OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

メルヴィル・プポー トークショー

2. 10歳でデビューした時に殺人者という役割を与えられて、大きくなったら役者になるか、
 本物の人殺しになるか、ちょっと見てみようみたいなところがあったんじゃないかな(笑)

1  |  2  |  3  |  4



SA:まさにラウル・ルイス監督の演技についてのセオリーが、この映画の中でも成立していて、どの登場人物も枠で捉えられない、この人が果たしてどういう人だっていうことが、最後まで一言で語れないような登場人物ばかりでそれが凄い魅力ですね。
MP:それから精神分析の派閥の話も重要ですよね、この映画の中で。本当ですよ、これは。フロイト派とユング派というのは、派閥を作って対立していたわけですね。ほとんど訳の分からないようなセオリーでセクトみたいな感じで自分達は正しいという風に主張し合っていたわけです。SPPとか、SFKとかそういう小さな派閥っていうのが対立し合っていて、髭はやしたりとか、眼鏡をしてるから、一見真面目そうに見えるんですけれども、真面目な風を装っていますけど、彼らが主張しているセオリーはあまりにも不可解なものなので、ちょっと端から見てると道化師のような滑稽さが彼らから滲み出ますよね。だからこの映画のコミカルな部分っていうのはそこからもきてます。そういう風に自分達の派閥のイニシャルを叫んで僕らの方が正しいんだって言い合ってるそのコミカルさも この映画の中に描かれてますよね。この映画の中で僕が好きなのは、カトリーヌ・ドヌーヴが演じている精神分析の派閥の方は、かなりおかしな、ちょっと気の触れたようなセオリーを持っていて、殺人者の遺伝子というものが存在するという説を主張している学派がカトリーヌ・ドヌーブの方の学派なんですけど、この少年は大きくなったら絶対殺人をすると確信しつつ、少年を引き取って育てるわけです。カトリーヌ・ドヌーヴが演じる精神分析医は信じ込んでるわけです。信じ込んでいるので、その信じ込んでいる中で上手く彼が殺人を犯すように操作している、操っているわけです、ということも考えられるわけです。彼女も自分が操っているっていうことが、彼女の無意識下で少年が殺人を犯すようにしむけている、そのしむけているのは無意識なんです。この映画を撮ってからもうちょっと後で分かったことなんですけれども、僕はちょうど10歳の頃にラウル・ルイス監督の映画に出始めたんですね、あの時のスタッフの人達ってちょっとセクトっぽかったです(笑)。セクトから与えられた僕の役っていうのが人殺しの殺人者の役だったわけです。なのでちょっと目配せみたいなところがありますね、そういう風に10歳でデビューした時にセクトから殺人者という役割を与えられて、この子が大きくなったら役者になるか、あるいは本物の人殺しになるか、なんかちょっと見てみようみたいなところがあったんじゃないかな、幸いなことに僕は役者の方を選びましたけれども。
SA:(メルヴィルの著書「Quel est Mon noM?(ぼくの名前はなんだろう?)」を指差しながら)これが最初に殺人鬼を演じたメルヴィル・プポーさん、9歳の頃ですね。『海賊の町』(83)というラウル・ルイス監督とメルヴィル・プポーさんの最初の作品ですけれども、これは6月30日に日仏学院の方で初スクリーン上映になりますけれども、まさに今メルヴィルさんがおっしゃったように、『犯罪の系譜』というのはそれまでのラウル・ルイス監督とメルヴィル・プポーさんの共同作業のある結実というか、 今までのメルヴィル・プポーさんの演じてきた役へのオマージュでもあるということですよね。
MP:その通りですね、そう思います。『犯罪の系譜』に出ている役者さんで、この後ずっとラウル・ルイス監督とコラボレーションしている俳優さんも多いんですけれども、こういう風にラウル・ルイス監督っていうのは一度出演した俳優さんを再起用する方でしたね。
SA:先ほどの俳優さん、あるいは俳優の演技と役柄の持っている色々な側面という話しに戻ると、一つのシーンごとに一緒にいる俳優のコンビネーションとか、カトリーヌ・ドヌーヴは何役も演じてたりするわけですけれども、そのシーンによって、その組み合わせによって俳優というか役割が変化していくっていうのが、もの凄くこの映画の醍醐味であると思うんですね。特にカトリーヌ・ドヌーヴとミシェル・ピコリ、それからカトリーヌ・ドヌーヴとメルヴィルさんの関係っていうのがカレイドスコープのように変わっていく、素晴らしいその共演を見ているだけでもう本当に楽しい映画だと思うんですけれども。カトリーヌ・ド ヌーヴという女優について今度はお話しを頂けますか?この作品が最初の共演であると思いますが、彼女と共演することで得たもの、あるいは難しかったことなどエピソードがあればお話ください。
MP:映画以外でもカトリーヌ・ドヌーヴは僕にとっては義理の母のような存在です。高校時代ですけれども、彼女の娘さんのキアラと付き合っていたことがあるので、ちょっと義理のお母さんっていう感じでした。 そしてこの『犯罪の系譜』の前は『三つの人生とたったひとつの死』(95)でしたけれど、そこではキアラのお父さんのマストロヤンニと共演してます。 その映画ではキアラも共演しています。まさにマストロヤンニもこの三つの人生の中でいくつもの人生を生きていますね。もちろんキアラのお父さん役が一つと、映画の中ではキアラは自分のお父さんを殺すんですね。ラウル・ルイス監督は、劇団の一座のような、ファミリーのような、そういうものを自分の前に作り出す監督ではありましたね。プライベートでカトリーヌ・ドヌーヴを知っていたとはいえ、彼女と演技をするというのは素晴らしい体験でした、本当に彼女は大女優ですし、凄くマジカルな力を、オーラを発散している女優さんです。スーパーヒーローみたいな方です。カトリーヌ・ドヌーヴが不機嫌な時は、ここに戦争の時の”盾”みたいなのが出来るので、その時は近づかない方がいい(笑)。不機嫌な時はそんなにしょっちゅうではなかったですけど。本当に圧倒されます、彼女には。あまり社交的な人ではないんですよ、はにかみ屋というか。17歳の時から彼女は大スターでしたから、自分を守る為の術というものをデビューした時から身につけてるんですね、だからそういう風に防護壁のようなものをつけるのは彼女なりの自己防衛の方法だったと思うんです。ラウル・ ルイス監督は彼女を圧倒したんですよ。ラウル・ルイス監督のフィルモグラフィーの特に後半ですけれども、彼女が出演していますね。ラウル・ルイス監督が亡くなってから作った映画があって、それは奥様(Valeria Sarmiento)が作られた映画で、その時には彼は亡くなってたんですけれども、キャスティングもして、全部ロケハンもして、音楽も作って、それで去年の8月に亡くなってしまいましたが、奥様がメガホンとって最終的に実現させたのです。ですからそれまでラウル・ルイス監督と共演した経験のある俳優達がみんな一同に集まって、オールキャストみたいな形で、端役ですけれども全てみんな顔を出している、そういう風な作品になっています。12月でしたね、ドヌーヴ、ミシェル・ピコリもいればイザベル・ユペールも集まりました、撮影現場に。非常に美しいシーンでとても感動的なものです、友情出演として皆やってきたんです、ラウル・ルイス監督への愛の為にその現場に皆が集結したわけです。


1  |  2  |  3  |  4