OUTSIDE IN TOKYO
THOMAS VINTERBERG INTERVIEW

トマス・ヴィンターベア『偽りなき者』オフィシャル・インタヴュー

3.「ウイルスの思考」という考えに興味があった

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Q:この作品で取り上げたテーマの一つに”恐れ”が挙げられます。人は簡単に嘘や噂を信じてしまう。そして誰でもルーカスの立場になってしまう可能性がある。”恐れ”が日々の生活を脅かすかもしれない。このようなテーマを取り上げた理由は何だったのでしょうか?
TV:愛情に溢れた静かで幸せそうな生活は、ほんのわずかな”恐れ”によってすべてが闇と化してしまう、という点に興味を覚えたんだ。つまり「ウイルスの思考」という考えに興味があった。今の時代は、インターネットやあらゆるメディアが存在していて、その世界の中で自分独自のアイデンティティを作り出すことことさえも可能になっている。でも、たった一つの「間違った言葉」でそれがすべて崩れてしまうことさえある。とても恐ろしいことだと思う。それと、みんな何か大事なものを失ってしまったようにも思える。僕は『セレブレーション』(98)という児童虐待を主題とした映画を何年か前に製作して、ビッグヒットになったことがあるんだけど、その後、そのテーマに関して世界中で、良い意味で、大きな反響があった。この世界のどこかに虐待されている子供達がいるというのが事実だからだ。虐待された子供は素直で無垢な心というのを、その過程で失ってしまう。僕が子供の頃は、先生は泣いている子供を抱きしめてあげることができた。でも今ではそんなことはできない。それに幼稚園では男の先生をほとんど見かけなくなってしまった。子供を守り過ぎてしまって、被害妄想的なところが出てきた。それが少し悲しい気がするんだ。この映画で描き出したかったことは、裸の人が出てくる冒頭の部分から、孤独で悲しいエンディングへと進んでいく中で、そういった事件が日常の中で起きていくということだった。質問の答えになったかな?

Q:ええ、もちろんです。
TV:つまりそうした過剰な事態は人間の中の”恐れ”が引き起こしていくということなんだ。デンマークでは子供を過度に守り過ぎている。例えば、ヒモの付いた手袋をつけることは、今は出来ないんだよ。首を絞めてしまう”恐れ”があるからという理由でね。まあ、それは子供の安全を考えてのことだと思うけど、そうやっても自分を毎日の生活から守ることは出来ない。だからどれだけ自分を守るのか、というのもバランスの問題だよね。バランスを適切な均衡に保つことが、なかなか難しい。


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