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PIERRES SCHOLLER INTERVIEW
ピエール・ショレール オン ベルサイユの子

パリで路上生活を送るシングルマザーと幼い息子が、観光客の訪れるベルサイユ宮殿の裏の森でホームレスの男と出逢う。翌朝、母親の姿はなく、息子だけが寝ていた。仕方なく、子供の面倒を見始める男。そして子供が彼との生活に慣れた頃、男は暮らし慣れた森を出る決意を固める…。
そんな映画を、路上生活をする母ニーナの視点、森でホームレス生活を送るダミアンの視点、そして全てを受け入れるしかない子供エンゾの視点を、観客の客観的な視点の前で違和感なく絡めてみせたのは、この『ベルサイユの子』が初長編監督作となるピエール・ショレール。エリック・ゾンカ、ジャン=ピエール・リモザンらの作品の脚本家として活躍してきた彼が組んだのは、昨年亡くなった個性派俳優のギョーム・ドゥパルデュー。名優ジェラール・ドゥパルデューを父に持ちながら、その確執を噂され、バイク事故による片足切断、病気など、痛みを知るギョームがこの役と出逢ったのはもはや運命としか言いようがない。彼はこの作品の後、ルーマニア映画の撮影中に急性肺炎で亡くなり、この作品は象徴的な遺作のひとつとなる。ホームレス、シングルマザー/ファザー、社会への再挑戦というまさに現代的なテーマを扱い、誰もが涙を浮かべるような素晴らしい目をした子役と出逢いながら、監督はセンチメンタルに陥ることなく、ドキュメンタリーのリアルさと感動的なドラマの間の絶妙なラインを辿る。そんなどちらに偏っても作品を台無しにしかねない危ない綱渡りを見事に成功させたショレール監督に話を聞いてみた。

1. ギョームは、ことある毎にマックスに話かけ、子供の想像力を引き出した

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この映画はそもそもどのように構成しようと思い立ったのでしょう。
この映画は前の作品、つまりテレビ映画が発端になっています。それは工場で働く労働者がテーマの『Zéro défaut』というもので、全体のトーンは鉄のように冷たく、『ベルサイユの子』とは極端に違います。そんな自分の作った映画があまりに冷たかったため、次は感動を中心にして、多少の危険を冒す覚悟で撮ろうと思ったのがそもそもの始まりです。
それをベースに、そこからメロドラマチックな作品を作りたいという気持ちが湧いてきたのです。そしてある日、現実に森を歩いていると、ダミアンの原型となるこの原作の主人公の実物版というか、そんな人物がリュックを背負っているのを見かけたのです。そして彼がホームレスだったこともあり、そのキャラクターで具体的に話が進んでいったのです。

てっきり逆かと思いました。出発点はよりダークでセンチメンタルなところからかと。
もちろんその要素もありますが、そもそもの発端ということだったので(笑)。実際こうしたテーマで、これまで他にも貧困を題材とした映画は過去に撮られてきました。しかも、すでに他の人が撮ったもので、非常に感動を呼び、成功を収めた映画もありました。そんな貧困を題材にしたこれまでの映画と『ベルサイユの子』との大きな違いは、ここに登場する人たちが、貧困の中にいながらも“生きて”いることです。生命力に溢れ、力が漲っており、生きることへの深い執着があることです。私はそこが違うと思います。

子供(エンゾ)の目線の使い方について教えてもらえますか?
子供の演技指導というか、子供を起用するということ自体、どんな監督にとっても非常にむずかしいことです。たとえば、子供ゆえに様々な限界があるわけです。それは子供に対する演技指導というよりも、ひとつひとつの壁というか、子供の前に生じる壁を排除していく手助けをするのが一番正しい言い方だと思います。たとえば、エンゾ、いや、(本名の)マックスはとても火を怖がっていました。彼は都会っ子で、ふだん森に暮らしている子供ではないので、当然のことながら火を怖がります。それはあくまでひとつの例ですが。でもそういう中で、「怖くない」ということ、「火傷する危険はない」ということ、「寒い時はこうやって身体を暖める」といったことを理解させる必要があるのです。それがひとつの挑戦でした。そんなプロセスを少しずつ経るうちに、彼自身、そんな自分の存在を乗り越えていくことが楽しくなったのだと思います。エンゾが走るシーンがありますね。棘に引っかかりながら助けを求めるシーンですが、その時も、「もう棘は全部取り払ったから痛くないし、怖くないよ」と言いましたが、彼にとっては、それも大きな挑戦でした。でもいろんな過程があったからこそ、ああいう形で走れたわけです。
彼とギョーム(ドゥパルデュー)との関係も非常にうまく行っていました。ギョームは現場でも、ことある毎にマックスに話かけ、子供の想像力を引き出したり、そういう気持ちにさせるのが上手でした。

実際に突き放す役作りもあったのですか?
いいえ、確かに役柄的には突き放すシーンというか、そういう感情になるシーンはありますが、現場では全くそういうことはなく、逆にそういうシーンがあったり、声を荒げなくてはいけなかったりする時は、前もって「大きな声で叫ぶからね。でも僕が叫ぶのはどうしても必要だからなんだよ」と終始、丁寧に説明していました。
マックスが演じるエンゾという役はとてもむずかしい役です。なのでマックスに限られたことだけでなく、選ばれた子供がどれだけ、子役でありながら、非常に過酷で厳しい役柄をどこまで演じきれるかというのが最も懸念される要素でした。でもマックスはそれにとても上手に応え、まるでボクサーのように、パンチが入れば入るほど、大変であればあるほど、子供なりに、本来自分の持っている力で打ち返していました。

『ベルサイユの子』
原題:Versailles

5月2日(土)シネスイッチ銀座にて公開
ほか全国順次公開

監督・脚本:ピエール・ショレール
製作:ジェラルディーヌ・ミシェロ
撮影:ジュリアン・イルシュ
編集:マティルド・ミュヤール
音響:イヴ=マリー・オムネ、フランソワ・ムリュ、ステファーヌ・ティエボー
音楽:フィリップ・ショレール
装飾:ブリジット・ブラッサール
衣装デザイン:マリー・スザリ
エグゼクティブ・プロデューサー:フィリップ・マルタン、ジェラルディーヌ・ミシュロ
出演:ギョーム・ドパルデュー、マックス・ベセット・ド・マルグレーヴ、ジュディット・シュムラ、オーレ・アッティカ、オーレ・アッティカ、パトリック・デカン、マッテオ・ジョヴァネッティ、ブリジット・シィ、フィリップ・デュパーニュ

2008年/フランス/113分/ビスタ/ドルビー SRD
© Les Films Pelléas 2008
配給:ザジフィルムズ

『ベルサイユの子』
オフィシャルサイト
http://www.zaziefilms.com/versailles/

『ベルサイユの子』レビュー
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