OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ワン・ビン(王兵)『収容病棟』インタヴュー

4. ある人にとってはここの病院に居るということが良いことである、
 ある人にとっては非常に辛いことであるという、両方の側面があります

1  |  2  |  3  |  4



OIT:精神的な病気とされている人だったり、家庭で暴力を振るったり、一括りに出来ない人達がこの病院には入れられているということですけれども、元々悪くないかもしれない人も入っているわけですから改善という言い方は難しいのですが、監督からご覧になって、この病院は機能しているところもあるが、していないところもあるという感じでしょうか?
ワン・ビン:この病院に入院してる患者さん達は、非常に家庭環境や背景が複雑なわけなんですね。例えば、司法的な措置から逃げる為に、本来ならば監獄に入れられるような人達が、この病院に精神病患者として送り込まれる、それは自ら望んで、あるいは家族の者が送り込むというような状況もある。そしてもう一つは本当に精神の病いに侵されている人、あるいは、どこも悪いところはなく、何の罪も犯していない、本当に正常な人なのに、ここの病院に入院しているっていう人もいる。そういう正常な人で何の病気もない人っていうのはどういう状況かというと、例えば、ある権力者の意に添わないことをした人がこの病院に送り込まれるという状況もあるわけです。非常に社会的に複雑な状況がそこにあるわけです。とても曖昧で、相当グレーゾーンのラインの人達がそこに居るということは確かです。ある人にとってはここの病院に居るということが良いことである、ある人にとっては非常に辛いことであるという、両方の側面があります。病院の中で精神病になった人の種類は幾つかありますけれども、女性についてひとつ言えるのは、一人っ子政策に違反して、政府の決めた数を超過して子供を産んでしまって、その為に精神の病いに侵されたという人もいます。また、男の人では、出稼ぎでその土地に行って、そこの土地にどうしても馴染めない、仕事にも馴染めないで精神を侵されていったという人もかなり多いのです。あとは政治的な要因があります、アルコール中毒で送り込まれた人もいるわけです。確かに治療の必要のない人も一部いるわけです。



OIT:治療で治る人もいるわけですか?
ワン・ビン:治療して治ったかに見えて外に出て行っても、また罪を犯すようなことをして、完全には治療出来ない人達もかなりいるのではないかと思いました。また、どうも治療の効果が全然出ていないのではないかと思うような状況もありました。ずっと彼らはそこに閉じ込められているわけですけれども、ちょうど私達の撮影というのは2013年、去年の4月に終わったわけなんですが、実は5月の1日にある精神病院に関する、患者に関する法律が施行された。それは精神病院に入院させられている患者は家族等が連れ帰ることも出来る、他の施設に移すことも出来るという法律が出来たわけです。でも引き取られた後どうなるかっていうと、これは分からないわけですね。非常に様々な社会的な要因があるでしょうから、非常に複雑なわけです。私はこういうドキュメンタリーを撮る者として、その辺りの精神病患者に対する政策とか法の整備や治療の実際について、きちんと完全に理解しているとは言えないです。非常に難しい問題だと思います。ただ私はその一部の状況を映画にして、この病院の中での理解にしか過ぎないのかもしれません。

OIT:政治的にグレーゾーンの人達を、映画で撮影するわけにはいかないのですよね?
ワン・ビン:この病院で撮影を許可されて撮りにいったからには誰を撮ってもいいと言われていました。でも、色々な人を撮りますけど、その人達の具体的な背景、どういうことをしてここに来たのかっていうことは深く突っ込んでは聞かなかったわけです、その人達には聞かなかった。だから分からないです。


1  |  2  |  3  |  4