OUTSIDE IN TOKYO
Ounie Lecomte INTERVIEW

ローラン・ティラール『プチ・ニコラ』オフィシャル・インタヴュー

2. 観客それぞれが自分の子供時代に還り、そこに純真さ、無邪気さ、感激を再び見てほしい

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──「プチ・ニコラ」は50年代に誕生しました。その普遍性、時を経ても色あせない側面をどのように活かそうとしましたか?
「プチ・ニコラ」の年代を特定するのは実は不可能なんです。物語は50年代に描かれたにも関わらず、子供たちは今でも読んでいますから。現在、「プチ・ニコラ」を読むと、「この時代は良かったな。」と思います。しかし、実際によく読むと、失業、犯罪、離婚は全く存在せず、社会は安定し、全てが丸く収まっています。理想的な社会です。本当は50年代にも、そして現在においてもそんな理想社会は実在しないのですから、「プチ・ニコラ」がおとぎ話であるという原則に基づき、物語の舞台を過去の存在しない世界に設定しなくてはならなかったのです。現代の子供たちにとってこの物語は、中世でも宇宙でも同様に展開しうるものでしょう。そういったわけで私たちは物語の設定を、映画の一つの参考になったジャック・タチの「ぼくの伯父さん」、そして「プチ・ニコラ」が生まれた1958年前後にすることにしたのです。けれども1961年製の車といったような事は重要ではありません。大切なのは、過去の香りであり、みんなの想像から生まれる現実感と栄光の30年期の、ある種のフランスのイメージでした。

──子供たちのキャスティングはいかがでしたか?
最も重要なのは、子役の選択でした。大規模なキャスティングを行い、映画に出たことのない子供たちにも沢山会いました。主要な子役たちを選ぶのは難しくはなかったのですが、彼らがカメラの前で演技できるかは心配でした。彼らが撮影現場でありのままでいられるということを前提に、顔つきや個性を基準に選んでいたからです。私は子供たちと撮影をしたことはなく、私にとって全ては「未知の分野」でした。でもそんな心配は吹き飛ぶほどに彼らは素晴らしかったです。始めは当然のことながら、子供たちは少しばかり圧倒されていましたが、すぐにのびのびと振舞うようになっていました。

──主演のマキシム・ゴダールについて教えて下さい。
ニコラにそっくりな容姿は非常に魅力的でした。また、彼の俳優になりたいという強い意志も! 彼は9歳にして社会の中での自分が望む立ち位置について非常に明確なヴィジョンを持っており、人生で何をしたいかを分かっています。さらにマキシムの素晴らしいところは、他の子供たちよりもさらに、演じる事に対しての意欲と喜びが強かったことです。彼は一度たりとも、少しの疲れや中断したいという素振りさえも見せませんでした。

──この映画のビジュアルはとても素晴らしいのですが、視覚的世界をどのように創られたのでしょうか?
映画のエスプリの大部分はそこに現れると分かっていましたので、学校、教室、校庭、家の中といったいくつかの装飾についてははっきりしていました。ジャン=ジャック・サンペの画の線を丸写しでは、私たちの魂がなくなってしまいますので、ディテールを損なうことなくミニマリストになる必要がありました。この点においても、私はジャック・タチ監督に非常にインスピレーションを受けました。彼は、ディテールの感覚に長けていますが、装飾に必要なディテールしか存在させません。また、私はウェス・アンダーソン監督の演出も好きです。彼のフレーミングは非常に固定されているにも関わらず、そこで必要なことが全て語られます。私にとっては、映像と装飾が組み合わさった中で物語を生かすことが大変重要でした。最終的には「プチ・ニコラ」の装飾は私の両親が見せてくれた彼らの子供時代の写真、とにかく、私がまだ生まれていなかった時代のことを強く連想させるものになりました。

──監督自身が特に心に残るお気に入りの場面はありますか?
脚本を書いている時から気に入っていた場面があります。ニコラが寂しかった時、父親が面白い顔をするので、ニコラはそれ以上、しかめ面をしていられなかったというセリフの無い場面です。上手く説明できませんが、私はこの場面に深く感動します。私自身の子供時代、私の父親との関係、そして間違いなく私の息子との関係と確実に共鳴しているのです。

──この映画を観る人に感じとってほしいことは何でしょうか?
子供時代が強く蘇ってくればいいなと思います。どの時代に子供時代を過ごしたとしても、観客それぞれが自分の子供時代に還り、そこに純真さ、無邪気さ、感激を再び見てほしいです。もしかしたら、この映画が、違う世代の人同士がお互いの子供時代について話すきっかけになるかもしれませんね。お祖父さんが孫と一緒にこの映画を見に行って、孫と同じことを感じることができるのですから。


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