ある日、突然、バレー部のスター的生徒”桐島”が部活をやめるという噂が校内を駆け巡る。”桐島”の親友菊池(東出昌大)や恋人である梨紗(山本美月)ですら、その事を知らされておらず、一体”桐島”に何が起きたのか?校内は不穏な雰囲気に包まれる。映画は、その不穏な雰囲気が広がっていく校内の、様々なクラスタ(バレー部、野球部、吹奏楽部、映画部、帰宅部、女子グループ)に分かれる金曜日の放課後という時間帯にフォーカスし、そこで生起する高校生たちの日常を捉えようとする中で、校内に厳然と存在する、生徒たちのヒエラルキーを緻密に炙りだして行く。
しかし、幾つか提示されているクラスタや、クラスでのポジションに自分の高校時代の記憶を重ね、その境遇にリアルに感情移入できるところが面白い、という部分ばかりがこの映画の本質的な魅力であるとは思われない。自分が、その組織(この映画の場合は高校のクラス)の中でどの程度の”序列”にあるのか、などとという”評価”は犬にでも喰わせてしまえば良い。映画は、そのような一般的な”評価”で自分たちを固めようとする”クラス”の空気に対して、それとは異なる価値観で構成された”クラスタ”が稼働する”放課後”を対峙させ、朝と昼の価値観で構成された日常に対して反撃を試みる。
本作が素晴らしいのは、そうした生々しい作り事(フィクション)を、実に戦略的かつ、技巧的な手法で構造化した上で、全てをひっくり返しているところにある。このフィクションへの強い意志は、近年の多くの邦画に欠けているものだと思う。ミヒャエル・ハネケの映画すら想起させる”フィクションへの強い意志”を漲らせ、”映画”ならではの妄想を爆発させる終盤が、否が応でも観るものの感情を激しく揺さぶる。CMディレクターとして高い評価を得た後、2007年に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビュー、カンヌ国際映画祭の批評家週間でも評価され、邦画の世界で独特の存在感を放つ、吉田八大監督のインタヴューをお届けする。
1. 宏樹(東出昌大)と前田(神木隆之介)が二人で対峙する場面が |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):最初に拝見した感想を申し上げますと、凄く緻密に緊張感を組上げていって、後に一気にひっくり返すわけですが、その積み上げてくプロセスでヒエラルキーをいやらしいほど明確に視覚化していきますね。観ている途中はネガティブな感情が積み重なって、これは結構えぐいなと思ってたんです。マイナスな感情ではあるのですが、“感情”であることに変わりはなく、それが蓄積されているので、その分ひっくり返した時の面白さがありました。全体的に、一種の透明感を獲得されていて、ミヒャエル・ハネケのようないやらしさがあって凄く面白いと思ったんですね。 吉田大八(以降YD):ハネケ…光栄です。好きな作品多いですし。確かに、これまで4本の映画(『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』『桐島、部活やめるってよ』)を作ってきて、どれも最後に思い切りひっくり返す瞬間があるなぁと思ってたんです。それが結局何も解決しない、行き場のないどんでん返しというか、ハネケの映画にもある部分ですよね。 OIT:そうですね、アンチクライマックス。ただカタルシスはあるんですよね。
YD:そういうのがやっぱり好きなのかもしれないです。 OIT:一作目の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)も、本作にしてもそうなんですけど、原作がある作品を脚色されてますが、いずれも吉田監督らしさがありますね。
YD:今回『桐島、部活やめるってよ』の場合、脚色の方向をあらかじめイメージして引き受けた訳ではないんです。ただ、原作の終盤に、それまで一回も会話を交わしてなかった、校内の“上”グループにいる宏樹(東出昌大)と“下”グループの前田(神木隆之介)が二人で対峙する場面があって、そこだけは最初に読んでる時から、ほぼ映画と同じ形に頭の中で読み替えてましたね。あえていえばそこが「ひっくり返し」のポイント、映画の感情的なクライマックスになるだろうと。そのゴールに向かって、映画独自のルートをさかのぼって探しているうちに、屋上に全員が集まる場面が出来たことを覚えています。
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『桐島、部活やめるってよ』 8月11日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー 監督:吉田大八 原作:朝井リョウ 脚本:喜安浩平、吉田大八 主題歌:高橋優 出演:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、清水くるみ、山本美月、松岡茉優、落合モトキ、浅香航大、前野朋哉、高橋周平、鈴木伸之、榎本功、藤井武美、岩井秀人、奥村知史、太賀、大後寿々花 (C)2012「桐島」映画部 (C)朝井リョウ/集英社 2012年/日本/113分/カラー 配給:ショウゲート 『桐島、部活やめるってよ』 オフィシャルサイト http://www.kirishima-movie.com/ |
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