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Luca Guadagnino INTERVIEW

ヴィタリー・マンスキー『太陽の下で -真実の北朝鮮-』インタヴュー

3. この映画が北朝鮮で上映されたとしても、彼等にはこの映画が一体何の映画なのか、
 分らないのではないかと思います

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OIT:今のロシアで、ドキュメンタリー映画を監督の構想の通りに撮るということは、それほど難しいことではないのですか?
ヴィタリー・マンスキー:ご存知の通り、私はロシア最大のドキュメンタリー映画祭の議長を務めていますが、もっとも良いドキュメンタリー作品は、体制が矛盾に満ちている時、そこで撮られた作品に一番良いものが生まれているのです。10年間その映画祭は続いていますけれども、どの作品も一度たりとも、ロシアのテレビチャンネルで放映されたことがない。世界中では、ロシア以外の国では上映されているんですよ、しかし、ロシアでは放映されない。

OIT:インターネットの動画配信ではどうなのでしょう?
ヴィタリー・マンスキー:ものにもよりますがインターネットでなら見ることはできます。でもインターネットとは何でしょうか?残念ながら、今はもう、無料配信ですよね。それでは映画の制作費も出ない。お金が入ってこないのですから。映画の作者はどうやって生きて行けばいいのか?映画を作るためのお金とはいいません、家賃を払い、子供がいればその養育費が必要です。たまには衣服も買わなければなりません。食べて行かなくてはならない。そういう状態なわけです。

OIT:Netflixのような有料の動画配信サービスについてはどうでしょうか?
ヴィタリー・マンスキー:あなたはロシアの先生の給料が幾らか、ご存知ですか?年金は幾らかご存知ですか?100ドルなんですよ。食べていくのがやっとなのですから、そういう有料の配信サービスがあったとしても、やはりそこまで行き着かないんですね。今のロシアはそういう状態です。

OIT:人々が、映画を劇場で見ることが減っているという現象は、世界的な傾向だと思いますが、ロシアでも減っているのですね。
ヴィタリー・マンスキー:そうなんです。もうどの位の状態かというのは暗記しています。ロシアには、社会学の研究所や単科大学がありますが、芸術という名目で、実際はプロパガンダの映画に、相当の金額がロシア政府から拠出されています。100万ドル位は出しています。逆に、私たちの映画祭をやりますと、国の裁判にかけられるのです。お金を出してくれるどころではなく、その裁判に出席するのだけでも相当な時間がかかって、本当に大変なことになります。

OIT:最後にひとつ、もしご存知でしたら教えて頂きたいのですが、この映画に出演した少女や、向こう側の演出家たちは、この後、どうなったのでしょうか?
ヴィタリー・マンスキー:いいご質問ですね。彼等の指導者はこの映画を見ているでしょう。しかし、彼等自身は見ているとは思えません。でももし、この映画が北朝鮮で上映されたとして、彼等が見たとしても、この映画が一体何の映画なのか、分らないのではないかと思います。そういうことなんです。

OIT:なるほど。ところで、北朝鮮には国営の映画館があるのですよね?
ヴィタリー・マンスキー:ありますね。面白い話があります。1回目の撮影で滞在していた時に、映画館に連れて行ってください、と頼んだんです。ただ見るだけで、撮影をするわけではないから、と言ったのですが、断られてしまった。その後、2回目に行った時に、通りを車で走っていました。そこは普通は外国人を案内しない場所だったのですが、映画館の前で偶然、車が故障して止まってしまったのです。それは午後1時位のことでした。注意深く車に座っていたのですが、暑くなってきたので外の空気を吸いたいと言うと、どうぞと言われました。そこから50メートルくらいのところに映画館があったのです。そこで私はバッーとダッシュをしたんです(笑)、彼等はびっくりしてしまい、私がとても早く動いたので捕まえることができませんでした。そうすると向こうから音が聴こえてきました。大きな、700席くらいのホールでした。暗いところに入りましたが、次第に、目は慣れていきました、するとそこには、700席に700人の人間が座っている、699人でもなく、701人でもなく、700人が座っている。スクリーンでは映画が上映されている。カラーの16mmフィルムの映画でした。とても古いフィルムで、フィルムには雨が降っているように、傷がついていました。そこで私は捕まって、連れ去られました。それから、とても怒られましたけれども、彼等は言いました、あの映画はとても人気がある映画なんだ、と。25年前の北朝鮮の映画でした。想像してみてください。昼の1時に700人の人間が、25年前の映画を一斉に見ているのです、信じられない状態です。


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