OUTSIDE IN TOKYO
Ounie Lecomte INTERVIEW

ウニー・ルコント『めぐりあう日』インタビュー

2. キャロリーヌ・シャンプティエと作った”ムード・ブック”が大いに役に立った

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OIT:その参考イメージを選ぶ作業は、監督が行ったのですか?それとも、撮影監督のキャロリーヌ・シャンプティエさんと共同で行ったのでしょうか?
ウニー・ルコント:一作目の時はそのような作業はやっていなくて、その時は現場で韓国人の撮影監督(キム・ヒョンソク)と相談して撮影を進めていったのですが、今回は、以前他の監督とやった時の経験から、キャロリーヌがアイディアとして齎してくれたもので、とても面白い方法だなと思ってそれに乗ったわけです。私たちはそれを”ムード・ブック”と呼んでいました。こんな雰囲気のシーンで、ということを言葉で説明するのは中々難しいのですが、そうした参考イメージがあればお互いのイメージを近づけることが出来ます。それで今回は、お互いにそうしたイメージ画像などを持ち寄って、この要素は要らない、この要素はキープしようという感じで進めていって”ムード・ブック”を作っていきました、次回もまた同じやり方でやるかどうかはわかりませんが、今回に限って言えば、とても良い方法だったと思っています。もちろん、それらのイメージをそのままコピーするということではなくて、インスピレーションとか方向性を与えてくれるもの、雰囲気を伝えていくものとして、そうしたセレクションを行ったということです。登場人物の心象風景というものを、とても重要視していましたので、今回の作品ではとても効果があったと思っています。

例えば、あるシーンでは撮影対象がぼやけているシーンがありますが、そこは、コンセプトとして画をぼやかして撮りましょうということで撮ったわけではないんです。それも”ムード・ブック”の中に、マイケル・アケルマンの写真とか、イングマール・ベルイマンの『ペルソナ』(66)のワンシーンがあって、そうした使い方ってとても面白いなと思っていましたので、コンセプトとして焦点を外すという考えが事前にあったわけではなくて、そうした方が豊かで、様々なことを感じさせるビジュアルが生まれるだろうと思ったわけです。

OIT:前作の時は、事前に全てを計画して撮影に臨むというよりは、現場で撮影監督と相談をしながら撮影を進めていったというお話を伺いましたが、今回も、もちろん事前に今仰っていた”ムード・ブック”などの準備や出来上がった脚本はあるものの、現場で色々なことを決めながら撮影を進めていったのでしょうか?
ウニー・ルコント:前作と今回では作り方はかなり違っています。というのも、今回は、撮影に使える時間がとても短かったので、前作よりも時間を掛けずに、素早く撮影を済ましていく必要がありました。一作目の時は、まだ時間に余裕があったものですから、撮影をしながら、色々なリサーチをするということも出来たのですが、今回は、毎日撮影に行く前に、今日は何を撮るということを明確に把握した上で撮影に臨まなければなりませんでした。そうした限られた時間の中でも、俳優たちの演出、演技指導により多くの時間を割きたいと思っていましたので、撮影の技術的な部分を現場で試行錯誤する余裕はありませんでした。それ故に、キャロリーヌと作った”ムード・ブック”が大いに役に立ったと言えますね。

例えば、理学療法士のエリザ(セリーヌ・サレット)が、人を処置してあげるシーンなどは、もの凄く事前に具体的に練って、撮影に臨んだシーンの例として挙げることが出来ます。あのシーンには、実際に処置を行ったセリーヌ・サレットの手と彼女の処置しか写っていませんので、彼女には事前に本物の理学療法士のところで研修してもらって、リハーサルも重ねて入念に行ったのです。カメラの動きと患者役の動きも、コリオグラフィーのように緻密に、正確に振り付けをしてから撮影に臨んでいます。とてもリアリティのあるシーンに見えると思いますけれども、撮影の段階で色々なことを試しながら作ったのではなく、事前の準備が重要だったのです。ですから、今回の作品では、シーン毎に、そのように事前の準備を入念に行ってから、撮影に臨んでいるというシーンが多いんです。


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