OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ワン・ビン(王兵)『収容病棟』インタヴュー

3. 正常な関係をお互いに打ち立てて、そこで相手も分かってくれている上で撮影をする

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OIT:登場人物というか、キャメラに捉えられた人物たちが皆それぞれに豊かな物語を持っている人達ばかりだったんですが、これは撮影された中から相当絞り込んで、見出していったのでしょうか?
ワン・ビン:素材自体は相当多いです、300時間分ぐらい撮っていますね。ただ、その中で撮った人物の数自体はそんなに多くはなくて、だいたい十数人を撮影対象として撮っていきました。

OIT:撮影対象は撮りながら決めたのか、あるいは事前に取材をして決めたのでしょうか?
ワン・ビン:事前に取材をして、この人を撮ろうという風に決めて撮ったわけではないです。実は最初は、殆ど一日中彼らと一緒にいました。ちょっとキャメラを回す時もあるけれども、朝から晩までそこにいる患者さん達とおしゃべりをしたり、遊んだり、ずっとそこにいたんです。そういう中で観察していく、感覚で。この人はちょっと面白そうだっていう人に出会うとカメラを回すという感じで、自然に撮っていきました。最初から人物を決めるということはしなかったですね。

OIT:撮影期間は、四ヵ月くらいと聞いていますが、ワン・ビンさんは、その間、殆どそこに住み着いていたような感じですか?
ワン・ビン:病院の中に泊まり込むっていうことはちょっと出来ないので、外にいたんですけれども、ただ早朝から深夜までそこに行って撮っていたわけです。だいたい夜12時くらいまでは病院にいて撮影を進めました。お昼は病院のすぐ外の食堂で食べたりしましたが、外に出たのはそれぐらいでしょうか。だいたいずーっといましたね。

OIT:幽霊が歩き回っているように、ずっと歩き回っている人達が常に画面に入っていますけれども、隔絶された環境の中での撮影で、このまま撮影を続けるのはちょっと厳しい、大変だと思うような瞬間はなかったですか?
ワン・ビン:撮影を嫌がられる時はありました。ある所に定点があってそこにずっと立っているのが好きな人がいて、その人は靴をはくのが大嫌いなわけです。真冬も靴をはかないので裸足のまんまでいるので、霜焼けで足がかなり大きく腫れていたんですね、でもその人はそこから動かない、そこに毎日ひたすら立ち続けるわけなんです。この人を理解したくて撮ろうとしたんですけれども、結局この人に嫌がられました、そのシーンは撮れなかった。

OIT:撮っていて、やっぱり理解しようとして撮るということがあるわけですかね、基本的に。
ワン・ビン:そうですね、やはりカメラという道具を持っている、撮影する時はカメラを用いて相手と交流する、その方式しかないわけで、それは拒絶されたら止めざるを得ないし、無理に撮ろうとはしない。理解はしたいとは思うけれども、そこを押してまで撮ろうという気はないのです。やはりこういうドキュメンタリーの撮影にとっては、信頼関係が一番重要ですので、それはとても大事にしています。なるべく撮る対象の生活を覗き見するような、盗撮するようなことはしたくない。そういうことではなくて、正常な関係をお互いに打ち立てて、そこで相手も分かってくれている上で撮影をするということ、そこが結局はいい関係に繋がっていって、信頼というものが成り立つわけですよね。だからその関係が撮影の時にあるかないかによって、編集して作品となって映画館で観客に観てもらう時に、そういう関係が打ち立てられていれば観る人に不愉快な感じを齎さない、そこがとても重要です。


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