OUTSIDE IN TOKYO
Laurent Tirard INTERVIEW

ローラン・ティラール『プチ・ニコラ』オフィシャル・インタヴュー

フランスから、ジャック・タチ、ルイ・マル『地下鉄のザジ』の流れを汲む、ウェス・アンダーソン的洗練をも感じさせる素晴らしいコメディが届いた。原作は、ルネ・ゴシニ作、ジャン・ジャック=サンペが描くフランスの国民的絵本「プチ・ニコラ」、日本で喩えるなら、とってもお洒落な「サザエさん」といったところか?

舞台は、ノスタルジックな記憶の中のパリ。本作で描かれるのはナマイキながらも、実に子供らしい子供たち、そして、社会の中でごく当たり前に出世を目指し、より良い暮らしを望む親たち。つまり、ここ日本でも十数年前までは“理想”とされていた、分かり易い資本主義の世の中が描かれ、そこには、貧困もテロもニヒリズムもない、“理想郷”としての「プチ・ニコラ・ワールド」が構築されている。

『奇人たちの晩餐会』的なフランチ・コメディ特有のブラック・ユーモアを効かせ、単なる“子供映画”、“ファミリー映画”の枠を超えながらも、完全なる“子供映画”としての完成した世界観が愛おしくもある『プチ・ニコラ』は、冒頭のグラフィカル&クラフト感溢れるオープニング・タイトルからして秀逸この上ない。50〜60年代を再現したファッション、車、学校や家のインテリアからスクール小物まで、愛らしい小道具の数々が画面一杯に詰まった本作は、愉快な仲間たちと共に、ミッシェル・ルグラン的多幸感溢れるクラウス・バデルトによるスコアも軽快に、束の間の90分間を走り抜ける。そして、最後の最後でホロリとさせるエンディング、悲しいことや辛いことばかり描かなくても、人生の“真実”を描く事は出来るものだな、と思わせてくれる快心の一作である。

7年間、映画ジャーナリストとして活動、ウディ・アレン、デヴィッド・リンチ、マーティン・スコセッシ、ジャン=リュック・ゴダール、コーエン兄弟らにインタヴューし、映画の著書を出版、その後、テレビ番組の脚本家を経て、映画界に入ったというローラン・ティラール監督のオフィシャル・インタヴューをお届けする。
(上原輝樹)

1. 原作者ルネ・ゴシニは、社会における自分の居場所を探しており、笑いを通してそれを手に入れようとした

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──どのようにしてこの映画化のアイディアが生まれたのですか?
プロデューサーから連絡をもらって決まったのですが、私は、「プチ・ニコラ」と共に育ち、青年時代になってからも読んでいました。「プチ・ニコラ」は私とつながっていると思っていたので、私はどのような映画になるかをすぐに思い描く事ができました。

──幼いころから慣れ親しんでいる「プチ・ニコラ」とあなたのつながりはどのようなものでしたか?
「プチ・ニコラ」は、とても普遍的で、誰もがそこに自分の姿を重ね合わせることができます。私のことも子供時代へと還らせてくれるのです。たとえ、年代が違っても。笑わせてくれるだけでなく、ある種のノスタルジーも沸く。子供のレベルと大人のレベルを持ち合わせているところが好きでした。

──「プチ・ニコラ」という国民的キャラクターと題材に、プレッシャーを感じませんでしたか? 準備から製作までについて教えて下さい。
それまでは自分が望むように映画を作っていたので、自分自身とプロデューサーが納得していれば済みましたが、この映画に関しては、最初の依頼の電話を受けた時、題材に対して恐れさえ抱きました。でも怖がっていては、始められません! ただただ、人々が作品を気に入ってくれることを願うのみでした。映画化の鍵は、原作者ルネ・ゴシニの作品の中と同時に彼の人生にあると分かっていました。彼は、社会における自分の居場所を探しており、笑いを通してそれを手に入れようとした人です。映画の冒頭ではニコラは将来何になりたいかと聞かれても分かりません。そして最後に、それが分かるのです。これを軸にして、私たちは原作に目を通し、物語、場面、台詞を一つ一つ細かく分析していきました。そこから選択をして、気に入っている場面でもどんどん削除しなくてはなりませんでした。 私たちは、最初の脚本を書き上げるまでに、何ヶ月もかけて原作を分析し、物語がスムーズに展開し一貫性を持つようにしました。

『プチ・ニコラ』
原題:Le Petit Nicolas

10月9日より恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー

監督:ローラン・ティラール
脚本:グレゴワール・ヴィニェロン
脚本顧問:アン・ゴシニ
原作:ルネ・ゴシニー、ジャン=ジャック・サンペ
撮影:ドニ・ルーデン
編集:ヴァレリー・ドセーヌ
写真撮影:ティエリ・ヴァレトゥ
音響:リカルド・カストロ・ポール・エマンス
ミキシング:トマ・ゴデール
美術:フランソワーズ・デュペルトゥイス
衣装:ピエール=ジャン・ラロック
助監督:アラン・コルノー
キャスティング:アガタ・アッセンフォルデール、ジェラール・ムレヴリエール
音楽:クラウス・バデルト
制作担当:シルヴェストル・グアリノ
エグゼクティブプロデューサー:クリスティーヌ・ド・ジュケル
製作:オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエー
出演:ヴァレリー・ルメルシェ、カド・メラッド、サンドリーヌ・キベルラン、フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン、ミシェル・デュショソイ、ダニエル・プレヴォー、ミシェル・ガラブリュ、アネモネ、フランソワ・ダミアン、ルイーズ・ブルゴワン、マキシム・ゴダール、ヴァンサン・クロード、シャルル・ヴァイヤン、ヴィクトール・カルル、ベンジャマン・アヴェルティ、ジェルマン・プチ・ダミコ、ダミアン・フェルデル、ヴィルジル・ティラール

2009年/フランス/91分/カラー/ドルビーデジタル/ビスタ
配給:コムストック・グループ、フェイス・トゥ・フェイス

© 2009 Fidelite Films - IMAV Editions - Wild Bunch - M6 Films - Mandarin Films - Scope Pictures - Fidelite Studios

『プチ・ニコラ』
オフィシャルサイト
http://www.petitnicolas.jp/
index_pn.html
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