OUTSIDE IN TOKYO
Vitaly Mansky INTERVIEW

『太陽の下で -真実の北朝鮮-』は、北朝鮮当局が見せたいと思っている映像と、本当の北朝鮮がせめぎ合い、”劇場国家”北朝鮮の姿を浮かび上がらせる秀逸なドキュメンタリー映画である。モスクワ国際ドキュメンタリー映画祭の会長でもあるロシアのドキュメンタリスト、ヴィタリー・マンスキー監督は、北朝鮮側の”監視員”や”演出家”の目を盗んで、カメラを廻し続けることで、当局が見せようとした映像以上のものをカメラに収めることに成功した。しかし、これは監督本来の狙いではなく、当初想定したよりも、監視や検閲があまりにも厳しかったことによる苦肉の策であったことが、本インタヴューからも窺える。

金日成の生誕記念「太陽節」で披露する舞踏の練習に明け暮れる、エリート少年団への入団が祝福される8歳の少女ジンミとその家族、そして市井の人々の演出された日常の中に垣間見える、数少ない”素”が出る瞬間(反米教育授業中に眠気と抗う少女の姿)には一瞬ほっとさせられるが、そこに入ってはいけないと注意する指導員の存在や、撮影を仕切る”演出家”といった”劇場国家”北朝鮮の管理体制が白日の下に晒されるたびに、寒く暗い北の空気がスクリーンを超えて見る者に染み渡る。地下鉄の車両の中からカメラを見つめる男性の強い視線は、クリス・マルケル『サン・ソレイユ』(82)における地下鉄で居眠りをする日本人を捉えたショットに対する、時空を超えた切り返しのようにも見え、かの国と程近い距離に住む私たちの心をざわつかせる。独裁政治が行き渡る国家に住む市井の人々への想いから母国ロシアの窮状、北朝鮮で体験した希有な体験まで率直に語ってくれたヴィタリー・マンスキー監督のインタヴューを掲載する。

1. ドキュメンタリーを撮るつもりが、結局は、フィクションになってしまった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):この映画は、最初に構想したものと、全然違う映画が出来上がったのだと思いますが、最初はどのような映画になると考えていましたか?
ヴィタリー・マンスキー:最初は全く違う計画を立てていました。ご覧頂いたものとは大きな差があります。初めに北朝鮮と沢山の合意書を交わしたのですが、実際にここまで不自由であるということは予測できなかった、だから最初の構想を実現できなかったのです。しかも、撮影した一部分は廃棄されてしまった。最初の構想の段階では、充分に撮影するために3回、北朝鮮を訪れる予定でしたが、2回までは行けたのですが、その後、拒絶されたのです。最初のプランでは、巨大なリアリズムで撮っていくことを考えていた、つまり、撮り続けていくことで、また元に戻る、撮り続けていく中で、本当のリアリズムを示していこうというアイディアだったのです。例えば、ナチスドイツの時代に、(レニ・)リーフェンシュタールが映画を撮りました。これら映画(『信念の勝利』(33)、『意思の勝利』(35)、『オリンピア』(38))は、ナチスに非常に満足を与えて、ヒトラーも篤く受け入れたわけです。こうした映画は、この映画の素材そのものによって、逆に私たちは、ナチスが犯した罪というものを理解出来たわけですね。だから彼女の真似をして、そうした映画を作りたかったのです。

OIT:結果的に、最初に構想したものとは違う映画になったとはいえ、北朝鮮の“劇場国家”としての姿をカメラに収めることが出来たという意味では、満足という表現はちょっと相応しくないと思いますが、ある程度好いフィルムが撮れたと思っていますか?
ヴィタリー・マンスキー:いえ、最初の構想とは違うフィルムになってしまったから、、、芸術家には満足というものはないんです。やはり、最初のプランの通りに撮りたかったですよ。

OIT:最初のアイディアでは、もうちょっと人々の生の姿や本当の感情を撮れると思っていたのですか?
ヴィタリー・マンスキー:最初のプランで撮ろうとした時に、2つの問題が生じたのです。つまり、これはドキュメンタリー映画の手法に関する問題です。それが結局は、監視であるとか、修正であるとか、そうした“手”を加えられて、結局、フィクションになってしまった。もうひとつは、人々そのものが、そうした体制下にあって、その人間そのものでいられない、本物でいられないというとおかしいですけれども、本物の人間なのですから、そういう状態だったわけです。


『太陽の下で -真実の北朝鮮-』
原題:V paprscích slunce

1月21日(土)、シネマート新宿ほか全国ロードショー

監督・脚本:ヴィタリー・マンスキー
撮影:アレクサンドラ・イヴァノヴァ
編集:アオドレイ・ペパルヌィ
音楽:カルリス・アウザンス
プロデューサー:ナタリア・マンスカヤ
出演:リ・ジンミ

© VERTOV SIA,VERTOV REAL CINEMA OOO,HYPERMARKET FILM s.r.o.ČESKÁ TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAINMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER RUNDFUNK 2015

2015年/チェコ、ロシア、ドイツ、ラトビア、北朝鮮/110分/カラー
配給:ハーク

『太陽の下で -真実の北朝鮮-』
オフィシャルサイト
http://taiyouno-shitade.com
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