タル・ベーラ『ニーチェの馬』記者会見:全文掲載
2011年11月22日 ハンガリー大使館にて テキスト・写真:上原輝樹 |
2012.2.9 update |
『ニーチェの馬』が、第61回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞したハンガリーの巨匠タル・ベーラ監督が、第12回東京フィルメックスでの特別招待上映のために5度目の来日を果たした。タル・ベーラ監督は、日本を訪れる前の米ロサンジェルスでの体調不良も伝えられ、一時来日が危ぶまれる事態となったが、直前になってドクターからOKが出て、無事来日が実現した。監督は11月22日の朝、成田に到着し、同日にハンガリー大使館で記者会見を行った。ここに、その会見の採録を全文掲載する。その後、3日間の滞在を終えた監督は、ポンピドゥーセンターで行われるタル・ベーラ監督レトロスペクティブに参加する為に、パリへと飛び立った。
1. 観客は尊厳を持っている、それぞれが人格を持っている |
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ハンガリー大使館職員の挨拶:ハリウッドにも多くのハンガリー人の名前が残されています。例えばパラマウントを創立した創立者のアドルフ・ズッカー、20世紀フォックス創立者のウィリアム・フォックスも、ハンガリー出身です。そして現在、映画の世界でハンガリーを代表するのが、本日おこしのタル・ベーラ監督です。話題になった7時間半にもおよぶ大作『サタンタンゴ』は20年以上たった今も熱狂的な人気があります。日本では2000年に『ヴェルクマイスター・ハーモニー』、2007年には『倫敦から来た男』(日本公開は2009年)が一般上映されました。監督が自ら最後の作品と仰っている『ニーチェの馬』は、ベルリン映画祭で銀熊賞と国際評論家連盟賞を受賞しました。更に12月3日に発表されるヨーロッパ映画賞にハンガリー代表として選出されています。また2012年のアカデミー賞ベスト外国語映画部門にハンガリーから推薦されています。『ニーチェの馬』は最後の映画とご自分でも仰っていますが、そうであっても今回来日されたことはとても喜ばしいことです。 タル・ベーラ:まず、お越し頂きましてありがとうございますと申し上げたい。数時間前に到着して今はここにいるという状態です。皆さまにお会い出来て光栄です。
司会:ありがとうございます。皆さん大変気になっていらっしゃると思うんですけれども、今作が最後の作品だと公言していらっしゃいますが、それは事実なのでしょうか?もう一つ、なぜ映画制作をこれで終りにしようと思われたのでしょうか?
タル・ベーラ:本音を言うと、ちょっと最近はこの質問は飽きてしまっているのですが、お答えいたします。そうですね、34年間映画を作り続けてきて、自分にとっても非常に長い道のりでした。そしてその間、私は人間というものを理解しようとしてきました、人生というものにより近づこうとしてきました、そして自分が見る世界を人々に伝えようとしてきました。今回の作品に入る前に、これが最後の作品であろうと何か自分の中で感じていました。この作品をもって循環が閉じる、一つのサイクルが終わるのだと、自分の仕事はこれで終わった、準備は整った、そういう気持ちでした。ですから自分にとっては、何か新しく作品を作ることによって自分を繰り返したり残したりする理由が全く見つからないんです。今まで作ってきた映画は全て自分から来ています。とても深淵なものがあります。それをまた模倣するようなことをしてしまったら、それはきっと非常にチープで醜い作品になるであろうと思うからです。言いたいことは全て語りつくしました。言いたかったことは全てお伝えしています。
司会:ありがとうございます。では限られた時間ですがなるべくたくさんの方に質問をして頂きたいと思いますのでご協力をお願いいたします。ご質問ございましたら挙手をお願いいたします。
Q:今仰って頂いた理由の他に、例えば今の映画業界や、住んでいらっしゃるお国の中で表現の自由に関わることでこれで終りにするというようなこともあるのでしょうか?
タル・ベーラ:先ほど申し上げた理由というのは個人的な理由だったわけですけれども、確かに自分自身、世界のその状況、映画の状況というものについて強く意見を持っています。先週たまたまロスにいたのですが、映画に関わっている方々が映画はショービジネスの一部であると皆さん強く信じられていたことです。自分はそうは思いません、映画というのは第七芸術であるとやはり思っています。これは二つの違った見方ではあるのですが、観客の方は非常に知的で賢い、そうであるとすればやはり映画の作り手としてはベストを尽くして作品を作らなければいけないと思っているんです。例えば、観客を子供を見るように上から目線で見て、彼らはきっと娯楽しか求めていないんだろうと、そういう観点から映画を作るということ、ファーストフードのような形でやることはもちろん可能です。しかし、私は人々は、つまり観客は尊厳を持っている、それぞれが人格を持っているという風に思っているので、彼らに何か触れるような作品を作らなければいけない、何か彼らに近づくような作品を作らなければいけない、分かち合わなければいけないという思いで映画を作ってきました。そして、今はもう作り終えたという気持ちがある自分と作品について、これから守っていきたいという気持ちが非常に強い、自分の作品を守っていきたいと、こう思っているわけです。
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『ニーチェの馬』 英題:The Turin Horse 2月11日(土)より、シアターイメージフォーラムほか全国順次ロードショー 監督・脚本:タル・ベーラ 脚本:クラスナホルカイ・ラースロー 撮影:フレッド・ケレメン 音楽:ヴィーグ・ミハーイ 出演:ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ 2011年/ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ/154分/モノクロ/35mm/1:1.66/ドルビーSRD 配給:ビターズ・エンド 『ニーチェの馬』 オフィシャルサイト http://bitters.co.jp/uma/ タル・ベーラ『ニーチェの馬』 Q&A タル・ベーラ『ニーチェの馬』 インタヴュー |
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