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THE BAADER MEINHOF COMPLEX INTERVIEW

『バーダー・マインホフ 理想の果てに』オフィシャル・インタヴュー

70年代にヨーロッパ全土を震撼させたドイツ赤軍<バーダー・マインホフ>の血塗られた10年間に及ぶ闘争の歴史を描いた実録映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』が公開される。じりじりと敗退していくゲバラの闘いを描いたソダーバーグの『チェ』2部作、時代の検証を試みた若松孝二の『実録・連合赤軍』といった映画に見られた精神性よりも、スピルバーグの『ミュンヘン』で使われた火薬の量<暴力性>に映画的な親近性が感じられるのは、ドイツ人監督ウリ・エデルの20年に渡るアメリカ生活の影響だろうか。監督のインタヴューに加えて、脚本と製作を兼ねたベルント・アイヒンガー、原作者シュテファン・アウストの公式インタヴューを併せて掲載する。

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ウリ・エデル(共同脚本/監督)

この作品に惹きつけられた理由とこれまでの自身の映画作品との比較について
ベルントが最初にシュテファン・アウストの小説「THE BAADER MEINHOF COMPLEX」を一緒に映画化しないかと聞いてきた時、もちろんすぐに承諾した。あれは私が20代のころ、かなり身近に見聞きした有名な事件だった。私の世代が経験した出来事だったんだ。だから自分にも何か貢献できるのではないかと思った。私はアメリカにいて、20年間ドイツ映画は撮っていなかった。だがすぐに、ドイツに戻り、彼と一緒にこの映画の準備をしようと決心したんだ。

これまでの3本の映画は、基本的に形は違うが、同じテーマを扱っている。そのテーマとは「暴力」だ。『ブルックリン最終出口』では社会的暴力、『バーダー・マインホフ 理想の果てに』では政治的暴力、そして『クリスチーネ・F』では自分で自分自身に加える暴力だった。

本作への準備について
あることについて、文字で書かれたものを読んだり調べたりすることと、演出することとは、全く違う。正確に演出するには、起きたことを正確に知らなければならない。どんな動きも、どんな細かいことでも知っていなければならない。だからどうしても、かつてのテロリストや参加した人たちにインタビューする必要があった。だがそのリサーチで、いろんな人にひとつの行為についてのいきさつを質問すると、全く異なる答えが返ってきたんだ。つまり、3人の目撃者に同じ質問をすると、3種類の異なる答えが返ってくる。それは、ずいぶん前の事件だからかもしれない。30年は長い。40年前のこともたくさんあった。だから(彼らは)もうあまり覚えていない。そこにはもちろん心理的な作用や罪の意識もあるだろう。あとになってあることについて弁解がましくなり、罪の意識が生まれるということもあると思う。それで、途中から私は、本当にさまざまな証言の中から、私にとってもっとも妥当と思われる証言やいきさつを自分で編集することにしたんだ。

撮影シーンの信憑性とシュタムハイム刑務所での作業について
たとえばシュレイアーの誘拐では、警察の報告書によると犯行現場で107発の弾丸の薬莢が見つかっている。ホラー話のように聞こえるかもしれないが、短時間で、本当に残忍な行為がおこなわれ、あの4人はすごい数の弾丸を使って殺した。ある遺体からは25発の銃創が見つかっている。つまりそこで起きた事は、まさに究極の虐殺だったんだ。それが事実だ。一方、シュレイアーのガードマンはテロリストに殺される前に、12発程度しか撃っていない。

撮影は、本物のシュタムハイム刑務所でおこなわれた。その7階は、当時テロリストたちが入れられた、いわゆるハイセキュリティエリアだった。そこに男も女も入れられたが、現在そういう形のものは存在しない。だがバーダーがいた房やエンスリンのいた房はまだ残っている。今はひとつの房に4人が収容されているが、当時、バーダーは1人で使うことができた。エンスリンも同じだった。そこで私たちはその7階をスタジオとして再現した。当時の記述にしたがって正確に再現し、そこでシーンの撮影をおこなった。その他の全て、たとえば法廷での審理とかドイツ赤軍に対する訴訟などは当時と同じ多目的ホールで撮影した。モーリッツはバーダーが座った実物のイスに座った。他の俳優も同様だ。30年前にどのように行われたかは正確にわかっていた。インストラクターがいたからね。今は退職しているが当時裁判に参加した警備員や警官たちだ。彼らが当時の進行状況を詳細に教えてくれた。

ベルント・アイヒンガーとの仕事について
撮影の間は、一緒に仕事をした人ならわかるが、とても仲良くやっていたよ。人が想像するような、激しく容赦ないものではなく、とても穏やかな撮影だった。もちろん我々は35年もの知り合いだし、彼がどういう人間か、私がどういう人間かお互いに知っている。基本的な議論は35年前に済んでいるから、今更する必要もないしね。それが共同作業をよりクリエイティブなものにしてくれた。結果として、エネルギーが作品を創り出す方向へと流れた。争いごとも、情動的な立場上の争いもなかった。

『バーダー・マインホフ 理想の果てに』
原題:DER BAADER MEINHOF KOMPLEX

7月25日(土)、シネマライズ他 全国順次ロードショー

監督/脚本:ウリ・エデル
製作/脚本:ベルント・アイヒンガー
製作総指揮:マルティン・モスコヴィッツ
原作:シュテファン・アウスト
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:ベルント・レペル
衣装:ビルギット・ミザル
編集:アレクサンダー・バーナー
音楽:ペーター・ヒンデルトゥール、フローリアン・テスロフ
出演:マルティナ・ゲデック、モーリッツ・ブライブトロイ、ヨハンナ・ヴォカレク、ナディヤ・ウール、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、スタイプ・エルツェッグ、ニルス・ブルーノ・シュミット、ヴィツェンツ・キーファー、ジモン・リヒト、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハンナー・ヘルツシュプルング、ゼバスティアン・ブロンベルク、トム・シリング、ダニエル・ロマッキ、ハイノ・フェルヒ、ブルーノ・ガンツ

2008年/ドイツ・フランス・チェコ合作/カラー/ヴィスタ/SRD/2時間30分
配給:ムービーアイ・エンタテイメント

写真:© 2008 CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH NOUVELLES EDITIONS DE FILMS S.A. G.T. FILM PRODUCTION S.R.O

『バーダー・マインホフ 理想の果てに』
オフィシャルサイト
http://www.baader-meinhof.jp/

『バーダー・マインホフ 理想の果てに』レビュー

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