居するバランス感覚の持ち主という印象を持ちました。出演を決めたのは監督の情熱も大きかったと思います。 脚本を読まれて、主人公摩耶はどのような人物だと思いましたか。
脚本に説明が少なかったので、どういう位置づけをして作っていったらいいのか、まだまだ相談して作っていかなきゃいけないなと思いました。作品に入る前は正直とても不安でした。 実際に撮影に入り、摩耶という人物を演じ始めて、どういう人物として捉えられましたか。
台本に書かれていない摩耶の背景的な部分は、作り手の私達の中の根底にあり、そういう部分を匂わせたいという思いがありました。世俗的でない部分や、物欲もなくて、ちょっと現代の社会に生きる人間像と混じわりにくいキャラクターをどういう風にリアリティを感じさせるように作っていくか、非常に悩みました。同時に、答えをあまり決めないことがこのキャラクター作りにおいてとても大事だなということを感じました。
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『わたし出すわ』 10月31日(土)、恵比寿ガーデンシネマ、新宿バルト9、銀座テアトルシネマほか全国ロードショー 監督・脚本:森田芳光 製作総指揮:豊島雅郎 プロデューサー:竹内伸治、三沢和子 エグゼクティブスーパーバイザー:黒澤満 ラインプロデューサー:橋本靖 音楽:大島ミチル 撮影:沖村志宏 照明:渡辺三雄 美術:山崎秀満 装飾:湯澤幸夫 衣裳:宮本まさ江 編集:川島章正 出演:小雪、黒谷友香、井坂俊哉、山中崇、小澤征悦、小池栄子、仲村トオル、小山田サユリ、ピエール瀧、長島敏行、袴田吉彦、北川景子、加藤治子、藤田弓子他 2009年/日本/カラー/1時間50分/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル 配給:アスミック・エース (C) 2009 アスミック・エース エンタテインメント 『わたし出すわ』 オフィシャルサイト http://watashi-dasuwa.com/ |
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