『ルドandクルシ』

鍛冶紀子
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まだ10代のあどけなさが残る面ざしで、若者らしい生命力を爆発させた『天国の口、終りの楽園。』(01)から10年。再び彼らがタッグを組んだ。今度は幼なじみとしてではなく、兄弟として。キレやすい性格の兄をディエゴ・ルナが、うぬぼれやの弟をガエル・ガルシア・ベルナルが、サッカー場を舞台にユーモラスに演じている。そして監督は、『天国の口、終りの楽園。』で脚本を手がけたカルロス・キュアロン。さらにプロデューサーを務めたのは、『天国の口、終りの楽園。』や『トゥモロー・ワールド』(06)でメガホンを握ったアルフォンソ・キュアロン。この顔ぶれを見れば、本作が良質なエンターテイメント性を持つことは想像に難くない。

サッカーの試合を観ていると、人生何が起こるかわからない、と思わせられることしばしばだ。その「わからなさ」が世界各国のサポーターをああまでも熱狂させるのだろう。本作の兄弟もサッカーの「わからなさ」に翻弄されていく。メキシコの片田舎にあるバナナ農園で働く兄弟。休みの日は草サッカーに明け暮れている。兄のベトはキーパー。その荒っぽいプレーから、ルド(タフな乱暴者)と呼ばれている。一方の弟タトはストライカー。彼はいずれクルシ(ダサい自惚れ屋)と呼ばれる運命にある。

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二人の人生はある日偶然訪れたチャンスで一変する。サッカー・スカウトに見初められたのだ。しかし、車に乗れるのはどちらか一人。二人はPK戦で決着をつけることにする。「右へ蹴れ!」というベトに、「わかった」と頷くタト。しかし、タトの右はベトの左だった......。

やがてタトは新人王に輝き、追って上京したベトもスター選手となっていく。セレブリティの仲間入りをした二人を待ち受けていたのはオンナとカネ。上昇一方だった運気は徐々に下降線をたどっていく。やがて二人の運命は再びPK戦に委ねられることに。果たしてベトの「右に蹴れ!」はタトに通じるのか。

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大まかな筋を追うと、起承転結のはっきりとしたオーソドックスなストーリーである。デコボコ兄弟によるバディ映画というのも言わばおなじみのパターン。しかし本作が平凡に終わっていないのは、メキシコシティの、ひいては世界のあらゆる都市が持つ希望と失望という二律背反をしっかり捉えているからではないか。滑稽なまでに母を愛する兄弟の姿からもまた、二律背反の感情を感じさせる。その言わば"矛盾"がこの作品に混沌というスパイスを加えている。悲劇的要素を含みながら、カラっと陽気な『ルドandクルシ』。「メキシコ社会を忠実に描くことを試みた」というカルロスの狙いが成功しているとすれば、メキシコはなんと魅力的な国であろうか。

それにしてもメキシコが再び映画産業の地として活気を取り戻しつつあるようだ。本作を製作した「Cha Cha Cha Films」は、アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロの才能溢れる<スリー・アミーゴス>による製作会社。『ルドandクルシ』を皮切りに、ロドリゴ・ガルシア監督の新作、イニャリトゥ監督・ハビエル・バルデム主演の新作などが待機している。世界の映画界が注目する三人による設立なだけあって、すでにユニバーサル・ピクチャーズとの契約も結ばれたという。また、本作主演の二人も製作会社「Canana Films」を立ち上げている。すでにそれぞれの初監督作品を世に送り出すなど、活発な活動が続いているようだ。再びメキシコ映画の黄金時代がやってくるのか。今後の展開が期待される。


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『ルドandクルシ』
原題:Rudo y Cursi

2月20日(土)シネマライズ、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:カルロス・キュアロン
製作:アルフォンソ・キュアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロ
撮影:アダム・キンメル
美術:エウへニオ・カバレロ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、ギレルモ・フランチェラ、ドロレス・ヘレディア、アドリアナ・パズ、ジェシカ・マス

2008年/メキシコ/101分/カラー/ビスタサイズ
配給:東北新社

(C) 2008 CHA CHA CHA, INC.All rights reserved.

『ルドandクルシ』
オフィシャルサイト
http://www.rudo-movie.com/
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